OMOという言葉をよく耳にすることがあるだろう。実際「OMOとは何か」と聞かれて答えることができるだろうか。本稿では「OMO戦略とは何か」「具体的にOMO戦略は何をめざすもので、そのためにどんなステップでどんな打ち手を具体的に打っていくべきか」について解説したい。
OMO戦略とは何か
OMOとは、Online Merges with Offlineの頭文字をとった略称で、「オンラインとオフラインの融合」という意味だ。
もっと具体的に言えば、ECのユビキタス性(いつでも・どこでも・いろいろな経路で)による利便性と、リアル店舗の実用性(実在の安心感、商品を実物で確認、返品や交換)を、融合するというものだ。
OMOを戦略的に実践する店舗では、もはや「レジ」はなく、「レシート」すらない。SNSを通じて、コンセプトに共感した消費者は、次に実際の商品やサービスに触れて、対面での人との接客を通じて「ファン」になっていく。
ここでいかに、スマートな購買体験を提供できるかが重要だ。
これまでの日本のリアル店舗では、お客と決済情報が必ずしも紐づいていなかったし、商品購入時のレシートが後日返品や交換の際の重要な証拠となるのだが、その管理も消費者にとっては案外難しいものだ。
そのため、お客はこの店の常連客だと思っていて「特別な対応をしてくれるだろう」と期待していたとしても、なじみの店員が不在だったりすると、顧客と購買履歴が紐づいていなければ、その期待は裏切られることになる。
繰り返すが、OMOを実践する店舗では、レジもレシートもない。だが、スムーズに返品や交換が受けられ、誕生日の月には優待サービスまで提供され、自身が来店したときには、なじみの店員の接客をうけることができる。まさに、高級百貨店のような痒い所に手が届く購買体験と言えるだろう。これを人手だけでなく、デジタルを使って、効率的かつタイムリーな購買体験を提供するのがOMOなのである。
小売業全体として、この戦略の重要性は日々増している。時間や場所に左右されずに、商品情報や価格をいますぐに知りたいというニーズは高まる一方だからだ。これらのニーズに的確に対応できない販売者は、消費者から存在を認知してもらえないことになる。
一方である程度購入を決めた後でも、商品の実在や実際の質感、色目、使用時の雰囲気を確認したいというニーズもある。アパレル業界やカメラ業界や家電業界では、ECで購入の意思表示をし、実店舗で最終確認を行って決済し商品は持ち帰りか宅配という取引が増加している。
アパレルを例にとると、最終確認で試着し、洋服とカバン、靴などのコーディネーションを確認することは、顧客満足度向上において非常に重要だ。着心地や、イメージと実際の着用時のマッチ度を測るには、いくらテクノロジーが進んでもリアルに勝るものはない。リアル店舗での接客も大きな要素となる。店舗スタッフによるコーディネートのアドバイスや顧客の不安状態の相談など、コミュニケーションも「ファン化」そしてブランディングに欠かせない。また、試着時に友人を誘って意見を聞くことも、本人にとって価値があるし、購買を左右する。
ECが抱える大きな課題として、「返品や交換の対応」が挙げられる。奥ゆかしい日本人には、購入してみて写真とイメージや生地感と違っていたとしても、「自分がEC上で購入を決断したのだから・・・」と返品を言い出せない顧客も一定割合で存在する。そうしたケースでも、リアル店舗で最終確認でき、交換要請や購入見送りが容易にできる意義は非常に大きいと言えるだろう。
このように小売業は「いかにOMOを実現するか」が顧客満足度向上の大きなポイントになるが、リアル店舗の確保、人材採用・育成、ECシステムと店舗システムの統合など、実際にOMOを実践するうえでは高い壁が存在する。
OMO戦略の3つのメリット
