テレビ通販国内最大手のジュピターショップチャンネル(東京都)が好業績を続けている。2015年度(16年3月期)業績は売上高1395億円(対前年度比2.2%増)、営業利益243億円(同9.0%増)と増収増益を果たした。創業20周年を迎える16年度も業績は好調に推移する。同社はどのような成長戦略を描くのか。篠原淳史社長に聞いた。
聞き手=下田健司(本誌)構成=小池晃臣(タマク)
女性顧客から支持、20期連続の増収へ
──創業以来、2015年度まで増収を続けています。
篠原 15年度の売上高は対前年度比2.2%増の1395億円となり、1996年11月の設立以来、19期連続での増収を達成しました。
15年度は、新規顧客向けと既存顧客向けの特別番組をバランスよく編成することで、幅広いお客さまからの支持を得ることができたのが増収要因の1つです。トピックとしては、開局19周年を迎えた15年11月1日に、1日の売上高が14億円を超え、過去最高記録を更新しました。12月には家電商品のみを24時間販売する特別番組「オールスター家電祭2015」を放送し、併せて全国紙2紙の朝刊で広告を打ったことも大きな売上効果がありました。
また、15年4月から不定期で放送していたインターネットサイトのみで視聴可能な生放送番組「ネットライブ」を、11月5日から毎日深夜0時から原則1時間の生放送へと本格展開しています。インターネットサイトの利便性と機能を向上させ、時間・場所・デバイスを問わずお客さまが「ショップチャンネル」での買物を楽しんでいただける環境を整え、お客さまとの接点拡大を図りました。
海外事業も堅調でした。13年11月にタイで放送を開始したショップ・グローバル・タイランドの経営を強化した結果、売上高、顧客数ともに順調に拡大しました。タイでは、信頼できるローカルパートナー2社と組んでいます。I.C.C. International Public Company(同国内流通大手サハグループ)とCentral Department Store(同国内小売最大手セントラルグループ)です。ショップ・グローバル・タイランドはこの2社とショップチャンネル、住友商事グループが出資しています。14年1月からは視聴可能世帯数が約1500万世帯となり、タイ全世帯数のおよそ7割にリーチすることが可能になるなど追い風が吹いており、タイのテレビショッピング市場におけるリーディングカンパニーの地位を確立しつつあります。
──16年度の重点施策は何ですか。
篠原 15年度は、12年度からスタートした新中期経営計画(5ヵ年計画)のもと、4つの重点施策「さらなる商品力・番組力・オペレーション力の強化による収益基盤の拡充」「顧客基盤の維持・拡大」「インターネット販売の強化・拡大」「海外市場への新規事業展開」に取り組んできました。16年度も引き続き、この重点施策に取り組んでいます。
創業20周年となる16年度も売上は順調に推移しています。今年4月21日には、掃除機「ダイソン」の1日の販売金額が約7.9億円となり、1日当たり1商品での販売額の過去最高記録を約8年ぶりに更新できました。20期連続の増収も達成できると見ています。
──ショップチャンネルの主要顧客層を教えてください。
篠原 16年3月末時点で、ショップチャンネルはケーブルテレビや衛星放送などを通じて、全国2914万世帯で視聴が可能です。お客さまの約90%が女性で、年齢では50歳以上のお客さまが半数以上を占めています。
年齢5分布で見ると、60代が最も多く34%、続いて50代が27%、40代が15%、70代以上が19%です。高感度の女性のお客さまがショップチャンネルを支えてくださっていますので、そうしたお客さまの期待に応えていくことで、成長を持続していきたいと考えています。
24時間完全生放送が成長の起爆剤に
──日本でテレビショッピングが定着してきた要因をどのように見ていますか。
篠原 テレビ番組の合間にCM的に流されていた時代を経て、1990年代初めに、米国の「インフォマーシャル」と呼ばれる業態が日本に持ち込まれました。それで、テレビショッピングが少しずつ定着していったのです。インフォマーシャルというのは、その名称からわかるとおり、「インフォメーション」と「コマーシャル」を合わせたコンセプトで、ターゲットを限定して1つの商品を30分くらいかけてじっくりと紹介するのが特徴です。
