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夢展望株式会社 代表取締役社長 岡 隆宏
「価格競争から脱しようとSPAを志向した」

衣料品、雑貨などのインターネット販売を手がける夢展望(大阪府/岡隆宏社長)。自社で商品開発するSPA(製造小売)型企業で近年、業績を伸ばし注目を集めている。昨年7月、東証マザーズ上場を機に、展開ブランドを積極的に拡充、新たな年齢層、テイストをカバーすることでさらなる成長をめざす。座右の銘は「七転び八起き」という岡隆宏社長に戦略を聞いた。

聞き手=千田直哉(チェーンストアエイジ) 構成=森本守人(サテライトスコープ)


スマホ経由の売上が8割

──夢展望のビジネスモデルはどのようなものですか。

 

夢展望株式会社 代表取締役社長
岡 隆宏 おか・たかひろ
1961年大阪府生まれ、85年関西学院大学商学部卒業、98年ドリームビジョン設立(08年夢展望に社名変更)、代表取締役社長(現任)

 衣料品や雑貨をインターネットを通じ販売しています。メインターゲットは、20歳代前後の若い女性です。

 

 ファッション分野において、ネット通販市場は急速に成長しています。あるシンクタンクによれば、2010年は4652億円規模でしたが、15年には9500億円と倍増するとの予測です。これに対し、当社ではとくにスマートフォン(スマホ)を経由する通信販売に力を入れています。

 

 現在、当社の販売チャネル別の売上高構成比はスマホ80%、スマホ以外の携帯電話(ガラケー)11%、パソコン(PC)9%。同様の事業を展開する企業では、スマホによる比率は通常、35~45%といったところです。

 

──ネット通販では、具体的にはどのように商品を売っているのですか。

 

 自社で運営するWEBサイトのほか、楽天などインターネットショッピングモール内にバーチャル店舗を構えており、利用者は会員登録すれば、誰でも買い物ができる仕組みです。5月現在、会員は計150万人で、うち自社サイトによるものは約100万人。購入者の平均年齢は26.4歳、利用頻度が最も高いのは22歳です。商品の平均単価は約2000円、利用者1人あたりの客単価は約5000円です。

 

──サイトには、若い女性が好みそうな、かわいらしいブランドがいくつも並んでいますね。

 

 「ディアブルベーゼ」「ディアマイラブ」「ニューリーミー」といった年齢層やテイストが異なる主要3ブランドに加え、最近新たに増やしたものを含め、現在は10前後のブランドを展開しています。

 

──どの商品も安いですね。なぜその値段で販売できるのですか。

 

 商品を自社で開発するSPA型の企業だからです。商品の企画、材料の調達、生産、販売までのすべてを手がけることで流通段階で発生する中間マージンを削減、競争力ある価格を実現しています。

 

──ユニークなビジネスモデルにより業績を拡大。昨年7月には東証マザーズ上場を果たしました。13年9月期(連結)の売上高は67億6400万円(対前期比9.1%増)、営業利益1億6700万円(同3.6%増)、経常利益1億600万円(同4.2%増)。売上規模は、わずか5年間で2倍以上になった計算です。

 

 ただ最新の14年9月期第2四半期は赤字決算で、営業利益は1億3000万円、経常利益も1億5300万円といずれもマイナスでした。円安により衣料品を中心に輸入原価が上昇、これを価格に転嫁できなかったことが主な原因です。しかし業績回復のための次なる手はすでに打ってあり、今後は着実に利益を出せると見込んでいます。

一貫しエンタメ性を追求

──座右の銘は「七転び八起き」とのことですが、数々の経験を経て、現在のビジネスのかたちへたどり着いたそうですね。そもそも商売に興味を持ったのはなぜですか。

 

 大学時代は、当時、話題になり始めていたレンタルレコード店でアルバイトしていました。テニスサークルのほか、広告研究会にも入っていたのですが、そこで得た手法を生かそうと考えていました。実際、レンタルレコード店のオーナーと一緒に戦略を練り、5~6店まで広げました。商売に目覚めたのはその時です。

 

──卒業後は一旦、メーカーに入社したのですね。

 

 そうです。就職したのは大企業で、出世意欲はありました。しかしある日、先輩から賃金テーブル見せてもらい、7年先まで自分の給料がすでに決まっている事実に大きな衝撃を受け、研修終了後に辞めてしまいました。

 

 それから学生時代にアルバイトしていた会社に社員として戻って、多様なビジネスに携わりました。ビデオやゲームソフトのレンタル、販売、電子玩具の製造、卸などですが、一度はうまくいくものの、いずれも何かの問題が起き、危機を迎えるということの連続でした。

 

──そして98年に独立、会社を設立されます。

 

 当時、フィギュアやトレーディングカードといったホビー関連商品の製造、卸をやっていました。その後、健康関連の仕事をやろうとダイエット食品の販売にも着手しました。しかし経営はなかなか安定しませんでした。

 

 ある時、新たな商品を検討したことがありました。当時、ガラケーサイトの会員は10万人おり、全員が若い女性でした。社員皆で検討したところ、服や靴、バッグ、グルメ関連、家電などの意見が出たので、それらすべてを販売することにしました。試験的に2ヵ月続け、最も反応がよかったのがブーツ。そこで会社の経営資源をそこへ集中させることにしました。07年頃の話です。

 

──以降、ファッション関連の商品がメインになる。

 

 実際には、販売チャネルがガラケーからスマホへ移行するにあたり、いくつもの波乱があったのですが、徐々に衣料品への需要が多くなりました。

 

