3月3日からの4日間、千葉県千葉市の幕張メッセにて「FOODEX JAPAN 2015」が開催される。1976年に始まったこの食品・飲料の専門展示会は、今回で40回目を迎える。今や83の国と地域から約2800社が出展。7万5000人が来場する国際的なビッグイベントとなった。その特徴と成功の要因を日本能率協会(東京都)の中村正己理事長に聞いた。
聞き手=千田直哉(チェーンストアエイジ)
構成=太田美和子(フードマーケット・クリエイティブ)
アジアの“ハブ”展示会
──3月3日から6日までの4日間、幕張メッセで「FOODEX JAPAN 2015」が開催されます。特徴や見どころを教えてください。
中村正己 なかむら・まさみ
1953年生まれ。75年4月日本能率協会入職。94年4月産業振興本部長、2000年6月理事産業振興本部長、03年4月理事経営・人材革新事業本部長、06年4月理事・事務局長、06年6月専務理事・事務局長(理事長代行)、09年6月理事長事務局長、12年4月一般社団法人日本能率協会理事長(現在)。
中村 今回で40回目となる「FOODEX JAPAN 2015」は、これまでで最大規模になる見込みです。
今年はデンマーク、フィンランドなどヨーロッパからの出展が増えました。それは、EUとの経済連携協定(EPA)によるワイン関税の撤廃交渉や、円安などの経済環境の変化の影響もありますが、日本を含めたアジアが、食のマーケットとして期待されている証なのだと思います。
出展国の皆さまからは、世界各国の展示会の中でもFOODEX JAPANに対してとても高い評価をいただいています。FOODEX JAPANは、日本はもちろん韓国、中国、台湾など近隣国・地域のバイヤーとも商談ができる、アジアの“ハブ”ともいえる展示会だと喜んでいただいています。
今回、新たに「KANPAI JAPAN(カンパイ・ジャパン)」という企画を開催します。これは、日本で製造された日本酒、地ビール、ワインなどが一堂に会したコーナーです。昨今、とくに評価の高い日本で生まれたお酒を、海外のバイヤーにアピールしようというものです。
FOODEX JAPANは、幅広く海外の食品・飲料を紹介できるのが大きな魅力ですが、今後は日本の食品・飲料の輸出にもさらに注力していく考えです。FOODEX JAPANには毎年1万人近くの海外のバイヤーが訪れます。出展すれば日本に居ながらにして海外への販路開拓ができます。
また、「美食女子グランプリ」を今年も開催します。今回で3回目となるこの企画は、食に精通した栄養士やフードコーディネーターなど約60人からなる「FOODEX美食女子」グループが女性の目線で「味」「オリジナリティ」など7つの指標でエントリー商品を審査し、グランプリを決定するものです。
この企画では、受賞後、「実際に売上が大幅に上がった」といった喜びの声をいただくケースがとても多い。消費を牽引する20代から40代の女性たちが先入観なく厳しい目で選出しており、「女性目線」が売れ筋をつくることを証明しているといえます。
今回、「FOODEX美食女子グランプリ」から派生して、お母さんの視点で商品を審査する「ママの愛グランプリ」を初開催します。同じ女性でも、お母さんになると食品を選ぶポイントが変わることに着目しました。離乳食が終わった幼児から小学生までのお子さんの視点も加えての審査の結果を、FOODEX JAPANの会期初日に発表します。
──前回のFOODEX JAPANでは、ハラール食品のセミナーが盛況でした。
中村 FOODEX JAPANは商談の場であると同時に、情報提供という役割があります。
FOODEX JAPAN企画委員会で委員の皆さまから多くのご意見をいただくなかで、ハラールに関する情報が欲しいとの複数の声をいただきました。
そこで、前回からハラールに関するセミナーを開催しています。前回は1000人を超える方々に聴講していただきました。今回は、前回とは異なるテーマでセミナーを開催します。ハラールとは何か、各社がこのマーケットにどう取り組んでいくかについて、多面的に情報を提供していきます。
世界各国の食文化を一つひとつしっかりと日本に伝える。FOODEX JAPANでは、このような姿勢を大切なことととらえ、これまでの40年間、変わらず実践してきました。
また、今回は幕張メッセの9・10ホールで当協会主催の新規展示会「中国食品飲料展」「和食産業展」「フードパック&ロジスティクス」を同時開催します。これらの展示会を合わせると、食に関する催しとしては、名実ともに日本最大といえます。
日本の経済成長とともに規模は拡大
──FOODEX JAPANは、国内から約1000社、海外から約1800社が出展するアジア最大級の食品・飲料専門展示会に成長しました。日本経済の発展と共に歩んできた展示会です。
中村 私が日本能率協会に入職したのは、ちょうどFOODEX JAPANの立ち上げと同時期でした。当時、東京都中央区晴海にあった東京国際見本市会場で「国際ホテル・レストラン・ショー」の中の特別展示企画としてFOODEX JAPANはスタートしました。
時流に乗ったこともあるのでしょうが、年を経るごとに規模が大きくなっていきました。1976年の第1回には163社だった出展企業が、第10回には552社となり、第15回を迎えた90年には会場を新設されたばかりの幕張メッセに移し、現在のようなかたちの展示会になりました。
FOODEX JAPANを企画した当時のマネジャーは、最初から国際的な展示会をめざしていました。自ら鞄一つで世界中を飛び回って、出展国を少しずつ増やしていきました。その後、彼のパッションをわれわれがしっかりと引き継ぎました。毎年1ヵ国、2ヵ国と出展国が増えていく。それは何にも代えがたい達成感でした。