OMO戦略が注目されるようになった背景には、スマートフォンの普及がある。スマートフォンによって、消費者はパソコンが無くてもインターネットに接続できるようになった。この結果、消費者行動が多様化したのである。
スマートフォン1つでWebサイトから商品情報を収集し、複数のショップの価格やサービスを比較して、同じ商品を「できるだけ低価格で」購入することができる。また、消費者は場所や時間を問わず、効率的に買い物ができるようになった。そのため、企業側もOMO戦略を取り入れ、顧客満足度を上げて他社との差別化をめざしている。
OMO戦略には3つのメリットがある。
①今までにない顧客体験の提供で顧客満足度を向上
1つめは、実店舗とECを繋ぐことで、今までにない顧客体験を提供し、顧客満足度の向上を実現できる点だ。
SNSなどで、ブランドや商品に「いいね!」を付けてもらうことはたやすい、顧客が何も負担する必要がないからだ。しかし、一歩進んで「ブランドとファンという関係性」を構築するには、「気軽さの壁」を乗り越える必要がある。実際に店を訪れ、店舗の人と触れ合い、価値観の共有が必須だ。
また、欲しい商品がカバンなどの雑貨類の場合は、リアル店舗では店員によるアドバイスで、それに合うスカートやブラウスを提案することが可能だ。無理に進めることは、今の時代、逆効果になりかねないが、自然な会話のなかで、最適なコーディネート提案をして、顧客の不安を解消したり、満足度を高められれば、最終的にその人にとってのブランドイメージを上げることができる。
②顧客一人ひとりへのマーケティングに一貫性が生まれる
2つめが、一人ひとりの顧客に対するマーケティングに「一貫性」が生まれるという点だ。従来のように、マルチチャネルで販売チャネルがそれぞれ独立している場合、同じ顧客にバラバラのアプローチをすることになり、顧客にストレスを与えている可能性がある。
ECでダーク系のアウターを検索したユーザーに対して、SNSでは暖色系のワンピースの広告を表示し、メールで靴のセールの案内を送っても、その提案はちぐはぐで、効果的ではない。
OMO戦略では、顧客へのアプローチの窓口を明確化・一元化でき、コーディネートをベースに提案する。もしお店に来店しないお客であっても、ネットあるいはSNS経由でコミュニケーションができる仕組みでフォローすることができる。
③ 機会損失を減らせる
最後が、機会損失を減らせるという点だ。実際に、店舗に足を運んだのに欲しい商品の在庫がない場合、OMOであれば、EC上や近隣店舗の在庫を確認し、後日取り寄せることが可能だ。
OMO戦略により実店舗とECの在庫管理を連携させれば、在庫があるにもかかわらず商品を提供できない、という機会ロスを防ぐことができる。
OMOに必須の4つの機能
次にOMOを実践するうえで必須となる4つの機能について説明したい。それが①システム統合、②顧客統合、③カート機能の統合、そして④決済である。
①システム統合(商品・在庫機能)
商品に関する情報をOMOシステムで統合する。商品の計上や価格、搬送時の留意点、出荷時の形態など、商品マスターを顧客に公開し、来店時も自宅でのECサイト訪問時も参照を可能とする。
在庫(ローケーションを含む)情報をOMOシステムで統合する。店舗ごとの在庫状況、EC用の在庫を一括して参照可能とする。また、EC購入や他店舗からの移送要求について、当該店舗に入荷時、顧客へメール等でお知らせする機能も価値が高い。
②顧客統合
顧客の基本情報をOMOシステムで統合する。顧客の住所変更や電話番号の変更も一元管理でき、逐一顧客に尋ねる必要がなくなる。受け取り方法の推奨パーンの一元化(原則店舗受取、いつもは宅配など)も顧客にとって有意義である。
顧客統合は購買動向のシステムの統合も含む。購入履歴、ポイント、返品実績などが統合されており、次の商品の選択時に活用する。特に色やサイズの購入履歴は、次の購入時の良い参考となる。顧客担当の明示化も行う。
