焦点:サムスン電子、諸刃の「メイド・イン・チャイナ」戦略

2019/11/25 12:30
ロイター

ソウルで展示されたサムスンのスマートフォン
11月18日、韓国のサムスン電子は来年、スマートフォン製造の5分の1を中国にアウトソーシングする計画を立てている。写真は14日、ソウルで展示されたサムスンのスマートフォン(2019年 ロイター/Kim Hong-Ji)

[ソウル 18日 ロイター] – 韓国のサムスン電子は来年、スマートフォン製造の5分の1を中国にアウトソーシングする計画を立てている。

ファーウェイ(華為技術)やシャオミ(小米科技)といった低価格を武器とするライバルに対する競争力向上という点ではプラスになるかもしれないが、事情に通じた人々によれば、数々のリスクを伴う戦略だという。

サムスンは10月、中国でスマートフォンを製造していた最後の自社工場を閉鎖し、「ギャラクシーA」などの製造を、中国国外では知名度の低いウィングテック(聞泰科技)などの下請け企業に密かに移行しようとしている。

サムスンはアウトソーシングする生産量については明らかにしていないが、関係者によれば、来年はスマートフォンの総出荷台数約3億台のうち約6000万台は、中国のODM(他社ブランドによる設計・製造)企業に製造委託した製品になる予定だという。

ウィングテックをはじめとするODMは、ファーウェイやシャオミ、オッポ(広東欧珀移動通信)など、複数のブランドのスマートフォンを作り、相手先ブランドに規模の経済によるコスト抑制効果を提供しており、身軽な下請け企業として、低価格製品を迅速に開発・製造できる。

やむにやまれぬ戦略

一方で、サムスンの戦略はアウトソーシングによって品質管理能力を失い、専門的な製造能力も損なうリスクをはらむ。さらに、下請け企業の生産量を増やせば増やすほど、そのスケールメリットで下請けの生産コストが安くなり、その企業と取引をする競合他社を利する結果になりかねない、との指摘もある。

サムスンには、新たな品質問題に対処する余裕はほとんどない。2016年には主力の高価格機種「ギャラクシーノート7」が発火事故によって製造中止に追い込まれた。それに続き、今年は画面の不具合が確認され、折りたたみタイプのスマートフォンの発売が延期の憂き目を見た。

とはいえ、サムスンにとって、コスト削減の選択肢はライバルに追随する形で中国ODM企業を使う以外にほとんどない、と同社の戦略に詳しい関係者は言う。そもそも低価格スマートフォンの利幅がきわめて薄いためだ。

サムスンはロイターの取材に対し、既存の製品ポートフォリオを拡大し「市場における効率的な管理を確保するために」、ごく一部の生産ラインを自社工場以外に移そうとしているだけだと述べた。同社の中国事業に詳しい情報提供者は、「良い戦略というより、やむにやまれぬ戦略だ」と指摘する。

部品調達コスト、大きく削減

調査会社カウンターポイントによれば、ODM企業は、100ドル─250ドルのスマートフォンに必要な部品すべてを、中国国内の主要ブランド自社工場に比べて10─15%安く調達できる。

ウィングテックの場合、一部の部品については、サムスン電子がベトナムで調達している価格よりも最大30%安く入手できる、と関係者は言う。サムスンはベトナムに3カ所の工場を保有し、スマートフォン、テレビ、家電製品を製造している。

ウィングテックは2017年にサムスン向けのタブレット、スマートフォンの製造を開始した。現在はサムスン製スマートフォンの3%を製造。IHSマークイットでは、今年はその比率が8%(2300万台相当)に達すると予想している。

複数の情報提供者によれば、サムスンのアウトソーシング計画の対象になるのは低・中価格モデルの「ギャラクシーA」シリーズで、ウィングテックが設計・製造に参加するという。アウトソーシング対象機種の1つ「A6S」の価格は、中国では1299元(185ドル)からだ。

