卸売業が果たす5つの役割とは?小売業や商社との違い、業界の将来像も解説

読み方:おろしうりぎょう
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流通倉庫
卸売業とは、商品を製造するメーカーと商品を消費者に販売する小売業を仲介することで、商品の円滑な流通を促す中間流通業者である。需要と供給のバランス調整やメーカー・小売業間の価格交渉、商品の配送、円滑な取引の実現など、多様な役割を担う。

流通システムにおいて、メーカーと小売業をつなぐ重要な役割を果たすのが卸売業である。しかし、卸売業を含む流通システムの仕組みがどうなっているのか、卸売業の具体的な役割や小売業・商社などとの違いはなんなのか、疑問を抱く方も多いだろう。

本記事では、流通システムにおいて卸売業が果たす5つの役割や、流通システムにおける卸売業と小売業の違い、卸売業界の将来について解説していきたい。この機会にぜひ卸売業の理解を深めよう。

卸売業とは

卸売業という言葉はよく耳にするが、具体的なイメージが湧かないという方は多いだろう。卸売業とは具体的になんなのか、以下3つの観点で解説する。

  • 卸売業の概要
  • 卸売業と小売業の違い
  • 卸売業と商社の違い

卸売業の概要

卸売業とは、商品を製造するメーカーと商品を消費者に販売する小売業を仲介することで、商品の円滑な流通を促す中間流通業者である。需要と供給のバランス調整やメーカー・小売業間の価格交渉、商品の配送、円滑な取引の実現など、多様な役割を担う。

中間業者が間に入ればそのぶん最終的な価格は高くなるため、「卸売業などいらないのでは?」という声もよく聞かれる。しかし、仮に卸売業が存在しない場合、メーカーや小売にはさまざまなデメリットが生じるのだ。

例えば、メーカー側にとっては取りまとめ役の卸売業者がいないため、各小売とのやり取りに手間がかかること、一つひとつの受注数量が小さいため生産効率が悪化すること、自社での物流手配が必要になることなどが挙げられる。小売側にとっても、膨大な数のメーカーとやり取りが必要になること、発注数量が小さいため交渉力が弱くなることなどがデメリットとなる。

卸売業がメーカーと小売業を仲介することで双方のデメリットを解消し、円滑な流通システムを実現しているというわけだ。卸売業は消費者に商品を届けるにあたり、なくてはならない存在だといえるだろう。

卸売業と小売業の違い

卸売業と小売業の違いは、以下のとおりである。

  • 卸売業:メーカーから仕入れた商品を小売業に販売する
  • 小売業:卸売業から仕入れた商品を消費者に販売する

流通システムの基本的な流れは「メーカー→卸売業→小売業→消費者」となる。小売業とは、スーパー・コンビニ・デパート・家電量販店など、消費者が商品を購入する店舗を営む業態である。その小売業に対し、各メーカーの商品をまとめて納入するのが卸売業というわけだ。

基本的には、メーカーが小売業に直接販売することや、卸売業が消費者に販売することはない。しかし、近年流通システムにもさまざまな変化が起きており、卸売業が間に入らないケースや、卸売業者が消費者に直接販売するケースなど多様な取引形態が誕生している。

卸売業と商社の違い

卸売業とよく混同されるものに「商社」がある。商社は、商品の取引を仲介するという意味では卸売業とよく似ているのだ。

しかし、商流には入るが物流機能は持たない点や、原料や素材などメーカー側に近い商材を扱う点で卸売業とは異なる存在といえる。例えば、原料メーカーと最終消費財メーカーの取引を仲介し、最終消費財の製造に使う原料の取引を成立させるといった具合だ。取引決済の流れは最終消費財メーカー→商社→原料メーカーとなるが、物流機能を持たないため、原料の配送は原料メーカー・最終消費財メーカー間で行なうことになる。

消費者向けの最終製品を小売業に販売し、物流も担う卸売業とは異なる存在であることがわかるだろう。

卸売業が果たす5つの役割

流通倉庫の中

流通システムにおいて卸売業が果たす役割としては、おもに以下の5つが挙げられるだろう。いずれも、メーカーの商品を適切な価格・流通量で消費者に届けるためには欠かせない機能だ。

  • 需要と供給の調整
  • 物流の効率化
  • 多様な商品の取り扱い
  • 店頭の販売促進サポート
  • 円滑な代金回収

需要と供給の調整

1つ目はメーカーと小売業の間に立ち、需要と供給を調整する役割だ。

メーカーにとっては、同じ商品を一度にまとめて製造するのが最も効率的なため、基本的には大量受注を希望する。しかし、小売業にとっては一度に販売できる量は限られているため、大量に発注すると過剰在庫・不良在庫のリスクが高くなってしまう。

卸売業が複数の小売業の注文を取りまとめることで、メーカーへの発注量を増やし、両者にとっての最適な注文量になるよう調整しているのだ。

物流の効率化

2つ目は、メーカー・小売業間における物流の効率化だ。

卸売業がない場合、商品を製造したメーカーは各々が小売業を回り、自社の商品を納入する必要がある。しかし、小売業の店舗が一つのメーカーに求める商品の数量は限られているため、少量の配送を数多くの店舗に対して行なう必要が出てくる。配送効率の悪さは明らかだろう。