 振り返れば、当社の歩みは脈絡がないように見えるかもしれません。しかし自分としては「エンターテイメント性」を追求してきたことで一貫していると考えています。私は基本的に、人をわくわくどきどきさせることが好きです。現在も、商品の見せ方、提案といったあらゆる面でエンタメ性の要素を盛り込みたいと思っています。

 

毎月400アイテムを開発

──SPA型企業を志向した理由は何ですか。

 

 かつて販売していたオリジナルの玩具は、自社で企画し、中国の工場で製造していたので、ある程度のノウハウはありました。しかしここ数年で、SPA型の企業戦略へと一気に舵を切ったのは、価格競争から脱したいと思ったからです。

 

 以前、ある人気商品がありました。1週間に3000個が売れるヒット商品でした。しかし急に売れなくなり、不審に思って調べたところ、仕入れ先の卸問屋が、当社と競合するネット販売業者に、その商品の営業をかけていたとわかりました。仕入れた他社が、うちより値段を500円下げて販売していたというわけです。いくら一生懸命、コストをかけ、プロモーションしたところで、結局のところ価格が安ければ他社に負けてしまう。それなら自社のオリジナル商品を販売するしかないと悟りました。

 

──大きな転機ですね。

 

 販売力があり、製造ロットがまとまれば、中間流通コストを省けるため、低価格を実現できます。リアル店舗が提供している価格の20%で商品をつくり、その2.5倍、つまり一般的な価格の半値で売っても利益を確保できるのです。何より、価格決定権が当社にあるということが最も大きな強みです。また消費者から見れば、夢展望でしか買えない商品なので、当社のオリジナル性も発揮できます。

 

──とはいえ、若い女性をターゲットに売れる商品を出し続けるのは、難しいのではないですか。

 

 はやり廃りのサイクルが短く、常にトレンドを把握しておく必要があります。大阪ならミナミ、東京は渋谷などに足を運び、人気店などを定期的に訪問、定点観測しています。また主要雑誌をチェックするほか、インターネットを使って幅広く情報収集し、商品に反映させています。

 

──安くていい商品なら売れる。

 

 いえ、ファッションの場合、ただウェブサイトに情報を載せているだけでは売れません。重要なのは、その商品のイメージ、価値などをプロモーションによってブランディングすることです。当社の場合、有力誌での広告掲載、テレビ番組への衣装提供を続け、やっと買ってもらえるようになりました。

 

 サイトに掲載する画像も徹底的にこだわっています。全商品、モデル着用で、商品のデザインに合った背景を選ぶなど、商品の価値、魅力を最大限に伝えられる努力をしています。以前、制作分野は外注していましたが、現在はすべて自社で行っています。カメラマン、デザイナーは社員、またスタジオも社内に設置しています。

 

──他社との差別化になりますね。

 

 自社内での一気通貫は、一見、非合理的に見えますが、結果的にローコストで、高いクオリティの商品をつくれます。またノウハウの流出も防げるメリットがあります。

 

 商品開発もスピーディーに行えます。現在、毎月400アイテムを新たに開発していますが、企画から製造、販売までかかる期間は最短で3週間と、他社にはない速さを実現しています。購買傾向を見ながら、トレンドが変わったり、何か問題が起こったりした時などはすぐに対処できるため、リスクも最小限に抑えられます。

オムニチャネル化に着手

──現在は、14年9月期を初年度とする中期経営計画に取り組んでいます。

 

 上場によって調達した資金をもとに「攻めの経営」を実践、マルチブランド戦略を推し進めているところです。

 

 今後、新たな年齢層、ターゲット、テイストのブランドを増やしていきます。従来は、20歳代の若い女性向けの商品を展開してきましたが、25~35歳を対象にした「大人カジュアル」、小学生向けの「キッズ」、「大きいサイズ」などブランドの幅を広げます。他にもスマホ雑貨や健康食品の販売にも力を入れる考えです。これによって、より経営の安定化を図り、着実に利益を確保できる体制を整えます。

 

──ネット販売の一方、リアル店舗にも着手されました。

 

 大阪市阿倍野区のモール型ショッピングセンター「あべのキューズモール」に5月7日から6月1日までの期間限定で出店しました。「ニューリーミー」「ディアブルベーゼ」の2ブランドを展開、売上も上々でした。お客さまからは「リアル店舗が出るのを待っていた」「気になってはいたが、実際に商品を見ることができてよかった」など好評を得ました。

 

 すでに全国各地のデベロッパーから、新たな出店へのオファーが増えています。今期は関西圏で80坪の中型店舗の新規出店を計画しています。成功すれば来期は200坪以上の大型店舗で、外資系ファストファッションに対抗できる、日本人の嗜好とトレンド特化した日本型ファストファッションともいえるビジネスモデルを構築します。

 

──オムニチャネル化を図っていく。

 

 そうです。リアル店舗の売上を伸ばすためにはネットをうまく活用してお客さまの利便性を高める、という考え方です。リアル店舗の売上をEコマースに誘導するようなことはしないで、店頭にはない商品や欠品しているSKUをスマホの専用アプリで注文してもらい、お支払いと受け取りはリアル店舗で試着してもらってから、といった使い方も可能になります。このようなお客さまの利便性がより高まるようなアプリの開発やサービスを充実させていきます。

 

──これからの数年で、ビジネスは大きく変化しそうですね。

 

 新たなステージに進むため、いいと思ったことは積極的にチャレンジしていきます。私はストーリーが面白く、わかりやすい競争戦略があればまず何でもやってみることを信条としています。やらない理由を考えていても楽しくありませんからね。結果がよければ追求すればいいし、ダメならすぐ撤退する。判断のスピードを上げながら、成果に結びつけていきたいと思います。