コラム:アサヒ、英高級ビール買収の裏にある「プレミアム化」

2019/01/29 17:00
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アサヒ、英高級ビール買収
1月28日、アサヒグループホールディングスはプレミアムビールの市場拡大に期待を掛け、大枚をはたいて英フラー・スミス&ターナーの高級ビール事業を買収する。写真はシンガポールで2015年撮影(2019年 ロイター/Tim Wimborne)

Jeffrey Goldfarb

[香港 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] – アサヒグループホールディングスはプレミアムビールの市場拡大に期待を掛け、大枚をはたいて英フラー・スミス&ターナーの高級ビール事業を買収する。

 

 これまでに買収した「ペローニ」、「グロールシュ」、「ピルスナー・ウルケル」など欧州高級ビールの品ぞろえに「ロンドン・プライド」が加わることになる。アサヒのべらぼうな買収価格は、酒造メーカーがライバルと伍していく上で高級クラフトビールのブランドを手に入れることがいかに重要かを示している。

 

 SABミラーからアサヒ・ヨーロッパの最高経営責任者(CEO)に転じたヘクター・ゴロサベル氏は数年前のビール業界の会合で、「プレミアム化に触れずに成長について語ることはできない」と述べた。消費者は一般的なビールから、物語に彩られたプレミアムビールへと乗り換えており、「プレミアム化」という言葉は威力を保っている。

 

 バーボン、テキーラ、ジンなどを手掛ける酒造大手は早々にこうした流れに乗り、小規模ブランドの人気の高さを経営に生かしている。またビール業界でも、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)とハイネケンがプレミアムブランドの「グース・アイランド」、「ラグニタス」をそれぞれ手に入れた。

 

 「スーパードライ」を手掛けるアサヒにはその他の事情もある。日本国内市場は低迷している。アサヒは昨年8月、2018年の国内のアルコール飲料の売上高は2%近く落ち込むが、海外事業は10%以上の伸びになるとの見通しを示した。174年の歴史を持つフラー・スミス&ターナーのビール事業は利益こそ減っているが、18年3月末までの2年間に売上高が27%伸びた。

 

1月28日、アサヒグループホールディングスはプレミアムビールの市場拡大に期待を掛け、大枚をはたいて英フラー・スミス&ターナーの高級ビール事業を買収する。写真は茨城で2016年撮影(2019年 ロイター/Yuya Shino)

 

 もっとも、アサヒの買収額は2億5000万ポンド(3億3000万ドル)で、これはフラーの利払い・税・償却前損益(EBITDA)の24倍に相当する。一方、アサヒの株価収益率(PER)は10倍近く。買収に合意したのは英国の合意なき欧州連合(EU)離脱の不安が漂うタイミングで、その上、フラーのビール事業の営業利益は、数字が発表されている直近の年度で680万ポンドにすぎない。30%を税支払いに充てると、アサヒの投資収益率(ROI)は2%を割り込む計算だ。

 

 ただ、資金調達コストが低い点は今回の案件に一定の魅力をもたらしている。日本は超低金利が長期間続き、アサヒの調達コストが推定ROIを大幅に上回ることはないだろう。コストの抑制やロンドン・プライドの加入による売上高増加も資金面でプラスに働くだろう。さまざまな点から、アサヒは「プレミアム化」という言葉に新たな意味合いを与えることになるかもしれない。

 

背景となるニュース

・アサヒグループホールディングスは25日、英国でパブやホテルなどを展開するフラー・スミス&ターナーから高級ビールとシードルの両事業を2億5000万ポンド(約3億3000万ドル)で買収すると発表した。

・両事業の2018年3月末年度の売上高は約1億0200万ポンド、営業利益は680万ポンド。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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