大地を守る会(千葉県/藤田和芳社長)は、有機・契約栽培野菜などの宅配事業を手がける注目企業だ。業績は堅調。2013年3月期の売上高132億1400万円、14年3月期はネット通販が好調で増収を見込む。13年3月にはコンビニエンスストア大手のローソン(東京都/新浪剛史CEO〈最高経営責任者〉)と業務・資本提携を締結。同社の現状と今後について藤田社長に聞いた。
聞き手=下田健司 構成=田中浩介(以上、チェーンストアエイジ)
若年層を中心にネット経由の注文が増加
──大地を守る会の宅配事業を利用する会員にはどのような特徴がありますか。
藤田 当社の主力である宅配事業は、首都圏の1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)を中心に展開しており、会員数は約9万7000人を数えます。毎週、紙のカタログを会員に配布し、受注した商品を届けるというものです。
会員のボリュームゾーンは30~40代、そして60代以上となっています。30~40代で多いのは妊娠中、あるいは子育て中の女性です。元気な子供が生まれてほしい、子供には安全で安心できる食品を食べさせたいと考える方が多いようです。60代のほとんどの方は当社を古くから利用されている会員です。
1回当たりの平均購入額は約7300円。30~40代の会員の中には、出産や育児に伴い仕事を辞めたり休んだりしている女性もいます。
共働きでなくなれば、世帯収入が下がり、有機農産物を購入したいけれども食費を節約する傾向が高まります。ですから、年齢の若い会員の購入額は少なく、年齢が高くなるほど、購入額が増える傾向にあります。
会員制の宅配事業ではネット経由の注文も受け付けています。
紙カタログをじっくり見て注文するよりも、必要な商品があればその都度、ネットを通じて注文するという年齢の若い会員が増えています。宅配のうち約3割がネット経由の注文です。
会員制宅配事業の配送エリアは首都圏に限定しているのが現状です。エリア外にお住まいの方向けには、09年11月に専用のウエブストアを開設し、全国に商品を発送しています。このEC(電子商取引)事業の利用者数は約9万7000人にのぼり、売上高全体の約5%を占めるまでになりました。
──有機野菜の宅配事業のライバル企業として、らでぃっしゅぼーや(東京都/井出明子社長)やオイシックス(東京都/髙島宏平社長)などがあります。どのように差別化を図っていますか。
藤田 ネットの利便性が高まり、競争はますます厳しくなると思います。アマゾンジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長)さんや楽天(東京都/三木谷浩史社長)さんなどネット専業企業もライバルになるでしょう。
当社としては商品にこだわることで差別化を図っていくつもりです。
取り扱う農産物は、約1200軒の農家や農業組織と直接契約を結んで仕入れています。契約時に仕入れ価格を決定し、豊作時にも生産者の生活を支えるため、できる限り多く買い取っています。農産物を可能な限り農薬や化学肥料を使用せずに生産。加工食品では化学調味料や食品添加物を原則使わないという安全・安心の独自基準をクリアした商品だけを販売してきました。
こうした安全性を確保するための取り組みや、生産者のメッセージを紙カタログやネットを通じて伝え、誰がどのように生産したのかわかる「顔の見える」商品を提供することで、ライバル企業との違いを出していきたいと考えています。
当社は新規利用者を増やすために、友人や知り合いを会員に紹介いただく際の特典を設けています。このほか、増加するネット利用者向けに、ネット上への広告出稿にも力を入れているところです。
技術力のある農家を囲い込む競争が始まる
──ネットスーパーなど食品宅配の市場の今後をどう見ていますか。
藤田 日本の人口が減少していくので、食品の市場規模は縮小するでしょう。しかし宅配についてはまだ伸びると思います。競争は厳しくなるでしょうが、店舗で購入していた方々のネットシフトに大きな潜在性があると考えるからです。
──日本ではかねてより有機野菜が注目されてきましたが、市場規模はなかなか拡大しません。どう見ていますか。
藤田 確かに、まだまだ市場は小さいです。しかし、人々の関心は高く、これから伸びる余地はあると思います。食品の偽装表示や、中国の冷凍ギョーザ事件などが話題になるたびに、当社の会員数は増えました。
大手新聞社が「有機野菜を食べたいですか」とアンケート調査を実施したところ、回答者の8~9割が「食べたい」と答えたという記事を先日読みました。しかし、有機野菜はまだ値段が高いこともあり、ふだんは購入しない人々が多いのが現状です。
市場が拡大しないのは、農林水産省の有機JAS認定を受けるためには、手間と時間がかかるからだと考えています。生鮮食品や加工食品を「有機JAS認定」と記して販売できるのは、3年間、農薬や化学肥料を使用しないことなどの基準をクリアしなくてはなりません。しかし、農家も生活がありますから、認定を受けるまで3年間も待つことはできないし、認定されても売れる保証がない。農家から見れば、有機野菜を生産したくなるような制度が整備されなければ、有機野菜の市場拡大は進まないかもしれません。
ただ、この有機JASの認定基準を満たさなくても、販売元が独自の基準を設けて安全・安心を担保した野菜は多く流通しています。
