靴をメーンにバッグや衣料品、スポーツ用品などのネット通販(EC)サイト「LOCONDO」を運営するロコンド(東京都)。EC事業においては品揃えの幅を広げて取扱高を伸ばしている。また、小売業のECサイトの開発・運営や実店舗運営をサポートするプラットフォーム事業も軌道に乗りつつあり、2015年10月には創業以来、初めて単月で黒字化した。これからの成長戦略について、田中裕輔社長に聞いた。
聞き手=下田健司(ダイヤモンド・チェーンストア誌)
2015年10月に単月黒字化を達成
たなか・ゆうすけ●2003年一橋大学経済学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。09年カリフォルニア大学バークレー校経営大学院でMBA(経営学修士)取得。同年、DeNA Globalにおいてマーケティング・製品担当上級副社長を経て、11年1月にジェイド(現ロコンド)の創業に参画。同年5月に代表取締役社長に就任(現任)
──ロコンドの立ち上げや社長に就任された経緯について教えてください。
田中 ロコンドの前身であるジェイドは2010年10月、ドイツのベンチャーキャピタル、ロケット・インターネットの100%出資の会社として設立されました。ロケット・インターネットは現在のロコンドと同様、靴や衣料品を扱うファッション系ECサイト「zalando(ザランド)」を運営しており、この事業を世界展開しようと日本、ブラジル、ロシアなどで同時期に事業をスタートしました。当社は会社設立後、事業展開を急ピッチで進めたものの、早々に資金が底をつく状況に陥りました。
私は米国で経営学修士号(MBA)を取得後、ロケット・インターネットのインターンとして11年1月からジェイドで働いていました。インターンという立場ではあるものの、倒産だけはなんとか食い止めようとロケット・インターネットの社長との話し合いを行った結果、私が代表取締役を引き受けるならば追加投資するという承諾を得て、11年5月から社長を務めることになったのです。
私自身は靴とファッションのECというビジネスに可能性があると考えていました。というのも07~10年に米国に留学していた際、靴とファッションのECサイト「Zappos.com(ザッポス・ドットコム)」の創業者であるトニー・シェイCEO(最高経営責任者)の話を聞く機会があり、このビジネスに大きな可能性を感じたからです。
12年8月に現社名に変更しました。15年10月に初めて単月で黒字化を達成。16年2月期には取扱高が100億円に到達しました。取扱高100億円を損益分岐点と想定していたので、ようやく利益拡大の局面に入ったと考えています。
──事業展開はECがメーンになるのですか。
田中 ロコンドの事業は大きく分けて2つあります。1つめはEC事業、2つめがプラットフォーム事業です。現在の売上のメーンがECサイト「ロコンド」の運営・管理を行うEC事業で、プラットフォーム事業と合わせて売上高の9割以上を占めています。
私は米国留学前、マッキンゼーの経営コンサルタントとして仕事をしており、たくさんの小売企業の店舗を実際に見てきました。多くの店舗のバックヤードを見てきて感じたことは、靴ほど「店舗販売には向かない」商品はないということです。靴は色やサイズのバリエーションがあるため、販売できるスペースの限られた店舗では置ける数が制限されてしまい、どうしても欠品になりやすい。ではECに向いているかといえば、試着ができないために購入に結びつけることが難しい、といわれていました。
これらの問題点を解消した結果、靴を試着できるECサイトという独自性を打ち出すことが可能になりました。アパレル関連の小売業の売上高の多くは実店舗が占めており、ECの比率はわずか6~7%前後に過ぎないといわれています。ECでのファッション関連商品の購入についてアンケートを取ると、購入しない理由で最も多いのが「試着できないから」です。つまり、試着さえできれば、ECで購入するお客さまもいるということになります。
──靴以外にも扱っている商品はあるのですか。
田中 現在は靴だけでなく、バッグや衣料品、ほかにもゴルフクラブやテニスラケットなどのスポーツ用品まで扱っています。アイテム数は約10万SKU以上、当社倉庫の在庫は約100万ピースを数えます。
これら全商品を試してから買えますし、一部を除いてサイズ交換はもちろん、返品も返送料無料で承っています。さらに、お客さまの疑問にお答えするため、午前10時から午後6時まで専任のコンシェルジュがお客さまからの問い合わせに対応しています。