③カート機能の統合
ECのカート機能と店舗でもレジ機能を統合し、店舗でレジなし、キャッシュレスを実施可能とする。これにより、ECで購入後未受領商品などの受取場所の変更などを可能とする。
④決済(返品・交換)
店舗でもECでも同様の決済手段から選択可能とする。特に来店時のクーポン適用や招待状による飲み物サービスなどで、アプローチの方法の多様化を図る。また、店舗での返品や交換実施後、自分の端末で結末の確認を行えることも重要である。
ここで、参考として「OMOで新たにできるようになること」についても付加しておきたい。
デジタル化が進んでいる中国の事例になるが、都市部スーパーマーケットでは、商品に付いているQRコードにスマホをかざすだけで即座に商品の詳細やレビューを見ることができる。そして、「商品の実物を見て、詳細・レビューをチェックした」というデータが個人IDに紐づくのである。
OMOを展開する5つのステップ
最後に具体的にOMOを実装するための5つのステップについて解説する。
①全体計画
自社を取り巻く環境や競合の調査を行い、ターゲット顧客層を決め、販売チャネルや販売方法を考える。ECのみの場合は大きなコストをかけない洗濯もありますが、実店舗を考慮すると、全体計画の必要性がより高まる。
②組織間の調整
OMO戦略では、実店舗とEC間で各種管理の一本化が必須となる。在庫、顧客情報の一元管理、これらが顧客満足度向上を優先しつつ、自社の売上・利益を最大化するポイントだ。だが、国内の企業では、店舗とECは組織利益が相反したり、店舗のエリア間もあるいみライバル視しているので、これらを組織論によって解決する必要がある。商品から組織を見ることを、顧客から見るように変える必要があるかもしれない。
③実績配分のルール化
OMO戦略を導入すると、部門を超えた販売活動が行われる。ECで購入した商品を店舗で受け取る場合や他店舗から顧客の自宅に配送する場合は、売上をどの部門の実績とするかをあらかじめ定めておき、実績配分をルール化する必要がある。
④商品情報の一元管理
商品情報には、商品自身のデータ(サイズ・色のバリエーション・素材等)と在庫状態(ロケーションや入荷予定や出荷可能状態など)がある。
実店舗やECなどで品切れが生じた際に、販売経路のどこに在庫があるか把握し、最短期間で顧客に提供できるように在庫情報を一元管理するシステムを導入する必要がある。
⑤顧客情報を一元管理
実店舗とECサイトそれぞれで管理していた顧客のペルソナや購入履歴、ポイント情報を連携させるための一元管理システムを導入する必要がある。このシステムの導入によって実店舗とネットショップの境が無くなり、どちらで商品を購入しても顧客情報を把握できるようになるため、よりきめ細かいアプローチが可能になる。
以上、OMO戦略とは何か、OMO戦略で小売業が抱えるどんな課題が解決できるのか、OMOを実践するうえで必要になることは何か、そしてOMO戦略実践のためにどんなステップを踏めばいいのかについて解説した。
OMO戦略の着実な実行は、競争優位性をどれほど高めるかがご理解いただけたと思う。
小山 優雄(こやま まさかつ)
1965年東京生まれ、横浜国立大学卒業を千代田生命保険相互会社(現ジブラルタ生命保険)に入社、システム企画を担当。セゾン情報システムズに入社し、大規模開発のPMO、事業統括部マネージャーを歴任。DTWO SOLUTIONS(ディツーソリューションズ)を設立、大手コンサルファームと銀行・製造業・サービス業のコンサルティング案件に従事。株式会社スクロールに入社に取締役グループCIOに着任。システムインフラの全面刷新、基幹システムの再構築を実施。2022年スクロール社を退社し、独立。現在に至る。
オラクル社、富士通などIT企業の主催のセミナーにおいて、DX推進・ICT戦略・データセキュリティなど、多数の講演を実施。