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キッコーマン代表取締役社長CEO 堀切 功章
長年培ってきたノウハウを生かし新たな価値を提供する!

1917年に設立されたキッコーマン(千葉県)は、「おいしい記憶をつくりたい。」をコーポレート・スローガンに掲げる。長い歴史に培われてきた「伝統」と、常に時代を洞察する「革新性」を経営風土とし、イノベーティブな新商品を次々と投入している。2013年6月に代表取締役社長CEO(最高経営責任者)に就任した堀切功章氏に経営戦略を聞いた。

聞き手=千田直哉(チェーンストアエイジ) 構成=小林麻理(オフィスライト)


「いつでも新鮮」シリーズが好調!

──アベノミクスにより景気回復の兆しがみられる一方、2014年4月には消費増税が控えています。現在の日本の経済環境をどのように認識されていますか。

 

キッコーマン代表取締役社長CEO 堀切功章(ほりきり・のりあき)
1951年千葉県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、74年4月キッコーマン醤油入社(現キッコーマン)。2002年6月関東支社長、03年6月執行役員、06年6月常務執行役員、08年6月取締役常務執行役員、11年6月代表取締役専務執行役員、13年6月代表取締役社長CEO(最高経営責任者)就任。

堀切 店頭にある私どもの商品の売価が上がっていない状況ですから、インフレターゲットで実体経済がよくなっているという実感はありません。4月に消費税が上がりますが、食品のカテゴリーに関してはそれほど大きな動きはないのではないかと思っています。

 

──醤油の国内市場は全体として減少傾向が続いていますが、キッコーマンの醤油の13年度上半期の売上高は対前年同期比1.6%増となっています。

 

堀切 そうです。成熟市場においても革新を起こせば成長することができるのです。

 

 1917年の会社設立以来、長い間、当社の中核を担ってきた醤油事業ですが、「守り」ではなくむしろ「攻め」の気持ちを大切にしたいと考えています。醤油のよさを訴求し、価値の基準を量から質へと変換しているところです。

 

 たとえば、鮮やかな澄んだ色、穏やかな香りや味わいが特徴の生しょうゆを、長期間鮮度を保つ密封容器に入れた「いつでも新鮮」シリーズは、革新的な商品としてご支持を得ることができました。売上は、発売した11年度が11億円、12年度が22億円、今年度は計画の35億円を上回るペースで推移しています。

 

 また、今年9月に発売した「まめちから 大豆ペプチドしょうゆ」は醤油のイメージをコペルニクス的に変える商品だと自負しています。なぜなら、醤油といえば塩分の多い調味料であり、健康のためには控えるべきだと一般的にいわれてきたなかで、はじめて特定保健用食品(トクホ)に認定された商品だからです。

 

 大豆ペプチドを通常より多く含むため、1日8ml(2袋)をふだん使う醤油と置き換えて使用することで、血圧が高めの方の血圧にはたらきかける作用があります。私どもの長年の夢として、ずっと温めてきたアイデアを商品化したもので、商品づくりに5年、トクホを申請してから認定までに、さらに5年かかりました。

 

 小袋60個入りで3675円と値段は高いですし、すぐに普及する商品とは思いませんが、このような挑戦自体が大事だと考えています。今後、改良・改善を加えてより手頃な価格でお客さまにお届けするよう努力を続けます。

 

 これらの商品を実現できたのは、醤油の醸造会社として長い間その技術を磨きノウハウを培ってきたからだと考えています。

 

「アイデアボックス」で社員の商品アイデアを共有

──グループ売上高の約37%を占める食品事業の売上も、上期は同3.7%増と好調です。そのなかで売上高が50億円規模に成長した簡便調味料の「うちのごはん」シリーズは存在感を示しています。

 

堀切 和風の簡便調味料である「うちのごはん」シリーズの販売を開始したのは02年で、今年で11年目を迎えました。

 

 

