本書の著者は、企業における流通活動の遂行様式を「流通モード」と定義している。この流通モードの多様化という観点から、先端的・局所的な変化が複雑に絡まり合う流通業界の実態を、国内小売業の事例を踏まえながら統合的に解説しているのが本書である。
生産・消費・技術・法規制といった「流通インフラ」の変化を背景に、流通モードは絶えず進化し多様化している。筆者は本書の中で、流通モードには3つの基本軸があると述べている。どのような製品を取り扱うかという「取引対象」、誰を顧客対象とするかを示す「取引相手」、諸活動をどう編成して流通させようとするか、つまり生産と消費をどのように結びつけるかを表す「活動編成」である。
これらが決定することにより、流通モードが決まると筆者は解説する。3つの基本軸の重なりによってできる流通活動の複合体(=流通モード)を分析することで、流通業界全体を一望し、統合的に理解することができるというわけだ。
流通モードの一例が、本書の第2章で登場する「マス・モード」である。著者が“現代流通の原点”と位置づけるマス・モードは、量産体制を確立したメーカー企業による「マス・マーケティング・モード」、百貨店や総合スーパーなどの「総合小売モード」と2つの流通モードからなる。マス・モードは、中小規模の小売商や卸売商が担っていた「伝統モード」に取って代わり、現在も流通システムにおける支配的なモードとなっている。
しかし、経済発展が進んだ現在では、消費者の欲求が「必需」から「贅沢」志向に変化しつつある。この贅沢欲求への移行は、前述の3つの基本軸の1つである「取引対象」に大きな揺らぎをもたらし、新しい流通モードの形成につながっていると著者は説明する。本書第5章では、新流通モードの1つとして、従来のモードの優位形質を“スマート”に融合した「スマート・モード」を詳細に解説している。
さまざまな条件が複雑に絡まり合い、舵取りが難しい流通業界。だが、本書のいう「モード」という観点でその変化をとらえることができれば、企業の発展に生かすことができるかもしれない。
(『ダイヤモンド・チェーンストア』2019年6月1日号掲載)