会員制倉庫型卸・小売店の「コストコ」の商品を専門に扱うネットスーパー「SocToc(ソックトック)」が、好調な滑り出しを見せている。2023年2月28日から杉並区、練馬区、中野区の全域で開始した同サービスは、3月20日に新宿区、渋谷区、世田谷区の一部エリアを提供範囲に加えた。競合ひしめくデリバリーサービス市場で、SocTocはどのような勝負を挑むのか、運営会社WeCanDoIt(東京都/大里健祐社長)の代表に聞いた。
「食品の小分け」サービスを武器に
SocTocはコストコの商品のみを扱うネットスーパーだ。サービス開始前から1万人以上の登録者を集めたことで各メディアが取りあげて話題になった。配送対象の商品は、コストコで販売するほぼすべての食品、日用品で、配達時間は午前9時から正午、それ以降は22時まで2時間刻みに設定され、最短で注文した翌日に商品を受け取れる。
SocTocの配送体制はダークストア型をとる。注文を受けた商品をコストコで購入し、配送拠点へと運び、仕分け・管理などを行ったうえで、指定された時間にお客のもとへ配達する仕組みだ。ギグワーカーを活用するデリバリーサービスとは異なり、仕入れ・配送はパートナー契約を結ぶ配送会社が担う。配達スピードよりも配送の安定性を優先したかたちだ。
これについて大里氏は「ギグワーカーとのマッチングモデルは、注文後、即座にドライバーを確保できるかわからない。確実にお客さまのもとに商品が届くことを重視した」と説明する。
SocTocならではの強みの1つに、小分け販売ができる点にある。コストコには36個入りのパンや直径40cmのピザなど、ボリュームのある商品が売りである一方、単身者や少人数の家族が手を出しづらいという声もある。SocTocでは大容量の日用品や食品を別の箱・容器に詰め替え、小分け商品として販売する。大里氏は「これまでもコストコ商品の日用品を小分けにして販売するサービスはあった。しかし、食品領域まで踏み込む会社は今のところほとんど見られない」と話す。
他社が参入しにくい理由として、食品の小分け販売にあたり必要な資格や法律上の問題が挙げられる。SocTocは配送拠点に保健所の要件を満たした加工設備を設置し、食品スーパーなどと同様に総菜製造業の許可も取得している。大里氏自身も、食品衛生管理者の資格を取得した。
都内の杉並、中野、練馬の3区からスタートしたSocTocは、サービス開始から1カ月足らずで近隣3区に拡大し、今後は大阪や兵庫、名古屋、仙台など地方都市への進出もめざす。
大里氏は「サービス開始前から想像をはるかに上回る会員登録者数をマークした。最終的な目標としては、『コストコ商品を買うなら店舗に買いに行くか、もしくはSocTocで買うか』と消費者が考えるような共通認識を醸成したい」と語る。
コストコならではの購入体験に魅力がある
SocTocが多くの反響を呼ぶ裏側には、コストコの立地も関係していると大里氏は説明する。コストコの店舗は郊外立地が中心で、最寄り駅から遠いケースも多く、クルマがなければ来店が難しい店舗が多い。
「あるデータによると、23区内に住む人のクルマ所持率は全体の3分の1程度。クルマを持っている人でも、休日にコストコに行くと混雑から数十分の駐車場待ちをすることもざらにある。頻繁に行ける人でなければ、税込4840円(ゴールドスタータイプ)もかかるコストコの年会費が高くついてしまう。こうした背景から、より多くの人が気軽にコストコ商品を手にできる仕組みをつくりたかった」と大里氏は述べる。
大里氏は10年ほど前から大のコストコ好きだったという。その理由は「コストコには一般的な食品スーパーでは見られない食品が数多く並んでおり、そういった商品を新たに発見する楽しさがある」からだと語る。多くの人にコストコの魅力を伝える手段として、SocTocの立ち上げに至ったというわけだ。
運営会社のWeCanDoItは、大里氏をはじめ従業員の半数以上がエンジニアで構成される。コストコならではの購入体験をオンラインでつくる上で、テクノロジーの活用を積極的に取り入れてUI/UX(ユーザーエクスペリエンス/ユーザーインターフェイス)を追求していきたいと大里氏は語る。
「商品のスケール感の大きさもコストコの魅力の1つ。今後は、AR(Augmented Reality:拡張現実)を活用し、カートに商品を入れるとピザなどの商品が実寸大で机の上に現れる仕組みをつくっていきたい」(大里氏)
利益率よりもシェア拡大を優先
SocTocは商品の価格に利用手数料を上乗せするかたちで収益を得ている。しかしその利益率は、競合のデリバリーサービスよりも低い水準で設計しているという。
「まずは、コストコとデリバリーの組み合わせという領域でシェアを取り、低い利益率でも採算がとれる状態をめざす」(大里氏)
SocTocでは将来的に年間売上高100億円の達成を目標に掲げている。「東京近郊にはコストコが5店舗あり、1店舗当たり売上高200億円ほどと推定されている。コストコ利用者はもちろん、それ以外の潜在層も取り込み、全国に事業を拡大していけば、売上高100億円も達成不可能な数字ではない」(大里氏)
自身も高頻度でコストコに行くという大里氏は、店に訪れる度に、開店と同時に駆け込むお客の熱狂を感じているという。「この熱狂を伝播させてサービスの浸透を図り、勝ち抜いていきたい」と大里氏は熱く語る。