焦点:日銀総裁、貿易摩擦を楽観視 下振れ意識の政策運営も

2019/01/24 12:32
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1月23日、日銀の黒田東彦総裁(写真)が会見で示した見解は、米中貿易摩擦の早期合意の可能性に代表される楽観的な見通しが目立った。昨年10月撮影(2019年 ロイター/ISSEI KATO)

 

[東京 23日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁が23日の会見で示した見解は、米中貿易摩擦の早期合意の可能性に代表される楽観的な見通しが目立った。3%台の世界経済成長をメーンシナリオに、現行の緩和政策を粘り強く続け、需給ギャップのプラスを維持しながら、ジワジワと物価が上がっていくことを想定するスタンスだ。

 

だが、米中交渉の結果次第では、下振れリスクの顕在化に直面する事態も想定され、日銀は緩和策の副作用もにらみつつ、難しい判断を迫られる可能性がある。

 

この日の会見で黒田総裁は、先行きについて楽観的な発言を展開した。最大のリスク要因である海外経済は「下方リスクが高まっている」としながらも、背後にある米中貿易摩擦について「個人的な意見だが収束に向かうのではないかと期待を込めて思っている」と指摘。

 

世界経済の減速懸念や米金融政策への思惑を巡って、年末・年始に急速に不安定化した金融市場に関しても「やや過敏だった」との認識を示した。

 

それでも日銀が、今回の展望リポートで海外経済のリスクに対して警戒感を一段引き上げたように、先行きは予断を許さない状況が続く。

 

ロイターが1月7日から16日にかけて資本金10億円以上の中堅・大企業を対象(250社が回答)に実施した調査によると、米国を中心とする貿易摩擦や保護主義などの影響で、2019年度は減収減益を見込む企業が製造業の半数に達していることが分かった。サプライチェーンの見直しを行う企業も3割を超えた。

 

黒田総裁は、中国経済の減速が日本経済に与える影響について「アジア向け輸出に影響は出ていない」と語ったが、23日に公表された昨年12月の貿易統計では、中国向けの輸出数量が半導体や半導体製造装置の急減などで13.8%減と大きく落ち込んだ。

 

市場では、中国政府による景気対策への期待感も根強いが「米中貿易摩擦による日本の輸出などへの影響は、これから顕在化してくる」(国内証券)との見方が少なくない。

 

<インフレ期待の動向に注意必要>

 

実際の物価下落が、インフレ期待に与える影響にも注意が必要だ。黒田総裁は19年度の物価見通しの下方修正は原油安が主因とし、「直接的な影響は一時的」との認識を示した。

 

また、同年度は幼児教育の無償化や携帯電話料金の引き下げが予定されており、コアCPIを一段と押し下げる可能性が大きい。

 

これらの要因の物価への直接的な影響は一時的で、実質所得の増加にもつながる。ただ、日銀ではインフレ期待が実際の物価動向の影響を受けやすいと分析しており、短期的であっても実際の物価の鈍化がインフレ期待の低下につながる可能性もある。

 

黒田総裁も物価下振れがインフレ期待に与える影響について「下方リスクの1つであり、十分注意していきたい」と述べている。

 

こうしたリスク要因を踏まえた金融政策運営について、黒田総裁は「需給ギャップのプラスの状態が長く続くよう、政策の持久力を意識してベネフィットとコストの両方を考慮しながら、適切な政策運営を行っていくことが大事だ」と、現行緩和策を継続していく姿勢を強調した。

 

同時に、世界経済などのリスクが顕在化した場合、「必要なら追加的な措置もとる」と言及したが、さらなる緩和の強化や長期化は「コスト」の拡大にも直結することになる。

 

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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