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アマゾンが直営SMの新規出店再開 ”緊縮”から投資拡大フェーズへ

米アマゾン(Amazon.com)が米国で直営スーパーマーケット(SM)チェーン「アマゾン・フレッシュ(Amazon Fresh)」の新規出店を再開した。アンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)は1年半前、「現時点でリアル店舗事業は期待に応えられない」と述べ、出店戦略の一時中止を決めた。だがすでににコスト削減の時期は過ぎ去り、再び投資モードに入っている。

アマゾンフレッシュ 1年半ぶり新規出店

今回新規開発したIDバッジを装着して院内の店舗に入店すると、レジを通らずに精算を済ませられる。(写真はアマゾンフレッシュ)

 米経済ニュース局CNBCによると、24年夏、米東部ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外ベンサレムのアマゾン・フレッシュの新店に、数百人の買物客がグランドオープンのために集まった。アマゾンは24年6月以降、米国のさまざまな州でアマゾン・フレッシュをオープンしており、ベンサレム店はそのうちの1店である。

 このほか、米西部カリフォルニア州、中西部イリノイ州、東部メリーランド州、東部ニュージャージー州、南部バージニア州などでアマゾン・フレッシュをオープンした。加えてイリノイ州とカリフォルニア州では5店舗をリニューアルオープンした。24年内及び、25年にはさらに多くの店舗をオープンすると意気込みを示している。

 同社がアマゾン・フレッシュの1号店を開いたのは、新型コロナウイルス感染拡大の初期だった。しかし、その後の業績低迷を受け、リアル店舗事業の見直しを余儀なくされた。アマゾン・フレッシュは20年時点で200店舗超を出店する予定だったが、計画の中断に伴い店舗数は現在、約50店にとどまっている。

新型コロナ下で相次ぐ店舗閉鎖

 アマゾンはこの期間に他のリアル店舗も閉鎖した。書店「アマゾン・ブックス(Amazon Books)」やECサイトでの高評価商品を集めた店舗「アマゾン・4スター(Amazon 4-star)」、ショッピングモール内の小規模店「アマゾン・ポップアップ(Amazon Pop Up)」である。レジレスCVS「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」も一部店舗を閉鎖した。

 だがこうした緊縮モードは、ほぼ過去のものとなったと言えそうだ。アマゾンは投資モードに戻り、経営資源をアマゾン・フレッシュに注いでいる

 同社はカリフォルニア州とイリノイ州の一部店舗で、顧客体験を改善した新しい形態をテストした後、その成果を新店舗に活用している。「リニューアルした店舗では購入金額が増加し、顧客満足度スコアも向上している」(同社)という。今後も、買物客からのフィードバックに基づき、アマゾン・フレッシュの出店場所を選んでいくとしている。

事業成長にはリアル店舗の存在も不可欠?

 アマゾンは24年4月、店舗戦略の一環として「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」と呼ぶレジレス精算システムをアマゾン・フレッシュなどの大型店で廃止すると明らかにした。それに代えてセルフレジ機能付きのショッピングカート「ダッシュカート(Dash Cart)」の導入を拡大。買い物途中で合計金額を逐次表示する大型店向け機能を提供し、利便性を高めている。

 ジャシーCEOと幹部らは、食品事業をさらに成長させるためには、リアル店舗の数を増やす必要があると考えている。米証券大手ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのデータによると、1兆6000億ドル(約244兆円)規模の米国食料品市場における、EC販売の売上高はわずか11%にとどまる。これは、EC販売が41%を占める家電などの他のカテゴリーと比べて低い水準である。アナリストらも「食料品業界で大きく成長するためには、リアル店舗を持つ必要がある」と指摘する。

 アマゾンの2023年通期におけるリアル店舗事業の売上高は前年比5.6%増の200億3000万ドルだった。同社年間売上高である5747億8500万ドルに占める比率はわずか、3.5%である。

 この比率はクラウド事業のAmazon Web Services(AWS)で16%、ネット広告事業で8.2%になる。すなわち、アマゾンのリアル店舗事業はいまだ規模が小さい。だからこそ、その伸び代は一層大きいと言えるのかもしれない。