 発売当初はどのカテゴリーにも分類されない商品でしたが、徐々にお客さまに認められるなかで、競合他社の参入もあり、最近では小売店に簡便調味料カテゴリー専用の棚ができるまでになりました。

 

 競争は厳しくなるけれどもカテゴリーとしての市民権を得て、市場全体がここ2~3年で大きく拡大したことはプラスにとらえています。職を持ちながら主婦業をこなす女性や調理をする男性が増えていますので、簡便調味料の市場はさらに伸びるとみています。

 

──デルモンテ飲料と豆乳を中心とした飲料事業は売上高全体に占める割合が25%になるまでに成長しています。

 

堀切 今年5月に茨城県に豆乳の新工場を稼働させました。豆乳に関しては新しい商品のアイデアも数多くあります。この12月から来年5月にかけて桜餅風味の「紀文 豆乳飲料さくら」を季節限定で販売します。2月の受験シーズンを意識し「サクラサク」という縁起のよさをパッケージで表現しています。

 

 今までは牛乳の代替品として位置づけられることの多かった豆乳ですが、その概念を打ち破るような豆乳のよさを表現できる商品を出していきます。

 

──豆乳以外にも新商品のアイデアはたくさんありますか。

 

堀切 潜在需要を発掘するような新たな切り口の商品を開発する余地は多く残っていると思います。

 

 たとえば今年8月に発売して以来、計画を上回るペースで売上を伸ばしている「味チェンジ鍋つゆ」は、みんなで鍋を食べて、飽きてきた頃に最後は違う味で食べたいというニーズを商品化したものです。こういった日常の思い付きのなかに新しい商品のヒントはたくさんあると思います。

 

 10年から新規事業を立ち上げる社内ベンチャー制度「K-VIP」に取り組んできましたが、これとは別に、最近、「アイデアボックス」という社内で気軽に商品アイデアを投稿して共有できる仕組みを取り入れました。

 

 社内のイントラネットで投稿したアイデアに対し社員が「いいね!」で評価したり、コメントを投稿でき、それらを商品開発部が参考にして具体的な開発へと落とし込んでいきます。

 

 私どもも仕事を離れれば消費者の1人なのですから、自分たちもお客さまの立場で考えることがとても大事です。それが経営理念に掲げる「消費者本位」の商品アイデアにもつながると思います。

 

 IT技術の進化のおかげで「アイデアボックス」のような取り組みも今では手軽にできるようになりました。これは、商品開発のためだけでなく、コミュニケーションを活性化することで風通しのよい、社員同士が化学反応を起こす組織にするための仕掛けでもあります。

 

ノウハウを農業や健康事業に応用

──13年10月に日本デルモンテアグリ(東京都/末永和也社長)を設立し農業事業に参入しました。具体的にはどのようなことに取り組むのでしょうか。

 

堀切 当社のグループ企業に、トマトケチャップやトマトジュースなどのトマト加工品を中心に製造してきた日本デルモンテ(群馬県/安藤公夫社長)があります。昔から原料のトマトの品質改良と品種開発を行っており、保有するトマトの品種は約8000品種にものぼります。現在では、トマトだけでなく、パプリカやゴーヤなど20種類以上、約60品目の野菜苗を販売しています。

 

 新たに設立した日本デルモンテアグリは、日本デルモンテが展開しているトマトを中心とした野菜苗事業を承継し、新たに生果トマト事業に参入します。甘味が強い、虫がつかないといった品種改良をした家庭菜園用のトマトの苗を販売したり、出資先である「カズサとまとガーデン」が、生食用のトマトの栽培、販売をしてまいります。

 

 農業は国家の成長戦略の1つに掲げられているテーマですし、当社も重要な新規事業の1つと位置づけています。

 

──サプリメントなど新たな健康関連事業も積極的に取り組まれていますね。

 

堀切 医療費の増加が社会問題となっていますが、誰しも病気になりたくてなるわけではありません。

 

「食と健康」を事業領域とする当社が長年培ってきたノウハウや技術を生かせる分野で病気を予防するお手伝いをしようと考えています。

 

