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ラサール インベストメント マネージメント 代表取締役兼CEO 中嶋康雄
商業者の方にわれわれをもっと活用してもらいたい

ラサール インベストメント マネージメントは不動産に特化した投資顧問会社。世界有数の不動産サービスプロバイダーのジョーンズラングラサールグループの一員として、商業施設、物流 施設、ホテル、オフィス、住宅などさまざまなタイプの不動産に投資している。国内では約5000億円を商業・物流施設などに投資している。

聞き手/千田直 哉(チェーンストアエイジ)


投資機会は全方位型で検討

──2007年に改正まちづくり三法が施行、08年にリーマンショックが勃発。日本の不動産市場は先行きが読めなくなっているのではないか?

 

ラサール インベストメント マネージメント 代表取締役兼CEO
中嶋康雄

中嶋 08年から09年までを振り返ると、景気の変化に合わせて、セクター間のリスクに対する感応度の差が非常に大きく出てきた。景気悪化と比例して悪くなると いう感応度の高いセクターは、ひとつにはオフィス需要。もうひとつは、商業の比較的高額の非日用品を扱っているセクターを挙げることができる。しかし、商 業でも、日用品を扱っているセクターは堅調。物流も、輸出・輸入関連は厳しいが国内のサプライチェーンを担っているセクターは順調だ。

 

──日本市場のすべてに魅力がなくなっているということではない。

 

中嶋 そうだ。我々は、よいときだけ投資をするタイプの運用マネジャーではない。景気の流れや投資対象の性格に合わせて投資をしている。11年までに、エクイティの金額で2000億円弱程度、借入も含めると約5000億円の投資を計画している。

 

 ただ、過去の1年半は、投資対象の選別を非常に厳しくしてきた。実際に投資したのは、福岡県久山町の大型ショッピングセンター(SC)「トリアス 久山」(建物床面積9万9522平方メートル)と千葉県流山市の大型物流施設「ロジポート流山」(総敷地面積6万8477平方メートル)のみだ。投資の ペースが鈍っているのは事実だが、「投資すべき期間ではない」という判断からだ。しかし、今からしばらくは投資の好機が来ていると考えている。

 

──不動産価格が下落しているからか?

 

中嶋 それは関係ある。不動産投資の際の大きな要素は、(1)不動産価格の適正、(2)テナントの業績、(3)ファイナンスマーケットの動向の3つだ。そうした将来の読みを織り込んで投資していく。

 

──5000億円規模の予定の投資のおおよその振り分けは決まっているのか?

 

中嶋 とくに決まっていない。現在は、どのセクターにも投資チャンスがあるからだ。

 

 たとえば、商業施設を取り出しても、どのタイプの投資も非常に面白くなってきている。たとえば、郊外のマスターリース(転貸借を前提としたリース 契約)型のイオンやイトーヨーカ堂のSCもあるし、都心の商業施設も賃料の下落を織り込んでもなお合理的な数字に近づいてきている。基本的には全方位型で 投資をしており、商業の中でも、1つのタイプだけではなく、比較的幅広く投資機会を検討している。

 

リテールリスクを取る勉強も始めた

──百貨店の不振が続いている。都心の一等地の立地は投資対象として魅力的ではないか?

 

中嶋 私見だが、確かに百貨店という業態を見ると、疑問視されている向きもあるが、都心でハイセンスな高額商品を扱うという商売は決してなくなるものではない。その意味では、新しい商売のかたちが生まれてくるものと推測できる。

 

 これまで、百貨店をはじめとするリテーラーは、自社のバランスシートを使って、土地や建物を所有してきた。しかし、イオンもイトーヨーカ堂も、今 や他社のバランスシートを活用(=オフバランス)するようになっている。そうした状況変化の中で、われわれのような投資家がどんなかたちで絡むことができ るのかが、これからの課題だ。

 

 実際に、われわれは「トリアス久山」や「千歳アウトレットモール・レラ」(北海道)では、マスターリース型で誰かに貸し出す形式ではなく、リテールのリスクを取りながら投資するという勉強を少しずつ始めている。

 

──それは、具体的にはどういうことか?