当社でもJAS認定を得た有機農産物は全体の26%にすぎません。栽培期間中に農薬不使用を確認したうえで販売する野菜が74%を占めています。
──今後、有機野菜のマーケットに変化が生じる可能性はありますか。
藤田 日本がもしTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加すれば、海外から輸入される商品が大量に出回ることになります。これに対し、安心して食べられる国産の有機野菜を求める人々が増えてくると考えます。
そうなれば、優れた農産物を生産する技術を持つ農家を囲い込む競争が始まるでしょう。当社は35年以上、農家と協力して安全・安心を保証できる農産物を販売してきました。今後も品質が高く、おいしい商品を提供できる強みを発揮できると考えています。
TPPに危機感 日本の農業を守る
──さて、13年3月にローソンと業務・資本提携を結びました。意外だったというのが正直な感想です。
藤田 そうかもしれません。当社は、TPPに対する危機感から、ローソンと手を結ぶことになりました。
それまでは、契約農家とともにTPP反対を主張してきました。しかし、日本政府はTPP交渉参加を表明し、輸入農産物への関税がなくなる可能性が高まっています。国内で割安な輸入農産物が販売されれば、日本の農家が被る打撃は大きい。
しかしそれでも、日本の農家の生産基盤や優れた農業技術を残したいと考えていました。そんな時に知り合ったのがローソンの新浪CEOです。新浪CEOはTPPを推進する立場で、われわれの主張とは異なりましたが、日本の農業を守るために何かしたいという志は同じでした。また、当社としても農産物の販路を拡大できれば農家の手助けができると考え、ローソンと組むことを決めたのです。
資本提携まで踏み込んだのは、単なる業務提携だけでは、双方のトップや担当者が代わった場合に、提携関係が変わってしまう可能性があるからです。
当社は、農家をパートナーとして計画的に農産物を生産し、お客さまに提供することを使命としています。当社の商品を販売するローソン店舗が増えれば、農家に対して生産量を増やしてもらうことになります。その意味からも、農家に対してこれまで以上の協力を仰ぐためには、ローソンと安定的な関係を保つことが大事です。資本提携は、そのためにも必要でした。
──提携の進捗はどうですか。
藤田 健康を意識した商品を揃えた「ナチュラルローソン」のうち東京都内の約20店舗のほか、ローソンの実験店舗、そしてローソンとヤフー(東京都/宮坂学社長)さんが共同運営する宅配サービス「スマートキッチン」で当社の有機・契約栽培野菜などを販売しています。今後5年でナチュラルローソンを3000店舗に増やすと表明されているので、当社の商品を取り扱う店舗は増えていくと期待しています。ローソンの店舗で当社の商品が認知されれば、当社の会員を増やせる可能性も高まります。ナチュラルローソン店内で宅配事業の会員募集も試験的に始めています。
ローソンは昨秋から当社の有機・契約栽培野菜を使ったスティックサラダなどのオリジナル商品の販売も開始しました。今後は、ローソンのプライベートブランド(PB)として販売する総菜など中食関連の商品に、当社の有機・契約栽培野菜を素材として使用することなどを計画しています。
地産地消型の物流体制を強化する
──今後の経営課題を教えてください。
藤田 ネット販売を強化するために、地方に物流拠点を設け、地産地消型の物流体制を整備していくことです。
当社のEC事業である「大地を守る会のウェブストア」でご注文いただいた商品は、千葉県内にある物流センターから全国に発送しています。ただ、地方からの注文の場合、納品までに時間がかかってしまいます。
たとえば、北海道から注文を受けた場合、北海道産の農産物であっても、当社の千葉県内の物流センターにいったん納品され、そのあと北海道に配送することになっています。こうした物流システムの効率の低さを改善するために、全国に拠点を増やしていきたい。全国的に地産地消の意識が高まっているということもありますから、早急に拠点を整備する必要があると考えています。
しかし、ローソンと提携したことにより、一気に物流機能の拡充を図ることが可能になってきています。国内1万1000店を超える店舗を展開するローソンは、全国に物流センターを有しています。この物流センターを地産地消型の物流に活用する方向で、話を進めているところです。これが実現すれば、従来よりも鮮度の高い商品を迅速に配達することが可能となり、EC事業の拡大につながると期待しています。
──すでに中国で宅配事業を始めていますが、海外事業の展望について教えてください。
藤田 13年7月からは、中国・北京市において、現地のNGO(非政府組織)とともに合弁会社を設立し、日本と同じモデルの宅配事業にチャレンジしています。
中国の生産者に専門的な農業技術やノウハウを提供し、安全で品質の高い農産物の栽培に取り組んでいるところです。すでに500人ほどの会員を獲得することができました。中国では食の安全・安心が社会問題となりつつありますから、当社の宅配事業が受け入れられる土壌はあると考えています。北京で宅配事業の礎を築き、5年後をめどに上海でも事業を展開することをめざしています。
上海にはローソンの店舗もあるので、そこで農産物を販売することも可能になります。宅配と店舗販売を組み合わせたモデルを構築できれば、将来的にはローソンが進出している海外のほかの国でも、同様の事業を展開する可能性もでてくるでしょう。