97年から98年にかけて、赤ワインが大きなブームとなりましたが、実はFOODEX JAPANがこのブームの火付け役だと言えると思います。というのも、ブームに先駆け、89年に、特別企画の「International Wine & Spirits Fair」を実施し、世界の未輸入ワインの集中展示と特別セミナーを開催したからです。FOODEX JAPANには以前からイタリア、フランスを中心としてワインを出展いただいてきましたが、この頃からオーストラリアや南米のワインも出展されるようになってきました。今や、海外から約300社がワインを出展しています。こうしてみると、ワインが日本の市場に普及するうえでFOODEX JAPANが果たした役割は大きかったと自負しています。
ワインに限らず海外からの食材、食文化を幅広く楽しめるようになり、日本人の食生活が豊かになっていきました。それにもこの40年間、貢献し続けてきたのではないかと思っています。
どの業種でもそうであると思いますが、事業で重要なことは半歩前を行くことです。展示会を主催するわれわれ自身が半歩前を歩くためには、世界各地の出展者に会って対話を続けることが何よりも重要だと思っています。
37社の海外バイヤーを招聘
──海外からの来場者数も年々増え、前回は8000人を超えたと聞いています。FOODEX JAPANの特徴と成長要因をどのようにとらえていますか。
中村 日本能率協会が描くFOODEX JAPANのありたい姿は、質、量ともにアジアでナンバーワンの最高の展示会です。それをめざしてこの40年間取り組んできました。第1回からぶれていない点は、出展企業のビジネスチャンス創出を追求することです。
そのために最も必要なことは、購買決定権のある質の高い来場層にご来場いただき、商談していただくことです。
また、海外からもいかに質の高いバイヤーにお越しいただけるかが、展示会の品質を上げるカギとなります。そのためにFOODEX JAPANはアジア諸国から大手小売業や外食企業のバイヤーを長年にわたり招聘しています。そのようなパイプづくりをしていると、その後は毎年来場していただけるようになります。今回は前回よりも招聘企業を12社増やし、37社の海外バイヤーをお招きします。今後はほかの地域からも招聘して新たなパイプづくりをしていきたいと考えています。
このように、質の高いバイヤーに来ていただくことについては、長年、知恵と時間とお金を投資してきました。
とにかくビジネスの場として研ぎ澄ませたいのです。出展企業と来場されるバイヤーがしっかりと商談できる場づくりに取り組み続けてきました。
たとえば、大手小売業、外食産業のバイヤー専用商談室を09年から設置。個別企業のバイヤーに対して、出展者が商品を直接売り込める事前アポイント制の「逆商談会」を開催しています。
さらに10年からは、商談サポーター制度を導入しました。中間流通の方々が「FOODEX商談サポーター」として出展者と来場者とのスムーズな商談のお手伝いをする制度です。
活発なビジネスの場となることを重視
──展示会の中身をどのようにブラッシュアップしているのですか。
中村 展示会が終わると、国内外の出展企業や団体を訪問しています。出展成果や主催者企画など、さまざまな視点から展示会についての意見を聞かせていただき、その次の企画に反映させるためです。それを愚直に繰り返して40年やってきました。
褒めていただくよりも、「あれが足りなかった」「次はこうして欲しい」というお話を聞くことのほうが展示会としては成長できます。満点に近づけるために、出展者や来場者の声を真摯に受け止めて、毎年少しずつでも会場に反映させていくアクションが大切だと思います。
たとえば、いかに来場者の方々に見やすいゾーニングにするかについては、毎回ヒヤリングをさせていただいており、いろいろな知恵をいただきます。
そして、会場を商品ジャンルでまとめる、地域でまとめるなど、改善につぐ改善を重ねてきました。毎年、少しずつよくなっていったと思います。前回は、はじめて海外ゾーンをヨーロッパ、中北南米・オセアニア・アフリカ・中東、アジアごとのエリアでゾーニングしました。
要は、来場されたバイヤーがいかに効率的に商品を探せるか、見やすいか、対話しやすいかです。そのための空間づくりを年々進化させてきました。幕張メッセの1ホールから8ホールまでを使っていますから、広い会場の中でうまく時間を使って効率的に商談につなげていただきたいのです。
──今後、注目している分野、あるいは拡大していきたい分野は何ですか。
中村 FOODEX JAPANは、食品・飲料の専門展示会で、それに関連するすべてのジャンルを網羅してはいますが、まだ意外ととりこぼしはあるものです。今後、強化する余地のある領域として水産物がひとつあげられます。海外のおいしい魚をFOODEX JAPANの中でさらに紹介できればと思います。
海外へ出展の折衝にいく際には、「あなたの国のこの製品を出展してください。日本のマーケットはその食品を望んでいます」という提案の仕方をします。何でもいいから出展してもらうのではなく、その国の強みとなる食品を特定し、「その魅力を来場されるバイヤーへアピールすることで、ビジネスは成功します」と交渉します。
これもFOODEX JAPANが40年やり続けてきたことです。出展国数が83ヵ国・地域まで増えた理由は、この成果が評価され続けているからだと思います。
活発なビジネスの場となることをいちばん大事にしていますし、今後もそれをつくり上げていきたいと思っています。ぜひ今年もご期待ください。