[東京 25日 ロイター] – 任天堂の2020年3月期業績予想は、増収・営業増益の見通しとなった。家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」販売を前期よりも伸ばし、ソフト販売も引き続き好調を維持する見込み。米アップルや米グーグルがゲームプラットフォーム市場への参入を発表するなど、同社を取り巻く環境は一見厳しくみえるが、専門家からは「任天堂のコンテンツ力を考えれば、ネガティブ一辺倒ではないはずだ」と予測する声もある。
一方で、技術革新による業界の変化や社会全体の変革を無視できないとの指摘もあり、任天堂が新たなビジネスモデルを掲げることができるのかにも注目が集まっている。
<スイッチ後継に期待>
「スイッチは終わっておらず、2020年3月期はむしろ活性化する」──。みずほ証券・シニアアナリスト、小山武史氏は4月1日付のリポートでこう指摘。今期は巻き返しの年になるとの見方を示した。
任天堂は25日、今期のスイッチ販売は1800万台を計画していると発表した。前期実績の1695万台からさらに100万台超販売を伸ばす計画だ。ハード販売を支えるソフトの販売を前期の1億1855万本から1億2500万本に増やし、ハード販売を加速させる。
2017年3月に発売されたスイッチは、今年で3年目に入った。3月も含めた初年度の販売台数は1779万台(3月274万台、2年目は1505万台)と、世界で1億台以上売る大ヒットとなった「Wii」に匹敵する立ち上がりとなり、任天堂「復活」の原動力となった。
しかし、2年目を迎えた前期は当初2000万台の販売目標を掲げていたものの失速、1月末に1700万台への下方修正を余儀なくされた。結局、着地はそれをさらに下回る1695万台となり、先行きを不安視する市場関係者も少なからずいる。
Wiiは初年度(5カ月)584万台、2年目1861万台、3年目2595万台と尻上がりに増加していった。
その後、2053万台、1508万台と徐々にペースを落としたが、3年目までの勢いがライフサイクルの長期化を決定づけた。任天堂にとってはスイッチの3年目をしっかりと伸ばせるか、まさに正念場となる。
みずほ証券の小山氏は、前出のリポートで「スイッチの新型機の投入も想定され、販売の再活性化が期待される」と指摘。「スイッチの新型機が実質的に携帯型ゲーム機3DSの後継機として機能すれば、スイッチ・ファミリー全体として2021年3月期に向けても高水準の販売が続くとの期待感が高まるだろう」との見方を示した。
<ライバル参入も優位性維持か>
ただ、任天堂を取り巻く環境には不安要素も多くなってきている。その1つが米グーグルや米アップルのゲームプラットフォーム市場への参入だ。グーグルは3月19日、ブラウザベースのテレビゲームストリーミングサービス「STADIA」を発表した。ユーザーはインターネットブラウザ上で簡単にゲームを楽しむことができるという。
これについて、野村証券・アナリストの岡崎優氏は「インターネットの接続速度やコンテンツラインナップの拡充などが制約となり、当面は既存の家庭用ゲーム機の優位性が維持される」(4月12日付リポート)と指摘。
みずほ証券の小山氏も「ストリーミングゲームはゲーム配信手段のインフラであり、任天堂にとっても活用できれば恩恵が大きい」(前出リポート)と、両アナリストとも逆風にはならないとの見方を示した。
ただ、野村の岡崎氏は「中長期的な産業構造の変化が起こりつつある点は、否定できない」とも付け加え、新たな成長戦略の必要性も指摘している。
<中国参入でビジネス拡大へ>
こうした中、任天堂も手をこまねいているわけではなく、次の収益源への種まきを水面下で行っている。
そのひとつが中国市場への参入だ。中国の広東省当局は、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)がスイッチをゲームソフト「NewスーパーマリオブラザーズUデラックス」のテスト版とともに流通させることを認可した。
古川俊太郎社長は25日の会見で「テンセントと共同でビジネスを展開することで、中国におけるビジネス展開の最大化を図れるのではないか」と事業の拡大に意欲を示した。ただ、発売時期は未定で、今期の業績予想にも織り込んでいない。
野村証券のアナリスト、山村淳子氏はテンセントとの提携について「家庭用ゲーム事業だけでなく、デジタルビジネス(モバイルゲーム、オンラインゲーム含む)、5G登場に伴う新しい娯楽など、IP・コンテンツビジネスの包括的な展開に挑戦する可能性がある」(19日付リポート)とビジネスの広がりに期待感を示している。
(志田義寧 編集:田巻一彦)