 

2社との委託契約でさらなる業績向上をねらう「千歳アウトレットモール・レラ」

中嶋 たとえば、「千歳アウトレットモール・レラ」では、不動産事業の西武プロパティーズ(東京都/田島幸夫社長)と商業施設企画のプロッド(東京都/田中紘之社長)の2社と委託契約を結び、運営面でのアドバイスをもらう格好で、SCの業績を向上させている。

 

 われわれはバランスシートを持ったフルサービスのリテーラーにはなりえない。しかし、ただ投資をするだけというのでは、リテーラーにも受け入れてもらえないはずだから、もちろん、社内には商業の経験を持つ複数の優秀なスタッフがいる。

 

 われわれも単に資金の提供者だけではなくなってきている。だから、商業者の方々には、もっとわれわれを活用して欲しいと思う。

マルチテナント向け物流施設に期待

── 一方、サプライチェーンマネジメントが声高に叫ばれる中で、流通業界の物流に対する需要は大きなものになっている。

 

中嶋 案件はとぎれない。資金マーケットがほとんど機能していない状況でも、テナント、物流業者、卸売業などの商業者の「物流効率化」熱はずっとあついままだ。

 

 たとえば、景気が非常に悪いと言われる直近の半年間でも、われわれは約3万坪の新しい契約を物流業者やリテーラーと交わした。そのトレンドは、「効率化」の一言だ。3~4つあった物流センターを1カ所にまとめたいといった類の要望が多い。

 

 物流のマーケットは、伝統的に需要と供給が均衡しており、バランスが崩れることはなかった。しかし、ここ数年間は、先に物流施設を建ててしまうという流れだったので、オーバーストアならぬ、オーバーウエアハウスのような状態が続いていた。

 

 現状は、オーバーサプライで、新規開発はストップしているが、需要はとぎれることなく続いているので、このアンバランスは2年ぐらいかけて調整されるはずだ。

 

 

──ラサール インベストメントの推計では、延床面積1万坪以上の物流施設の潜在需要は1000棟にも及び、向こう15年間くらいの需要は途絶えないだろうと発表している。

 

中嶋 そうだ。テナントとなるべき企業からニーズを確認しているので、先に施設を建ててしまうというかたちは、今後も増えると思う。たとえば、大型マルチテナン ト向け物流施設の「ロジポート柏」(千葉県)は、約3万5000坪の建物面積を有し、1000坪単位で区切って貸し出しすることができる。契約期間も長期 から短期に至るまで柔軟性を持っている。

 

 これまでは、物流業者が不動産所有者と10~20年契約を結び、エンドの荷主とは1~2年契約をしてきた。「ロジポート・シリーズ」は、借り捨て しやすい施設をわれわれが提供することで、リテーラーにとっての物流の選択肢を広げている。このように変化するニーズに合った、利便性が高く、優れた仕様 の物流施設への企業からの需要が大きく、われわれにとっての事業チャンスはまだまだ大きいと思う。

 

──流通業の物流担当者は、新しい物流施設の存在を知っているのか?

 

中嶋 まだ、マーケティングが行き届かず、十分理解をいただいていないところも多い。ただ、焦ってはいない。不動産投資は50~100年のスパンをにらんだビジネスだ。

 

 開発リスクの高い時期にはリスクを取ることができる投資が必要だし、安定期には高いリスクを取らない代わりに利回り要求の低い性格の資金を使う。そこにわれわれの得意とする資金パートナーとしての役割があると思う。

 

──最後にラサール インベストメントの強みを教えてほしい。

 

中嶋 透明度が高いところだ。リスクとリターンを明確に分けて、非常に透明な運用をしていると思う。

 

 たとえば、デベロッパーなどが開発して所有もして(バランスシートに持つ)というのと違い、われわれはバランスシートを使わない。投資顧問会社としては本流を行っていると思う。

 

 ひとつの例を挙げると、この20年くらいの時間軸で切ったときに、不動産投資顧問業のグローバルのトップ20を見たときに残っている会社は当社ともう1社しかない。

 

 常に投資家の目線で仕事をできているのがわれわれの強みだ。

 

 一方、企業に対しては効率のよい資金を提供するパートナーとして倒産しないという安定感を持って、しかも、十分な資金量を持って、付き合いができるという約束ができる。