ロシアによるウクライナ侵攻から24日で1カ月。現地でビジネスを手掛ける企業の一時撤退や事業停止が相次ぐ。金融制裁で決済が滞り、物流やサプライチェーン(供給網)も混乱。人権の尊重など企業に「社会的責任」を求める声も強まっている。ロシア事業のリスクが高まる中、完全撤退か継続か、難しい判断を迫られそうだ。
「人権を著しく侵害するあらゆる武力行使に反対する」。NECは22日、ロシア事業の停止と併せてコメントを発表した。抗議の意思を鮮明にしてきた欧米企業に続き、日本勢にも「社会的責任」を意識する発言が目立ってきた。
米ファストフード大手マクドナルドやカジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは本格侵攻後もロシア国内店舗の営業を続けたことで厳しい批判を浴びた。ESG(環境、社会、企業統治)重視の流れが世界的に強まり、「レピュテーション(評判)リスク」は無視できなくなっている。
ビジネス環境も悪化している。経済制裁の影響で海運などの物流が停滞。トヨタ自動車は部品の安定供給ができないとして、サンクトペテルブルク工場を停止した。世界の銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部銀行が排除され、「銀行間の資金決済に時間を要し、最終的に取引ができない可能性」(高島誠全国銀行協会会長)も出ている。
一方、サハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリンプロジェクト」では、シェルなど欧米石油メジャーが相次いで撤退を表明したのに対し、出資する日本勢は慎重姿勢を崩していない。撤退すればエネルギーの安定調達が損なわれ、取引価格のさらなる高騰にもつながるためで、ある関係者は「返り血が大き過ぎる」と指摘する。
帝国データバンクによると、3月15日現在、ロシアに進出する日本の上場企業168社のうち、約2割が取引や生産の停止を表明したが、完全撤退を決めた企業はない。プーチン大統領が撤退企業の資産差し押さえなどをちらつかせる中、同社は「進出時期が比較的新しい企業も多く、(完全撤退の)判断は難しいのではないか」とみている。