「ダンボール・梱包材」の国内販売市場は2.5兆円(2020年時点)規模ともいわれ、EC化率は市場全体の0.5%程度と、ほとんど進んでいない。ダンボールのEC市場に参入し、今や独走状態にあるのが、ダンボール専門のECサイト「ダンボールワン」だ。業界の常識にとらわれず、ユニークなビジネスモデルで成長を続けている。さらなる飛躍をねらうダンボールワンを運営するラクスル(東京都/永見世央社長)の事業統括に話を聞いた。
小ロット注文でも低価格で提供できる理由
ダンボールワンは多種多様な材質、形状、サイズのダンボールを揃える専門ECサイトだ。梱包材やテープなどのダンボールの関連商品を含め約6万種類の商品を販売している。2005年に立ち上げた当初の年間売上高はわずか7000円だったが、現在は70億円を超える規模のECサイトに成長した。
最大の特徴は、販売するダンボールに約6000種類の規格サイズを設けている点だ。一般的なダンボール販売会社は、顧客のニーズにあわせて納品するいわゆる「オーダーメイド」である場合が多い。ダンボールワンは規格品のダンボールを提供するが、6000という数字が示すとおり、実質オーダーメイドに近い。そのうえ、サイズごとに多くの在庫を用意しているため小ロットのオーダーでも低価格で販売できる。
ラクスルのダンボールワン事業統括を務める前川隆史氏は「小ロットのダンボールを販売する場合で、一般的なダンボール販売会社とダンボール1枚当たりの金額を比べると、当社は4分の1程度の価格だ」と話す。
コロナ禍でEC販売の需要が高まり、小規模事業者によるダンボールの小ロット受注が増加したため、ダンボールワンは大きな成長を遂げている。20年7月期の売上高33.3億円に比べ、23年7月期は74.9億円と2倍以上に伸長した。前川氏は「ダンボールの販売市場に一般的なマーケティングの考え方を採用し、低価格で販売できる体制を整えたことが成功要因として大きい」と話す。
24時間いつでもWeb上で見積もりが取れる「自動見積もりシステム」の開発・導入も、成功要因の1つだ。従来必要だったお客との打ち合わせが不要になり、出荷までの工程を省略可したことで、UX(ユーザー・エクスペリエンス)の向上と省人化に成功した。
商品の製造過程にも強みがある。ダンボールワンは、複数のダンボールメーカーと提携し、各工場の遊休時間を利用して製造している。一般的に、ダンボールは1枚当たりの価格が安く、遠方に運ぶほど配送料が割高になるため、メーカーにとっては周辺の法人や工場にしか販売することができない。お客が限定されると、工場の遊休時間が多くなる。ダンボールワンは、そうした工場の空き時間を利用して低コストでダンボールを製造している。
ラクスルや傘下のグループ会社との共同配送なども視野に入れており、配送効率の向上を図るという。前川氏は「原材料や配送費の上昇が懸念されているが、極力、販売価格に転嫁しない方法を探りたい」と話す。
ラクスルの知見を生かし、さらなる飛躍へ
ダンボールワンは1978年、石川県のダンボール製造・販売を手掛ける町工場で創業し、業界でいち早くダンボールのEC化に取り組んだ。20年に、印刷業界でソリューション事業などを展開するラクスルが株式を取得。その後22年に完全子会社化、翌23年8月に合併吸収し、現在に至る。
「23年8月にダンボールワンがラクスルのいち事業になってから、当社が持つ物流網やマーケティング施策などさまざまな強みを共有できる体制になった。今後もラクスルや傘下のグループ会社と積極的に連携していきたい」(前川氏)
これまでは自社名を印刷したダンボールを無地の商品よりも安価で販売するのが主な自社広告の手法だったダンボールワン。ラクスルの傘下に入った20年以降はテレビCMやWEB広告を打ち出しており、その効果として認知度の向上を感じているという。
足元では、気泡緩衝材やテープなどダンボールの関連商品の拡充に力を入れている。「ダンボールを求めるお客さまが、各自の使用目的にあわせて必要な関連商品が揃うような専門性の高いECをめざす」(前川氏)
商品数が多くなることで、お客が商品を探しにくくなるといった問題もある。サイトのUX向上は、ダンボールワンが現在、抱えている課題だ。直近では、お客にとって最も大切な要素であるダンボールのサイズ感がサイト上で伝わりにくいという問題を解決するため、人が箱を持っている写真を掲載するなどの工夫でUX向上を図っている。
現在は売上規模70億円超のダンボールワンだが、「早期に100億円を超えたい」と前川氏は意気込みを述べる。