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スーパーvsコンビニのキャッシュレス比率、スーパーがリードする謎 

支払い手段が現金からキャッシュレスに移行することも、DX(デジタルトランスフォーメーション)の領域に含まれるでしょう。食品小売に関わる業態で、この分野の最新ツールをいち早く取り入れるのはいつもコンビニエンスストア(CVS)ですが、キャッシュレス決済の浸透度でいうと先を行くのはスーパーマーケット(SM)、総合スーパー(GMS)のようです。CVS大手3社のキャッシュレス比率は、20年12月時点で33.6%(キャッシュレス推進協議会調べ)ですが、SM、GMS大手では60~70%というところも出てきています。なぜか? データをもとに現状を確認したいと思います。

比率70%も!SM、GMSで進むキャッシュレス

 全国スーパーマーケット協会が昨年実施した調査では、20年6月のキャッシュレス比率は「キャッシュレス・ポイント還元事業」に参加したSM、GMSで36.7%、非対象のところで33.3%ということでした。コンビニと変わらないじゃないかと思うかもしれませんが、これは同調査に回答した301社の集計です。コンビニのように突出した大手3社の内訳ではありません。

 SM、GMSの先進事例がどれほどかというと、今年5月に聞いた範囲ではヨークベニマル(福島県/真船幸夫社長)が約70%、イオンリテール(千葉県/井出武美社長)とマックスバリュ関東(東京都/島田諭社長)がともに約60%と抜きん出ています。ヨークベニマルには「nanaco」、イオンリテールには「WAON」ならびにグループのクレジット決済という強力なツールがあり、さすがは2大流通グループといったところです。

 キャッシュレス比率50%台前半にはライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)、北雄ラッキー(北海道/桐生宇優社長)、平和堂(滋賀県/平松正嗣社長)など、地域もフォーマットも規模も異なる企業が続きます。先の60%以上の3社にもいえることですが、地域も規模も関係なく、高いところは高いのです。

CVSはキャッシュレス万能だが?

 政府は2025年にキャッシュレス比率40%という目標を掲げていて、経済産業省の調査によると19年には26.8%でした。5年前に比べ10%上昇しています。SMの場合、前述した以外にも40%を超える企業は珍しくありません。30%台というチェーンでも、この1年で5%を超える上昇率というところは多く、遠からずキャッシュレス比率40%は業界水準になりそうな印象です。

 ドラッグストアでも、食品構成比が40%を超える薬王堂(岩手県/西郷辰弘社長)のキャッシュレス比率は50%を超えています。来店頻度の高い食品の購買チャネルは、キャッシュレス決済との相性がいいことは間違いなさそうです。

 CVSも、先の統計では20年12月で33.6%でしたが、セブン‐イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長)は20年2月に44.1%という数値を公表しており、現状はそれよりも高いといいます。他大手2社も30%台のようです。国全体に比べキャッシュレス比率は高いわけですが、とはいえSMの上位とは様子が異なります。

 CVSは、ほぼ考えられる限りのキャッシュレス決済を利用できる業種です。SMはクレジットカードしか使えないところも少なくありません。自分の使いたい決済ツールが使えるのはCVSの方なので、SMでキャッシュレス決済をしている人なら、CVSでもキャッシュレスで済ませそうなものです。どちらでも現金払いの人が、より多くコンビニを利用しているのでしょうか。

 客層は確かに違います。総じてCVSは過半が男性、SM、GMSは過半が女性です。この差でしょうか? キャッシュレス決済に関する意識調査は多く行われていて、男女の違いで傾向が変わるかというと、結果はまちまちです。キャッシュレスへの意向や使用する決済ツールのそれぞれについて、男女の違いは明確ではありません。

コンビニはクレジット決済の利用割合が低い

 違うといえば、客単価は異なります。CVS3社の客単価はコロナ以前の18年度で600~700円の間です。SMは18年調査では平日で1800円、休日で2000円くらいです(全国スーパーマーケット年次統計調査報告書)。経産省の20年6月調査では、ポイント還元制度の対象になった決済件数のうち、6割は1000円以下なのでコンビニ有利かと思いきや平均単価は2000円で、金額ベースでみるとSM向きにみえます。決済件数の内訳をみると、クレジットが30%、それ以外が70%という構成ですが、金額ベースではクレジットが64%とその他を圧倒します。キャッシュレス決済額の3分の2はクレジット決済なのです。

 ところが、キャッシュレス推進協議会の20年12月調査をみると、CVS3社のキャッシュレス決済額のうち、クレジットが約600億円に対し、電子マネー・コード・その他は合計2700億円にのぼります。全体ではマジョリティであるはずのクレジット決済が、コンビニでは20%以下の少数派になっています。この違いが決済額のキャッシュレス比率に影響を及ぼしているのかもしれません。私自身もCVSで支払う場合は電子マネーかコード決済です。ただ、いずれもクレジットカードにひも付けていますから、クレジット決済を使っていないというよりは、出どころはクレジットだけど、より便利なツールを利用しているだけのような気もします。むしろSM、GMSでは、カードを「出さないといけないから出している」のです。

現金派を取り込むスーパーのハウス型電子マネー

 生活者の決済ツールが、カードからスマホへのシフトを進めるほどに、CVSのキャッシュレス比率は上昇するのかもしれません。あるいはセルフレジのような、カードで決済しやすいレジ会計が浸透すると一段と上昇するのかも。

イオンリテール各店舗で導入されている「レジゴー」。専用端末を用いてお客自身が商品をスキャン、キャッシュレス決済でスムーズに買物ができる

 一方、SM、GMSには現金ユーザーをキャッシュレスに持ち込む仕掛けがあります。店頭でハウス型の電子マネーに現金でチャージしてもらうやり方で、地方の中小チェーンにも相当程度、広がっています。ヨークベニマルも基本的にはこのやり方です。もちろん「nanaco」は、もっと広範に使える決済ツールですが、店内のATMやレジなど現金チャージをする仕組みが整っています。非クレジット派もキャッシュレスに持ち込むこうした方法で、SM、GMSがキャッシュレス比率を上積みできている可能性はあるように思います。