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米アマゾンがレジレス戦略見直し! 「ダッシュカート」を大規模展開へ 

米アマゾン(Amazon.com)がリアル店舗でのレジレスシステム展開を大幅に見直している。レジレス精算システムの「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」を大型店から撤去し、セルフレジ機能付きのショッピングカート「ダッシュカート(Dash Cart)」の導入を拡大する。他の小売業者にサービスとして販売する事業も積極展開していく。

「ダッシュカート」をSMチェーンに大規模展開へ

(左)ジャスト・ウォーク・アウト設置店舗の入り口、(右)セルフレジ付きショッピングカート (アマゾンのプレスリリースの資料より)

 レジレス精算技術を展開する戦略について、アマゾンが見直す方針を発表したのは2024年4月のことだ。新たな方針では、スーパーマーケット(SM)などの大型店ではダッシュカートで精算を済ますシステムの導入を進め、外販も始める。米経済ニュース局のCNBCによると、米カンザス州や米ミズーリ州でSMチェーンを展開するプライスチョッパー(Price Chopper)、マッキーバース・マーケット(McKeever’s Market)両社の数店舗で、すでにダッシュカートの試験運用を始めているという。

 アマゾンはダッシュカートを20年に導入。直営SMチェーン「アマゾン・フレッシュ(Amazon Fresh)」から取り入れ、傘下の高質SMチェーン「ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)」の一部店舗にも展開した。

 ダッシュカートにはカメラやセンサー、コードリーダー、ディスプレーなどの機能が組み込まれている。店内で買物をする手順はこうだ。

 まず顧客は入店時、スマートフォンの専用アプリにQRコードを表示し、カートのリーダーに読み取らせる。買物中は、商品を店の棚から取って商品バーコードをリーダーにかざす。果物など商品にバーコードがない商品の場合は、商品棚に表示されたPLUコードをタッチスクリーンに入力。カートのディスプレーは、合計金額を逐次表示する。

 商品はカートにセットしたショッピングバッグに入れ、買物が終われば専用レーンを通ってカートを元の場所に戻す。そうするとクレジットカード情報が登録されたアマゾンアカウントで自動精算されるので、カートからショッピングバッグを取り出して店から出るだけでいい。レシートはスマホに送られる。

大型店に向かなかった「ジャスト・ウォーク・アウト」

 アマゾンがこれまで展開してきた「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」は、カートを使うことなく、精算を自動完了させるシステムだ。同システムでは、店内の天井と商品棚に設置した数百基のカメラやセンサーで顧客や商品の動きを捉えるので、顧客が買いたい物を棚から取ると、仮想ショッピングカートにその商品が入る。一度手に取った物でも、棚に戻せばカートから削除される仕組みだ。欲しい商品をすべて自分のバッグなどに入れて店を出れば自動精算されるので、手に取った商品をそのまま持って帰ることができる。万引きと誤解されそうだが、入店時にシステムが客の身元を確認しているので、そうした事態は防げる。

 ただ、このシステムを実現するには、コンピュータービジョンやディープラーニング・アルゴリズム、センサーフュージョンなどの大掛かりな設備が必要になり、大型店に導入するにはコストがかかる。顧客も買物途中でその時点の金額がいくらなのかわからないという不便さもあった。こうした点から、少量の買物にとどまるコンビニエンスストア(CVS)では便利だが、SMのように多くの商品を購入する形態の店舗では実用的ではないと指摘されていた。

 そこでアマゾンは方針を変えた。米メディアのジ・インフォメーションは24年4月、同社が年内に既存のアマゾン・フレッシュ店舗の大部分でジャスト・ウォーク・アウトを撤去すると報じた。アマゾンの食料品部門シニアバイスプレジデントのトニー・ホゲット氏はインタビューで、「今後出店する予定のアマゾン・フレッシュでは、ジャスト・ウォーク・アウトではなく、ダッシュカートに焦点を当てる」と述べている。CNBCによれば、アマゾンはホールフーズ・マーケットの一部店舗でもジャスト・ウォーク・アウトを撤去するという。

 一方、CVSなどの小型店では今後も導入を続ける。直営のレジレスCVS「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」や英国にあるアマゾン・フレッシュの小型店では同システムを継続し、外販も引き続き行う。小売店以外でも、ジャスト・ウォーク・アウトを空港や映画館、スタジアムで店舗展開する小売事業者に売り込んできたが、この戦略は継続する。

「リアル店舗の最大の欠点」はレジ待ちの列

 アマゾンは声明で「ショッピング体験を再考する旅を始めてから10年で多くのことが変化したが、1つ変わらないことがある。それは、買物客は列に並ぶことを嫌がるということだ」と説明した。米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)アプリケーション担当副社長のディリップ・クマール氏は「レジ待ちの必要がなくなり、ショッピング体験は大きく改善した」と強調する。

 創業者のジェフ・ベゾス氏は、18年の株主宛て書簡で同社がリアル店舗事業に進出するにあたって構想を掲げている。それは、顧客満足度の向上につながる何かを発明することだ。それが「レジ待ちの列」というリアル店舗の最大の欠点を取り除こうという考えに至ったと同氏は説明する。アンディ・ジャシーCEO指揮下の今のアマゾンもこの考えに変わりはないようだ。