 そのため、病気になってから使用する医薬品ではなく、毎日のバランスが良い健康的な食事を補佐する分野に取り組んでいきます。

 

 10月には、女性向けのサプリメント「からだ想い 基本のサプリ」を「キッコーマン からだ想い」という専用サイトで販売開始しています。

 

 既存の醤油事業でも、「まめちから 大豆ペプチドしょうゆ」だけでなく、「減塩」でかつおいしい醤油の開発にも取り組み続けています。

 

 また、当社は1914年から病院を経営しており、今年9月にはポプラ社から『キッコーマン総合病院監修 はじめての節塩定食』という書籍を出版していただきました。

 

 このように、健康を意識した商品とともに、健康になるための情報をお客さまにお届けしていきたいと考えています。当社は「食で健康」、つまり、食事を通じてお客さまに健康になっていただくことをめざしているのです。

 

価値を訴求する提案に力を入れる

──消費者の低価格志向は依然、根強いものがあると思います。どのように考えていますか。

 

堀切 メーカーも小売業も同質競争のなかでは価格が最大の競争要因になってしまいます。価格はたしかに重要な要素ですが、お客さまに与える満足感は非常に限定的で、極論すれば1回限りのものだと考えています。

 

 今まで100円で販売していたものが50円で購入できれば、一時は得した気持ちになり満足するかもしれません。しかし次に店に足を運んだときに売価が100円に戻っていたらがっかりする。それが90円だったとしても同じです。

 

 継続的に満足を提供しようと思うのならば、価格とは違う切り口でお客さまに商品の価値を訴えていくことこそが大事ですし、そうしなければ勝ち残れないでしょう。

 

 そのため当社では、小売業さんとの商談では価格一辺倒ではなく、商品価値を訴える提案も積極的に行っています。

 

 醤油や簡便調味料など、当社の商品はほかの食材と組み合わせて使用するものが大半です。たとえば「うちのごはん」を生鮮食品の売場に置いたり、刺身醤油を鮮魚の売場に置いていただくような提案に力を入れています。最近では、加工食品だけでなく、生鮮部門のバイヤーさんと商談や合同会議をしていただけるようになってきました。

 

 また商談では、お取引先さまが何を志向しているのかを踏まえたうえで、サプライヤーがチームを組んで提案することも増えています。小売業や卸売業、メーカーはお客さまによりよいサービスや商品を届けるパートナーです。

 

──チームを組むということでは、メーカー同士の協業も進んでいます。

 

堀切 9月に発売した亀田製菓(新潟県/田中通泰社長)さんとのコラボレート商品「調製豆乳おせんべい」のように、商品を共同で開発したり、つゆとそうめんの組み合わせのようなクロスMD提案も強化するなど、商品づくり、売場づくりの面でも他社とのコラボレーションは増えていくと思います。

日本食ブームは追い風

──さて、12年度の売上高に占める日本の売上は約55%、海外の売上は45%でした。営業利益は海外が66%を占めていて、海外事業の収益性の高さがうかがえます。

 

堀切 海外事業の営業利益率が高いのは生産性が高いここと、まだ同質的競争が激しくないために、原材料のコストアップを価格に転嫁できるからです。

 

──日本食ブームは御社にとって大きな追い風ですね。

 

堀切 そのようにしたいと思います。

 

 海外事業では、今では「KIKKOMAN」は醤油の代名詞となり、北米や欧州、アジアにある7つの海外工場から100ヵ国以上の国々に出荷され、愛用されています。

 

 08年に掲げた「グローバルビジョン2020」では、(1)キッコーマンしょうゆをグローバル・スタンダードの調味料にする、(2)食を通じた健康的な生活の実現を支援する企業となる、(3)地域社会にとって存在意義のある企業となる──の3つを当社がめざす姿として打ち出しています。この3つのめざす姿の実現に向けて、お客さまの声を大切にし、新しい価値のある商品やサービスの開発に引き続き取り組んでいきます。