ウィングテックが製造するスマートフォンは、主として東南アジア・南米向けになるとみられる。サムスンはこの両地域で、ファーウェイのシェアを侵食しつつある。ファーウェイは米国の制裁により、新機種ではグーグルの全サービスを利用できず、苦境に立たされている。

低価格機種は「頭痛の種」

サムスンはグローバルなスマートフォン市場において首位を維持することに執着しているが、アナリストのなかには、どの企業にとっても低価格スマートフォン事業の利益率が低すぎることを考えれば、その戦略はリスクに見合わないのではないかとの懸念もある。

韓国のノムラでリサーチ部門を率いるCW・チャン氏は、「スマートフォンのローエンド機種は、サムスンにとって頭痛の種だ」と語る。

チャン氏によれば、低価格スマートフォンは今やコモディティ製品であり、自社工場で製造することは「ナンセンス」だという。だが、チャン氏をはじめとする専門家は、サムスンがODM企業への委託生産量を増やせば、請負企業側はコスト効率が高まり、経験・知識も蓄積されていくと言う。

さらに、カウンターポイントのアナリスト、トム・カン氏は、「ODM企業の競争力が増せば、ライバルはさらに競争力を高める」と述べ、大手企業がアウトソーシングによってローエンド機種の製造に必要な専門能力を失ってしまえば、そのノウハウを取り戻すことは容易でない、と指摘する。

サムスンは、かつてはアジアの低コスト製造企業として名を馳せた。ハイエンド家電製品の製造企業となった現在、サムスンが進めるアウトソーシング拡大は、かつてのような製造能力が今は低下している実態を示唆しているとCW・チャン氏も指摘する。

設計への関与、品質管理がカギ

ライバルである米国のアップルは、中国国内に複数の工場を持つ台湾フォックスコン・テクノロジー(鴻海科技)に製造をアウトソーシングしているが、スマートフォンの設計自体は依然としてカリフォルニアで行っている。

サムスンはロイターに対する電子メールでの回答のなかで、ODM企業が製造するスマートフォンについても、設計・開発の統括に関与すると述べている。

サムスンと中国のODM企業について詳しい人物によれば、下請けとなるODM企業は製造プロセスのいくつかのステップを省略することによりコストを削減しており、品質上の問題が増加する可能性があるという。この人物は、その詳細については触れなかった。

この人物は、サムスンではこうした問題を念頭に置いて、韓国の部品サプライヤーと中国のODM企業を組み合わせることにより、品質管理への配慮を強化していると話している。

韓国の部品サプライヤーの幹部は、「中国の下請け企業への製造委託を増やすロジックが戦略的なビジネス判断であることは理解しているが、だからといって、我々が皆それに満足しているというわけではない」と話す。

サムスンはロイターに対し、自社製デバイスのすべてに同一の品質検査・品質基準を適用してきたと述べ、高品質の製品を提供することに注力してきた、と言葉を添えた。

「もはやサバイバルゲーム」

従来サムスンはほとんどすべての自社製スマートフォンについて、自社内で設計を行い、ベトナム国内の多数の自社工場、さらに最近ではインド国内の自社工場で製造してきた。一方で、人件費の高い韓国内・中国内での製造は縮小している。

サムスンの社内事情に詳しい2人の人物によれば、同社で史上最年少の社長に就任したノ・テムン氏は、モバイル事業部門のナンバー2としての任務において、新たなODM戦略を推進しているという。

あるサムスン内部関係者は匿名を希望しつつ、「ファーウェイやその他の中国のスマートフォン製造企業に対抗するには、コスト削減が至上命題だ」と述べた。

他の韓国企業もアウトソーシングに力を入れている。スマートフォン事業で数年にわたって損失を計上しているLG電子では、ODM製造を低価格モデルから中価格モデルにまで拡大する予定だとしている。

サムスンのモバイル事業部門の元幹部で、現在は韓国の成均館大学で教鞭を取るキム・ヨンサク教授は、「スマートフォン事業は、コストをめぐる戦いになっている。もはやサバイバルゲームだ」と話す。

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