商品としてはおもに、ニッチではあるけれども、ユニークで魅力的な商品がいち早く取り上げられていきました。わかりやすい例としては、米国でヒットしたエクササイズの映像ソフト「ビリーズブートキャンプ」があります。日本でも、米国でヒットした商品をはじめ、そうしたニッチだけれども限りなくポテンシャルが高い商品がインフォマーシャルで販売されていきました。
インフォマーシャルが定着していった要因には、日本の民放のメディアとしてのパワーもあるでしょう。これがブレイクする背景にあったと思います。インフォマーシャルでヒットした商品には、ビリーズブートキャンプ以外にも、たとえば、洋楽のヒット曲を集めたコンピレーションCDや、それに続いて発売した日本のヒット曲を集めたコンピレーションのCDなどがありました。
──96年に設立されたショップチャンネルは、04年に日本のテレビショッピング専門チャンネルとして24時間完全生放送をスタートしています。
篠原 われわれの業態は米国で80年代半ばに誕生しました。96年に事業を開始した当社は、日本のお客さまに合わせた商品を開発することに力を入れていきました。国内でインフォマーシャルの波があり、一方でCATV(ケーブルテレビ)の普及も進んでいったことから、専門チャンネルとして24時間放送するタイミングが来たと判断し、自前のスタジオビルを持ち、24時間完全生放送を開始しました。それが04年のことです。
CATVの普及が続き、放送時間の拡大したことから、われわれにとっての“売場面積”もまた急速に拡大していきました。CATVの普及によってメディアの構造そのものも大きく変化していくなかで、CATVの1つのコンテンツとして確立していったと言えるでしょう。
──04年度から07年度にかけて、売上を倍以上も伸ばしています。
篠原 やはり、04年に24時間365日の完全生放送へと踏み切ったことが、1つの大きなターニングポイントとなりました。売上高は04年度の503億円から、翌05年度は761億円、そして07年度には1023億円と大きく伸ばすことができました。
ただし、そこからは成長速度が鈍化したのも事実です。理由としては、08年のリーマンショックも大きいのですが、それ以上に「1000億円の壁」がありました。売上規模が1000億円を超えてくると、ビジネスとして成熟し、新規のお客さまを獲得するのが難しくなってくるのです。これは当社だけでなく、他業態も含めた、年間売上1000億円超の通信販売のすべての企業が経験しているはずです。
私は07に社長に就きましたが、1000億円の壁をどう乗り越えるか、試行錯誤の連続でした。ですから、少しずつではあっても、毎年確実に増収を積み重ねていくということは、とても重要なことだと考えています。
番組でじっくり伝える商品の魅力と価値
──次の成長に向けてどのようなことに力を入れていきますか。
篠原 新中期経営計画の重点施策に掲げている商品力・番組力・オペレーション力の強化に愚直に取り組んでいくしかないと考えています。商品力と番組力という攻めと、オペレーション力という守りを、ともに強くしていく。これはこの先も一貫して取り組むべき最重要テーマです。しっかりと収益を確保し続けているのも、これらを三位一体としてとらえ、取り組んできたことの結果だと考えています。
20年間の成長を支えてきた商品力・番組力・オペレーション力のさらなる強化に取り組みながら、当社のスローガンである「心おどる、瞬間を。もっと。」をお客さまに提供していきたいと考えています。
──やはり、商品力の強化は、もっとも重要なテーマですよね。
篠原 小売業ですから、商品は第一です。当社の商品は、価値が高く、それに説得力があります。そして、たえずこの商品力を磨き上げることに重きを置いています。ショップチャンネルは、商品を店頭で販売するのとは異なり、番組で30分~1時間かけて商品の魅力をじっくり言葉と映像で伝えることができます。ですからそれに見合った商品であるかどうかが非常に重要になってくるのです。
