レディースファッションやコスメをメーンに扱う国内向けECサイト「Qoo10」が、成長を加速させている。ビッグセール「メガ割」などの施策がZ世代を中心に反響を呼び、2018年に約1000万人だった会員数は現在、2300万人を超える(23年8月時点)。本稿では運営会社eBay Japan(東京都/グ・ジャヒョン代表)の営業本部長を取材し、Qoo10が急成長を遂げた要因を聞いた。
反響を呼んだ3つの施策
Qoo10は、韓国最大のECサイト「Gmarket(ジーマーケット)」の運営会社が日本に進出し、2010年に開設したECモールだ。開設当初は日本国内で韓流ブームが巻き起こりはじめていた時期で、主に韓国コスメなどが10代を中心とした若年層に人気となり、会員数を伸ばした。
この成長ぶりに世界が着目し、米EC大手のeBayの日本法人であるeBay Japanが18年、Qoo10事業を買収する。20年からはコロナ禍の外出自粛を追い風に、登録会員数をさらに伸ばした。
コロナ禍の出口が見えはじめた21年以降、成長スピードが鈍化しつつあったQoo10においてeBay Japanが打ち出したのが、マーケティング施策「メガ割」「メガポ」と、ライブコマース「Qoo10ライブショッピング」だ。
21年9月に初めて実施したメガ割は、3カ月に1度、最大20%オフのクーポンを消費者1人当たり9~10枚配布するセールイベントだ。メガ割を開始するにあたり、eBay Japanはセールスプロモーションを大きく変えている。従来はテレビCMを出稿していたが、ターゲットの年齢層を踏まえ、インフルエンサーを起用したSNS広告にシフトした。
eBay Japan営業本部の金良洙(キム・ヤンス)本部長は、「メガ割はInstagramやTikTokなどのSNSで口コミ的に“バズ”り、Qoo10のトラフィック(アクセス数)を大きく伸ばした。ほかにも新規ユーザーの獲得、リピーターの増加など一定の成果が得られた」と話す。
ライブコマースのQoo10ライブショッピングは、メガ割と同じく21年9月に初めて実施した取り組みだ。配信中にお客がセラー(ECに出店する会社)に質問でき、双方がコミュニケーションを取れる点が特徴となっている。さまざまなゲストがライブ配信を盛り上げるエンターテインメント性の高さが人気のコンテンツで、売上に寄与につながっている。
23年4月に開始したメガポは、年8回、メガ割を開催しない月に行うポイントバック形式のセールだ。購入金額の20%、1 回の注文につき最大1万ポイント(1ポイント=1円に相当)が還元されることから購入単価の上昇に寄与するほか、リピーターを優遇し満足度を高めるねらいがある。
eBay Japanは今後、メガポ対象商品を食品カテゴリーに広げていく予定だ。Qoo10の売上高構成比はコスメやファッションなどが大多数を占め、食品カテゴリーは現在、10%未満にとどまる。金氏は「食品は購入頻度が高く、リピーターを生み出しやすいため、メガポとの親和性が高い」と語る。
特定のジャンルに強みをもつECモールの総合化は、同業他社にも見られる傾向である。eBay Japanは強みのレディース向け商品を強化しながら、他ジャンルも充実させることで購買機会やリピーターの増加、LTV(顧客生涯価値)の獲得につなげていく考えだ。
eBayの資本力を生かした「成長のための投資」が奏功
Qoo10の歴史を振り返ると、「開設当初の2010年頃は、楽天市場に代表されるテナント型ECモールと、Amazonのようなマーケットプレイス型ECモールの中間に位置する形態で運営していた」と金氏は話す。
eBay傘下となったQoo10は、それまでとは異なり顧客を重視する企業風土に変わり、グローバル企業たる安定性を持つようになった。従来よりも安定した予算が組まれ、資本力を生かした施策を行えるようになった。
たとえば技術部門に人材を増やし、プラットフォームのUI(ユーザー・インターフェイス)を改善した。メガ割を初めて実施した際、トラフィックの約95%をスマホアプリが占めたことからアプリのUIに目をつけ、品質向上につなげたのだ。
ほかにも22年4月にファッション専門モール「MOVE」を開設し、ファッションに関心度の高いユーザーを取り込んだ。それによりQoo10のトラフィック増加を後押ししたほか、消費者に「ファッションに強いQoo10」を印象づけることも成功したという。
営業部門も人員を拡充し、セラーとコミュニケーションを図るマーチャンダイザーを増やしている。eBay傘下になる以前と比べてセラーの審査は厳格化しているが、23年8月時点で1万7500社のセラーが登録するまでに拡大を果たした。
eBay Japanは今後、Qoo10を総合モールとして進化させる方針を示しつつも、主力のファッション・コスメ事業の成長を重視する姿勢は変えない。金氏は「新たな分野としてメンズのファッション・コスメを強化することで10~20代男性の新規登録会員獲得につなげ、24年度も2ケタ増収をめざす」と意気込みを語る。