肥料の販売価格が高騰し、農家経営への影響が避けられそうにない。全国農業協同組合連合会(JA全農)は6月から大幅値上げに踏み切り、主要品目が過去最高値を更新した。ロシアのウクライナ侵攻で、肥料の原料となる窒素などの産出量が多い両国からの輸出が停滞し、国際市況が高騰したことなどが原因。今後も高値圏での推移が続くとみられ、政府・与党は新たな補助金制度の検討に入った。
JA全農は6~10月の販売価格について、輸入の尿素は最大94%の引き上げを実施。塩化カリウムは80%、複数の成分を組み合わせた「高度化成肥料」は55%、それぞれ値上げした。ホクレン農業協同組合連合会も1日、来年5月までの価格を平均78.5%引き上げると発表した。
肥料原料は主要産出国の中国が自国内への供給を優先して輸出規制を始めた昨秋以降、上昇ペースが加速。燃油価格の高騰や輸送コストの上昇、大幅な円安も価格を押し上げた。
全農は、中国からの輸入が大半を占めていたリン酸アンモニウムの調達先をモロッコに転換。カリウムは最大2割程度をロシアから調達していたが、カナダからの輸入量を増やした。ただ、供給不足は深刻で、「一部の商社が買い負けする事態が起きている」(専門商社)という。
政府は物価高騰への「総合緊急対策」で、調達先の変更に伴って増えた輸送費に対する補助金支給を決めた。また、農林水産省の幹部がモロッコを訪問するなど、調達先にも供給を増やすよう働き掛けている。
ただ、生産者の負担は膨らむ一方だ。農産物の販売価格は市場の需給動向に左右され、生産コストの上昇分を販売価格へ転嫁することが難しい。自民党の農林族議員は「長期の負担は離農につながりかねない」と危惧する。このため、政府・与党は価格上昇時に政府が補助している配合飼料と同様に、肥料にも農家に対する負担軽減策の導入を目指す。