ショップチャンネルの番組では、ファッションをはじめ、コスメ、家庭用品、健康グッズ、グルメなど、世界中から厳選した商品を毎週約700アイテム紹介しており、お客さまは24時間いつでも注文することができます。毎週紹介する約700アイテムのうち約半数は新商品です。ショップチャンネルがお客さまから高い支持を得ている理由の1つは、こうした圧倒的な商品数にあると自負しています。
商品カテゴリー別の売上構成比を見てみると、「ジュエリー&ファッション」が37%と最も高く、「コスメ&美容・健康」が32%、「ホーム&家電」が20%、「グルメその他」が11%と続いています。そして、この豊富な商品ラインアップを支えているのが、よい商品を求めて国内外を駆け回るバイヤーたちです。彼らは、日本国内はもちろん世界中にアンテナを張り巡らせて、価値ある商品の発掘に注力しています。
また長きにわたってメーカーとウィン・ウィンの関係を築いてきていることも、商品力につながっていると言えるでしょう。どちらかが無理を言っていたのでは、よい関係は続きません。たとえば、掃除機のダイソンとは一緒にマーケットをつくり上げてきたという思いがあります。
──番組力についてはいかがですか。
篠原 メーカーとのウィン・ウィンの関係はショップチャンネルの力の源泉ですし、商品力のみならず番組力にもつながっています。なぜならば、強いこだわりを持って丹精を込めて商品をつくっているメーカーの担当者が実際に番組で話すことで、その魅力や開発にかけた思いがお客さまに伝わるからです。そうしたつくり手の思いと、番組づくりのテクニックが相まって番組力を生み出しています。
生放送ですから、お客さまが番組を見ていてわからないことがあれば、すぐにコールセンターに電話で問い合わせることも可能です。そうした声を参考に、コールセンターとスタジオが直接連携して、番組内でリアルタイムに新たな説明を加えたりしています。
また、一気に注文が増えた場合などに、出演者の言葉、商品デモ、お客さまの生電話などの中から、どれに反応したのかを、2秒ごとに更新されるデータを確認して把握するようにしています。このようなスタジオとコールセンターの連携、システムを通じたリアルタイムのデータ把握によって、今この瞬間のお客さまの反応に合わせて商品紹介の切り口を臨機応変に変えながら、番組を進行しています。
──オペレーション力はどういうことを指しますか。
篠原 当社は、1日当たり7万1000件のお電話、4万2000箱の出荷数を継続して処理し続けられる体制を整えています。
コールセンターで受注し、お客さまに商品を確実にお届けし、もし問い合わせがあれば丁寧に対応するというのがオペレーション力の根幹です。注文以外の問い合わせも1日2500件以上、寄せられています。お客さまからの声は非常に大切です。今日のお客さまの声のキーワードは何だったのかといったことを日々分析して可視化できるようにしています。そしてその結果を品揃えに反映したりすることで、顧客価値の向上につなげているのです。
ジェイコム、KDDI シナジーに期待
──今年3月、ジュピターテレコム、KDDIという新しい株主が加わりました。どのような協業を考えていますか。
篠原 新しく株主に加わったジュピターテレコム、KDDIとのパートナーシップのもと、各社の強みを生かしたシナジーによって、顧客基盤やインターネット販売の拡大へも注力していきたいと考えています。具体的な施策はこれからになりますが、たとえばauのユーザーにどのような商品が気に入ってもらえるのかモニターするだけでもシナジーを発揮できるでしょう。
今後の成長を考えていくと、最大ボリューム層となるであろう40代の女性と向き合っていく必要があります。40代の女性は、その上の世代と比べるとテレビを見ない傾向にあります。ですから、テレビだけでなく、パソコンやスマホなどより多くのチャネルを活用しながら訴求していく必要があります。たとえばスマホからでも1時間視聴してもらえるような番組づくりとはどのようなものか考えていかなければなりません。オムニチャネルも含めて、お客さまが好きな場所で好きな商品を見てもらえる環境を整えることに力を入れていきたいと思います。協業が生かされる分野は増えていくでしょう。