卸売業者が物流を担うことで、複数メーカーの商品をまとめて小売業に届けられるため、物流面が効率化されるのだ。

多様な商品の取り扱い

3つ目は、複数メーカーの商品をまとめて扱うことで、多様な商品の提案が可能となる点だ。

各メーカーからそれぞれ商品提案を受けても、小売業としては売場全体の最適化を考える必要があるため、魅力を感じづらいだろう。卸売業が複数メーカーの商品を取りまとめることで、小売に対して魅力的な提案が可能となるほか、価格交渉もしやすくなるのだ。

小売業としては、価格交渉だけを考えれば各メーカーと直接やり取りをするほうが有利に進められる。しかし、メーカー・商品ごとに交渉する手間を考えれば現実的ではない。卸売業が仲介することでまとめて交渉が可能となり、小売業にとっても効率が良いのだ。

店頭の販売促進サポート

4つ目は、小売業における店頭の販売促進をサポートする役割だ。

複数メーカーの多様な商品を取りまとめる卸売業だからこそ、店頭においても魅力的な提案が可能となる。例えば、ジャンルの異なるメーカーの商品を並べて陳列することで、セット購買を促すなどのアイデアが考えられるのだ。

また、店頭の販売促進サポートを通じて得た消費者に関する知見は、貴重なマーケティング情報となる。最新のトレンドや消費者動向をメーカーに還元することで、より良いモノづくりにも貢献しているといえるだろう。

円滑な代金回収

5つ目は、メーカーにとっての円滑な代金回収を可能としている点だ。

メーカーが商品を生産してから消費者に届くまでには、長い期間を要する。その間にもメーカーは、次の商品の開発や生産を進める必要があるため、どのタイミングで販売代金の回収ができるかは重要な問題なのだ。

卸売業が仲介することで、メーカーは卸売業者に納めた時点で代金が回収できるため、新たな投資や生産へのスムーズな移行が可能となる。卸売業は金融面においても、重要な役割を果たしていることがわかるだろう。

将来的に卸売業はなくなる?

流通倉庫で働く人

商品を消費者に届けるうえで重要な役割を果たす卸売業だが、流通業界における存在感は以前ほど大きなものではなくなってきた。一部では、将来的に卸売業はなくなるとの声も聞かれる。卸売業を取り巻く現状について、以下3つの視点から解説しよう。

  • なぜ卸売業は必要だったのか
  • ネット購入の拡大などによる逆風
  • 食品など一部業界では依然として欠かせない

なぜ卸売業は必要だったのか

そもそも、なぜ日本経済が成長する過程で卸売業が必要とされたのだろうか。

戦後の日本では多くの製造業が規模を大きく成長させていたが、一方で小売業の多くは零細企業だった。自店舗で販売できる数量に限度のある小売業各社は、商品供給や代金回収といった面でメーカーとの直接取引が困難だったのだ。メーカーとしても、数店舗しかない規模の小さな小売業一つひとつに商品を届けることは効率が悪いほか、資金力の乏しさから代金回収の懸念も大きい。

そこで、仲介役として登場したのが卸売業である。メーカーと小売業を仲介することで、取引規模や信用の問題を解決し、流通業界において欠かせない存在へと成長したのだ。

インターネットショッピングの拡大などによる逆風

日本経済の発展に大きく寄与した卸売業だが、現在の立ち位置は厳しいものとなっている。株式会社帝国データバンクの調査によれば、日本経済における卸売業の構成比は1989年の36.3%から2018年には24.1%と大きく減少しているのだ。依然として重要な存在ではあるが、「不可欠」とまではいえない状況になりつつある。

卸売業の構成比が下がったおもな要因としては、2つ挙げられる。

1つ目は、アマゾンや楽天などインターネット上で商品を購入できる仕組みが広がり、メーカーと消費者が直接つながるようになった点だ。卸売業が入る余地はないため、インターネット上での購入を選択する消費者が増えれば、卸売業が入る取引も少なくなる。

2つ目は、ニトリやユニクロなど、メーカーが直接販売まで手掛ける企業が増えてきた点だ。SPA(製造小売業)と呼ばれるビジネスモデルで、中間流通業者を介在させないことでコストを抑える手法である。当然、卸売業者が取引に入ることはない。

新たなビジネストレンドが発生したことで、従来の卸売業を介した取引は減少傾向が続いている。今後も、卸売業にとっては厳しい状況が続くだろう。

食品など一部業界では依然として欠かせない

従来と比較すれば卸売業の存在感は小さくなりつつあるが、依然として大部分の流通システムにおいては重要な役割を果たしている。

特に食品業界においては、賞味期限や消費期限の短さからきめ細かな物流が求められる。卸売業なしで、メーカー・小売業間のスムーズな取引を成り立たせることは難しいだろう。卸売業者が小売業の注文を取りまとめ、メーカーにまとめて発注することで、新鮮な商品を適切なタイミング・数量で届けることが可能となっているのだ。

また、複数メーカーの商品を組み合わせることで、新たな提案ができるケースもある。単なる仲介業者ではなく、卸売業という立場から付加価値を生み出す提案ができれば、今後も卸売業は重要な存在であり続けるだろう。

まとめ

卸売業は、メーカーと小売業をつなぐことで、市場に商品を供給する重要な役割を担っている。とりわけ戦後日本経済の成長には大きく貢献し、現在の流通システムにおいて欠かせない存在となった。

インターネット上で商品を購入する消費者の増加や、SPA(製造小売業)など新たなビジネスモデルの出現により、現在の卸売業は厳しい状況に立たされているといえるだろう。しかし、本来の役割を果たしつつ、小売業・メーカー双方とのつながりを活かした新たな提案ができれば、再び卸売業の存在感が増す可能性は十分にある。

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