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台頭する中国系EC「Temu」と「SHEIN」にアマゾンが”厳戒態勢”の理由

米アマゾン(Amazon.com)が米国で人気急上昇中の2つの中国系越境ECサービスを警戒していると、米『ウォールストリート・ジャーナル』紙が2024年3月に報じた。2つの中国系ECとは、現地で「拼多多(Pinduoduo)」を展開するPDDホールディングスが手がける越境EC「ティームー(Temu)」と、アパレル越境ECを手がける「シーイン(SHEIN)」。物流の効率化によってスピーディな配送を実現し、顧客満足度の向上を追求するアマゾンに対し、中国系ECは物流コストをできる限り抑えた低価格戦略で顧客満足度を高めるという戦略をとっている。

ウォルマートよりもTemuとSHEINがアマゾンの脅威に?

中国系越境ECを展開するTemuとSHEINが米国で台頭し、アマゾンにとっても小さくない脅威となっている

 TemuとSHEINはいずれも米国市場で急拡大しているサービスだ。Temuは22年秋に米国でサービスを開始。米調査会社のセンサータワーの推計によると、若者を中心に利用者を増やし、米国における月間アクティブユーザー(MAU)数は24年1月に5140万人へと増加した。SHEINのMAUも同期間に2090万人から2600万人に増加している。

 その一方、アマゾンのMAUは同期間に6960万人から6700万人へと減少している。関係者によると、アマゾンはこれまで、米小売最大手ウォルマート(Walmart)と米ディスカウントストア大手のターゲット(Target)を主な競合としてみてきた。だが最近は、TemuとSHEINが社内会議での話題の中心になっているという。2つの新興ECサービスを自社サービスの優位性に対する重大な脅威と捉え、注視しているのだ。

「安ければ待つことはいとわない顧客」に勝機を見出す

 アマゾンと中国系EC2社には決定的な違いがある。それは物流モデルのあり方だ。

 アマゾンは最近、米国での物流体制を見直した。全米の自社物流網を8つの地域に分割し、地域ごとに物流を完結できる「リージョナリゼーション(地域化)」と呼ぶオペレーションに切り替えたのだ。顧客に最も近い場所に在庫を配置することで、配送の迅速化とコスト削減を図るねらいで、すでに「23年は40億個以上の商品を当日または翌日に届けた」とアマゾンは説明している。

 これに対し、TemuとSHEINは既述のとおり越境ECである。米国の倉庫には大量の在庫を置かず、注文が入ると都度、中国から商品を輸入するかたちをとる。そのぶん配達日数は延びるが、それを商品価格を割安に設定することで補っている。ウォールストリート・ジャーナルによれば、TemuとSHEINは「待つことをいとわない顧客」が存在することを見出し、低価格戦略でアマゾンに対抗しているという。

ティックトックもEC参入 アマゾンからの引き抜きも多発!

 さらに状況は変わりつつある。というのも、Temuが最近、アマゾンのビジネスモデルを取り入れたのだ。

 簡潔に言えば、Temuが自社のECマーケットプレイスを、米国と欧州の販売業者に開放したのだ。自社ECプラットフォームに外部販売業者を参加できるようにしたことで、今後は配送コストのいっそうの低減も見込まれる。さらに最近では、中国発の動画共有アプリ「TikTok」も米国でECサービスを開始。TikTokとSHEINは、アマゾンが本社を置く米ワシントン州シアトルで従業員数を増やしている。米国における物流・サプライチェーンの構築を目的に、アマゾンの従業員を引き抜いているという。

 こうした状況下で、アマゾンはどのような対抗策を講じるのか。ウォールストリート・ジャーナルはアマゾンの”過去の行動パターン”に注目している。

  同紙によれば、アマゾンは自社事業の脅威になり得るサービスが現れると、特別チームを編成してライバルを徹底的に調査・研究してきたという。そこで得られた知見をもとに、①値下げによる対抗、②M&A(合併・買収)、③戦略の模倣という大きく3つの動きに転じる。たとえば10年には、ベビー用品通販サイトの米ダイパーズ・ドット・コム(Diapers.com)などを傘下に持つ米クイッツィ(Quidsi)を傘下に収めている。このM&Aもアマゾンという企業の行動パターンの1つだと同紙は指摘している。

 台頭する中国勢を前に、アマゾンはどのような行動パターンを選ぶのだろうか。