米アマゾン(Amazon.com)は、物流の最終拠点から顧客宅までのラストマイル配送を効率化する新システムを開発した。配達トラックにAIを活用した新技術を導入し、各配達地点で荷物の識別作業を約1分で済ませられるようになる。これにより、1日当たり約100軒の配達をこなすドライバーの負担を軽減できるとしている。
視覚支援型の荷物識別システムを開発

アマゾンは今回、「ビジョン-アシステッド・パッケージ・リトリーバル(VAPR:視覚支援による荷物識別)」と呼ぶシステムを開発した。
ドライバーが配達地点に到着すると、その地点で届けるべきすべての荷物に緑色光の「◎」マークが、それ以外には赤色光の「×」マークが照射される。これにかかる時間はわずか数秒。従来は、配達地点に停車する度に荷物を整理したり、バーコードをモバイルデバイスで読み取ったり、顧客の名前・住所を確認したりしていた。だが今後は、トラックの荷台で緑色マークの荷物を見つけ、手に取り、顧客宅に運ぶだけでよい。誤配達も防げる。
これを実現するために、車両の天井にカメラとLEDプロジェクターを設置した。VAPRは、周囲の状況を認識・処理した後、複数のバーコードを同時検出して、それぞれの内容を読み込む。さまざまな照明条件やパッケージ形態でも荷物ラベルを認識できるよう機械学習モデルをトレーニングした。トラックに搭載の配送ルート・ナビゲーションシステムとも統合されている。VAPRは、機械学習やIoT(モノのインターネット)などのテクノロジーを車内環境で実現したものだとアマゾンは説明する。
1配送ルート当たり30分超短縮
アマゾンは2025年初頭までに米国内でVAPRを搭載した電気自動車(EV)トラックを1000台導入する予定だ。同社には「デリバリー・サービス・パートナー(DSP)」と呼ぶ、宅配業の起業を支援するプログラムがある。VAPRの開発では、同プログラムに参加する宅配業者と協力し、数百時間におよぶ実験を実施した。その結果、ドライバーの感じる身体的及び精神的な負担が67%軽減され、1回の配送ルート当たり30分超の時間短縮に成功した。
「世界中で39万人を超えるDSPのドライバーと、当社の配送車両10万台以上が毎日数百万個の荷物を配達する中、VAPRはドライバーの時間と労力を大幅に削減できる」と、アマゾンはその意義を強調している。
大量データ収集し、AIモデル開発
英ロイター通信によれば、VAPRのような識別支援システムはアマゾンの物流倉庫にも導入されている。同社倉庫では、自動移動式の商品棚に光を当て、商品を識別している。従業員は1カ所に留まりながら、それらの商品をピックアップしてケースに入れる作業を行っている。以前は狭い通路をカートを押して歩きながら商品を探す作業を繰り返しており、1日当たりの歩行距離は16kmに上っていたという。
アマゾンは、顧客の購買行動や物流システムに関する大量のデータを収集して、業務に生かしている。現在は、その膨大なデータを使用して、倉庫ロボティクスから配送ルートの最適化に至るまで、さまざまな用途のAIモデルを開発している。
同社がトランスフォーマー・アーキテクチャーを用いて、需要予測とサプライチェーン最適化のためのAIモデルの開発に着手したのは20年のことだった。22年からは倉庫内の搬送ロボットにAIトランスフォーマーモデルを追加し、ロボット同士がよりスムーズに動き回れるようにした。これらは「ゴーカート(GoCart)」と呼ぶ荷車を持ち上げて搬送するロボットだ。その多くはQRコードを用いて操作するものだが、アマゾンは22年に完全自律走行型搬送ロボット「プロテウス(Proteus)」を開発した。
商品を梱包した段ボール箱を、荷かごに仕分ける「ロビン(Robin)」や「カーディナル(Cardinal)」も開発した。22年11月には、商品の仕分けを行うAIロボットアーム「スパロー(Sparrow)」を披露した。これは段ボール箱ではなく、商品パッケージそのものを認識する点で画期的だ。
23年10月には、出資する米新興企業アジリティ・ロボティクス(Agility Robotics)が開発した人型ロボット「ディジット(Digit)」の運用テストを開始した。二足歩行ロボットであるディジットは、物流施設内を移動し、二本の腕で物品を持ち上げ、別の場所に移す作業を担っている。アマゾンは商品パッケージの破損状態を確認するためにもAIを活用している。人間に比べて3倍の効率化が図れるとしている。
AWS生かしてAIモデル訓練
アマゾンは傘下にクラウドサービス事業を手がける米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を持つため、AIのワークロードを実行する膨大な数のサーバーを保有する。これにより自社内でAIモデルを訓練することが可能で、これがアマゾンの競合に対する強みだとされる。
アマゾンは24年11月、生成AI開発の米新興企業、アンソロピック(Anthropic)に40億ドル(約6000億円)を追加出資すると明らかにした。同社は23年9月からアンソロピックへの出資を開始し、24年3月にはその額を40億ドルに引き上げた。今回の出資で、累計出資額は80億ドルと、倍増する。AWSは自社でAI専用半導体や開発者向け生成AI「Amazon Q」を開発している。アマゾンはこれらの技術を様々なEC業務に活用している。