焦点:インバウンド消費が急減速、中国の新EC法や景気減速など三重苦

2019/02/05 16:17
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インバウンド消費
2月5日、中国の法令変更が、日本の消費に影を落とし始めている。今年1月施行の中国電子商取引法(新EC法)では、海外で購入した商品を転売する者が同法の規制対象となり、転売目的の商品購入にブレーキがかかっている。写真は都内で2016年3月撮影(2019年 ロイター/Thomas Peter)

 

[東京 5日 ロイター] – 中国の法令変更が、日本の消費に影を落とし始めている。今年1月施行の中国電子商取引法(新EC法)では、海外で購入した商品を転売する者が同法の規制対象となり、転売目的の商品購入にブレーキがかかっている。中国経済の減速や円高・元安も重なり、インバウンド消費の先行きは、急速に不透明感が増している。

 

昨年末から異変

「昨年11―12月に相当大きな落ち込みとなった」―――。花王の澤田道隆社長は、昨年末から中国向けのベビー用紙おむつの販売動向が急変したと話す。

 

 背景にあるのは、中国で今年1月から施行された中国電子商取引法。EC出店者などに政府への登録を義務付け、納税を義務化。脱税者には刑罰を科すことも明記された。ECでの転売を目的に日本で商品を購入する「代理購入者」も、電子商取引法での登録対象者となった。

 

 その波紋は、施行前の昨年末から転売業者の購入減や、中国での流通在庫処分による価格下落として表面化したという。

 

 2018年の花王のベビー用紙おむつ売上高は、前年比9%程度減少。ベビー用紙おむつを含むヒューマンヘルスケア事業は7%減となった。

 

 中国の法改正の影響は、インバウンドへの依存度を高めている百貨店にも表れ、1月の大手百貨店の免税売上高は、軒並み前年同月比マイナスを余儀なくされた。

 

 高島屋の免税売上高は前年同月比15.1%減と大きく落ち込んだ。特に、訪日外国人の比率の高い大阪店は20.5%減、新宿店は19.5%減となった。2度の台風で臨時休業や営業時間短縮を行った昨年9月でも2.7%減だっただけに、落ち込みの大きさがわかる。

 

 三越伊勢丹ホールディングスの新宿・日本橋・銀座の基幹3店舗の免税売上高も10.3%減少。客単価だけでなく、客数も3.3%減少した。三越伊勢丹関係者は「中国の景気減速、円高・元安、電子商取引法の施行など、同じタイミングで悪材料が重なるとこうなる」と、複数の悪材料が重なったためとみている。特に、同社では、宝飾品など嗜好性の高い商品の動きが鈍っているという。

 

 昨年前半は1人民元=17円程度で推移していたが、今年年初には同15円台へと円高方向に動いている。

 

 18年の中国国内総生産(GDP)成長率は28年ぶりの低い伸びとなった。政府は歳出拡大や減税など対策を打ち出しているものの、米中貿易摩擦の行方次第では、一段の減速も懸念される状況だ。

春節を見守る

今後に関しては、非常に読みにくい状況にある。2月5日から始まる春節で、中国からの訪日客がどのような消費行動をみせるか、百貨店各社は状況を見守っている。

 

 ある百貨店の首脳は「以前のように爆買いがあるわけではないため、転売目的の購入が規制されても影響はそれほど大きくないのではないか」と、やや楽観的な見通しを示す。中国からの訪日客の1人当たりの旅行支出は、爆買い一服後の2016年以降、前年比マイナスで推移している。

 

 一方で「インバウンド消費は、尖閣問題の時のように、急激に落ち込む可能性が皆無ではないため、あまり、過度な期待を持って織り込まないようにしている」とも話す。日本政府が発表した尖閣諸島の国有化により、2011年の中国人観光客の訪日数が26%減と大きく減少したことが関係者の頭をよぎる。

 

 観光庁によると、2018年の訪日外国人の旅行消費額は4兆5064億円で過去最高となった。安倍晋三首相が「地域に一大産業が誕生したといってよい」と表現するほど、消費マーケットでは無視できない規模。

 

 日銀大阪支店でも「今後、本格的な人口減少局面を迎えるが、インバウンド消費の増加は、人口減に伴う需要減を補いつつ、関西経済を引き続きけん引することが見込まれる」とするリポートを作成。インバウンド消費に期待をかけている。

 

 2020年に旅行消費額8兆円という政府目標には、さらなる知恵が必要な状況だが、旅行消費額の約35%を占める中国からの訪日客の消費が落ち込めば、こうした目標が一層、遠のくとともに、日本の消費市場に与える影響も大きくなりそうだ。

(清水律子 編集:田巻一彦)

 

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