EC事業の売上高構成比は、靴が6~7割、バッグが2割、衣料品が1~2割、そのほかにアクセサリーなどの雑貨となっています。商品の価格帯は2000円台~10万円を超えるものまで幅広く、お客さまの1回当たりの購入金額の平均は約1万2000円です。
当社は20代から60代まで幅広い年齢層のお客さまから利用いただいており、メーンの購入層はファッションに敏感な30~40代の女性です。この世代は小さな子供を持つ方が多く、店舗でゆっくり試着したくても子供と一緒では難しい。われわれはそうした悩みの解決をめざしています。
EC開発の知見生かしたプラットフォーム事業
──プラットフォーム事業について具体的に教えてください。
田中 当社のプラットフォーム事業は、EC事業で培った知見やノウハウを活用して、ほかの企業のECサイトの開発や運営をサポートするというものです。
プラットフォーム事業では3つのサービスを提供しています。
1つめが、他社のECサイトの開発・運用を当社が代行して行う「BOEM(Brand’sOfficial E-commerce Management)」というサービスです。BOEMでは、当社の倉庫で商品撮影から在庫管理、物流までをサポートします。サービス利用企業の商品を当社の倉庫に保管し、自社ECサイトだけでなく、「ロコンド」のECサイトでも販売することが大きな特徴です。現在、サマンサタバサジャパンリミテッド(東京都/寺田和正社長)様やアルペン(愛知県/水野泰三社長)様など8社の運営を支援しています。
2つめが「BOSS(Brand’s OverallStrategy Support)」というサービスです。当社がサービス利用企業のECサイトの開発・運営を行うとともに、当社ECと在庫を共通化するBOEMに対し、BOSSでは実店舗の在庫を含めた、サービス利用企業の在庫すべてを当社との共通在庫にするのが特徴です。小売業は、商品を現金化するために在庫の回転率を上げることが非常に重要になります。アパレル関連の小売業の多くは、製造工場から仕入れた商品を自社倉庫にいったん保管したうえで、さらにEC専用倉庫に送ったり、店舗に配送したりしています。しかし、工場から受け取って配送する時間や保管する時間が長ければ長いほど、在庫回転率は下がることになります。
こうした状況を打開すべく、われわれは製造工場から当社の倉庫に着いた瞬間からオンラインで販売したり、迅速に実店舗に送ったりすることで在庫回転率を改善できるようにしました。このサービスは15年8月からスタートしたのですが、通常の店舗に配送するだけでなく、全国の百貨店にも送ることができる機能を付加したことで、導入した企業から高い評価を得ています。
3つめのサービスが、資本業務提携しているアルペン様と15年4月に共同開発した「LOCOCHOC(ロコチョク)」です。当社に預けた在庫商品をECだけでなくリアル店舗にも送ることができるのがBOSSのサービスですが、お客さまのご自宅に直接、配送ができるサービスがロコチョクです。
アパレル業界では、店舗に在庫できる数が限られているために、色やサイズにおいて欠品になるケースがよくあります。ロコチョクならば実店舗に在庫がない場合でも、お客さまが店頭にある専用端末で注文し、支払いを済ませれば、自宅で受け取ることができるのです。
(左)ECサイト「LOCONDO」では、靴をメーンにファッション関連の商品を約10万SKU取り扱う
(右)社内のコンシェルジュがお客の相談に電話やメールで対応する
──プラットフォーム事業に乗り出したきっかけは何ですか。
田中 プラットフォーム事業のコンセプトは、シンプルに言えば、在庫を共通化して、商品回転率を上げることです。当社は商品が売れた際に仕入れとして計上する消化仕入れを採用しているので、売れ残りを心配する必要はありません。ですから当社とすれば倉庫に在庫する商品は多ければ多いほどいいですが、アパレルメーカーや小売企業はそうはいきません。商品が売れ残ると収益を大きく圧迫します。
当社が在庫を増やすためには、多くの小売企業との取引が必要になります。そのため、小売企業を訪問して話を聞いて回ったところ、ある会社では「ECサイトを開発してくれたら在庫を預ける(BOEMサービス)」、ある会社では「在庫を預けるのは構わないので、それを実店舗へも配送できるようにしてほしい(BOSSサービス)」、「実店舗の欠品分のフォローをお願いしたい(ロコチョクサービス)」といったようにさまざまなニーズがあることがわかったのです。プラットフォーム事業の開発は、こうしたアパレルメーカーや小売企業の課題を解決する過程から自然発生的に生まれたものです。これは課題解決を基軸とする、私のコンサルティングの経験も関係しているのだと思います。
