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デジタル給与に手数料引き下げ…決済の専門家が解説する2023年のキャッシュレストレンドとは

2018年4月に経済産業省によって策定された国内のキャッシュレス化ビジョンでは、2025年までにキャッシュレス比率を40%まで倍増させ、将来的には世界最高水準の80%まで引き上げることを目標に掲げている。新型コロナウイルスによるパンデミックにより生活様式が変化したことにより、キャッシュレスに関わる技術や仕組みは世界的に進歩している。本稿では、日本におけるキャッシュレス化の現在と、今後の方向性についてNCB Lab.代表の佐藤元則が解説する。

AzmanL/iStock

パンデミックとモバイル決済の台頭が後押し

 経済産業省の発表によると、国内のキャッシュレス決済比率は、2021年は32.5%であったが、2022年には36.0%(111兆円)まで伸びた。2010年から現在までキャッシュレス決済比率が堅調な伸びを見せる中、政府が目標としている2025年の40%は間違いなく到達できると佐藤氏は話す。

 大きな要因としては、パンデミックによってキャッシュレス意向が強まったこと、さらに現金が感染の媒介になることを恐れ、決済方法が現金以外の手段に流れたことが挙げられる。

 もう一つの要因は、PayPayを中心としたモバイルQR決済の拡大である。「PayPay」「d払い」「au PAY」「楽天ペイ」などのモバイル決済が加盟店を加速度的に拡大。さまざまなキャッシュバッグやポイント還元によりこれらサービスの利用人数は伸長している。

NCB Lab.代表の佐藤元則氏

 世界を見ても、決済に対する感染媒介の懸念は大きく、非接触決済が一気に拡大している。しかし、「世界の潮流から見れば、日本はまだキャッシュレスへのアクセルの踏み方や加速の仕方が緩い」と佐藤氏は話す。

 NCB Lab.が2022年12月に行った国内オンライン調査では、消費者の約7割が現金に対し「衛生的に抵抗がない」と回答。中小の個人事業主的なマーチャントの約半数が「現金の方がキャッシュレスよりも衛生的に安全だ」と回答している。

 つまり、日本では一定数の現金派がキャッシュレスへ移行していないということと、現金派とキャッシュレス派の中間層にあたる人々が、あまりキャッシュレスに移行していない、あるいは微増にとどまっているということなのである。

BNPLから汎用型独自クレジットへ

 昨今話題となっているBNPL(Buy Now Pay Later)については、佐藤氏は「利用者が安易に利用しすぎ、返済ができなくなるという事態が起きているため、世界的に規制が強化されているが、日本国内では徐々に浸透していくだろう」と予想する。

 そのためのカギとなるのがAtoA決済(アカウント・トゥ・アカウント:銀行口座間送金/決済)だ。銀行口座、あるいはモバイル決済事業者の口座をベースに分割払いができるようになれば、国際ブランドを介さずにモバイル決済事業者がそれぞれ独自の決済で分割払いを提供できる。それは「モバイルクレジット」というかたちで、ハウスクレジットカードのような汎用的な決済手段になるというわけだ。「Z世代やミレニアル世代を取り込む余地はとてもある。買いたい商品が今あるが、一括で支払うには難しいというケースなどのニーズを満たせるためだ」と佐藤氏は話す。

 BNPLはオンラインとの相性が良いため、embedded finance(エンベデッドファイナンス:非金融事業者が既存のサービスに金融サービスを組み込む「組込型金融」「埋込型金融」)という形でwebやアプリに後払いを組み込むことができる。

 海外でもパンデミック時に客単価・誘客向上策としてBNPLがトレンドとなり、現在も高額商品の決済においては堅調に伸びている。「日本にも同様のトレンドが訪れるとみられるが、規制が十分ではないため自主規制が必要となるだろう」(佐藤氏)。

トレンドワードは「給与デジタル払い」「加盟店手数料引き下げ」

 佐藤氏は2023年のキャッシュレストレンドワードとして「給与デジタル払い」と「加盟店手数料引き下げ」を挙げる。

 1つ目の給与デジタル払いは2023年4月1日から解禁された。元々はフィンテック、とくにモバイル決済事業者の決済およびキャッシュレスの拡大が大きな目的である。そのためPayPayや楽天ペイ、リクルートなど、手を挙げた事業者が認可を受けてサービスインするのは2023年後半または2024年初頭あたりになるとみられている。「これが実現すると、全額ではなくとも多くの人々が給与の一部をモバイル決済事業者に振り込むことを選択するようになり、キャッシュレスが進展するはずだ」(佐藤氏)。

 これまでは、銀行からの送金などチャージにかかるコストをモバイル決済事業者が全て負担しており、多くのコストがかかっていた。給与デジタル払いでは、銀行を介さずに決済事業者にマネーが直接振り込まれるため、決済手数料・加盟店手数料を安くすることができ、事業者にとっては大幅なコスト削減が期待される。さらにモバイル決済事業者は取引拡大のためにさまざまな特典を提示することが予測され、一層のキャッシュレス決済の拡大が見込まれる。

 二つ目が加盟店手数料の下げ圧力が強まるという点だ。2022年11月に公正取引委員会が「VISA」「Mastercard」「UnionPay」のインターチェンジフィー(カードが使用される取引を受け入れるため、銀行間で支払われる手数料)を公開した。「政府や公取のこのような取組みや、情報公開による手数料への認識などが加盟店手数料の下げ圧力の動きとして少しずつ出てくるだろう」(佐藤氏)というのだ。

 既存の収益源が減少することになれば、国際ブランドは加盟店手数料に依存しないビジネスモデルへの転換が必要となる。「月額課金の予約受付サービス、従業員管理・勤怠管理・給与計算などの付加価値サービスなど、国際ブランドは今後、「決済プラスアルファ」のサービスで儲けていくかたちになるだろう」(佐藤氏)。

 実際に米国ではBlock(ブロック:旧スクエア)やToast(トースト)などの企業が前述の付加価値のサービスを積極的に提案し、収益をあげている。現在は加盟店手数料への収益依存が大きいが、加盟店手数料はいずれ下がるため、ビジネスモデルをシフトしていく必要がある。「米国以外にもヨーロッパやオーストラリアでは加盟店手数料が政府主導のもと限りなくゼロに近づいており、インドやメキシコでは無料となっている。これらの国ではリアルタイム決済ネットワークがあるため、実現可能になっているという背景もあるが、日本でも大企業や中堅企業を含め加盟店ももっと声をあげていくべきだ」と佐藤氏は述べる。