ECの取扱高の拡大に加えて、プラットフォーム事業の売上高も順調に伸びていることもあり、17年3月には物流拠点の移転・拡張を予定しています。倉庫面積は現状の約5000坪から2倍の約1万坪にする予定です。
課題解決の提案を続ける
社内のスタジオで商品を撮影する。他社のECサイト運営をサポートするプラットフォーム事業では写真撮影から物流までサポートする
──新たに取り組んでいる事業はありますか。
田中 新たな取り組みとして、海外ブランドの日本進出のサポートに力を入れます。当社のプラットフォームの活用を積極的に進めていきたい。
その第一弾として、イギリスのグローバルアパレルブランド「ALLSAINTS(オールセインツ)」に、16年4月よりサービス提供を始めています。海外のブランドが日本に進出する場合、在庫管理や物流などゼロから始めるのは大変な労力がかかります。しかし、当社が提供するサービスを利用すれば、在庫管理はもちろん、実店舗でもECサイトでも商品を販売できる。オールセインツからはECサイトの開発から運用、在庫管理、商品の発送までバックヤード業務をBOEM、BOSS、ロコチョクのフルパッケージでサービスを提供する点で評価を受けています。
そして、ロコチョクの展開も強化します。現在、ロコチョクのサービスの対象となるのは利用企業が扱っているブランドのみです。これを百貨店向けに、ロコンドで取り扱っている1400ブランドを店舗で注文できる「ロコチョクD」をローンチします。
最近、日本全国の百貨店を回っていて、アパレルや靴など、とくに地方の百貨店は欠品が多く、扱うブランドの数も少ないと気づきました。そこで店頭に在庫がない場合、ロコンドのECサイトで扱う10万アイテムを店頭で販売員が注文すると、店舗またはお客さまの自宅に配送するというシステムを開発しました。現在はいくつかの百貨店で導入に向けた商談を進めている最中で、最短では今年の8月にサービスを開始します。
たとえば、当社はイタリアの婦人靴ブランド「FABIO RUSCONI (ファビオ ルスコーニ)」の商品を約500アイテム取り揃えていますが、百貨店で同規模の商品を取り揃えることは不可能でしょう。百貨店はロコチョクDのサービスを利用することで、欠品による販売機会の損失が減ります。また、アパレルメーカーにとっては実店舗の設備や販売員などの投資ゼロで販路を広げられるため、Win-Winの関係を築くことが可能になるのです。
(上)商品を発送する様子。無料でサイズ交換や返品に対応する
──今年2月、楽天(東京都/三木谷浩史社長)と資本提携しましたが、どのようなねらいがあるのですか。
田中 昨年秋に楽天さんのECモール「楽天市場」内に「LOCOMALL(ロコモール)楽天店」を開設しました。同店の売上が好調なことから、協業体制を強化したいと考え、締結に至りました。
まずはこのロコモールの規模をさらに拡大するのが先決ですが、楽天さんは今年から「楽天グローバルマーケット」を展開するなど、中国を中心としたアジア市場の開拓に力を入れています。当社は海外展開を視野に入れているので、この分野でも楽天さんの力を借りたいと考えています。
──成長戦略を描くうえで、目標としている数値はありますか。
田中 中長期的には20年に取扱高1000億円という目標を掲げています。目標達成に向けて、EC事業、プラットフォーム事業それぞれの拡張はもちろん、M&A(合併・買収)による規模拡大を加速させることも検討しています。ファッションEC専業企業は、合従連衡が進んでいますが、まだまだ可能性のある企業も多くあります。われわれはすでにECのプラットフォームを持っているので、ファッションを中心に幅広いパートナーを選択できると考えています。
品揃えの幅を広げる意味でも、アパレルメーカーや小売企業との間にもっと密な関係を構築したい。そのためには商品を預かり、ECサイトで販売するだけではなく、利用企業の抱えている課題をトータルに解決する提案を続けていきたいと考えています。
16年2月期の売上高は約100億円、内訳はEC事業が出荷高ベースで約80億円、プラットフォーム事業が約20億円です。目標を達成するためには主力のEC事業の売上高を伸ばすことはもちろんですが、プラットフォーム事業の拡大も重要になると考えています。目標とする売上高1000億円の内訳ですが、EC事業が50%、プラットフォーム事業が50%と見込んでいます。