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一気に進んだ欧州小売のECシフト総まとめ アルディ、リドルも動く!

食のECシフト680

新型コロナウイルス感染拡大を受け、欧州諸国でもEC強化に乗り出す食品小売業が増えている。日本と同様、欧州でも食品をECで購入する動きが広がっており、コロナ禍が顕在化して以降、小売各社のEC売上高は軒並み大幅に伸びている。急激な需要拡大に各社はどう対応しているのか。コロナ禍における、欧州大手小売の「食EC」に関する取り組みを見ていく。

欧州最大のEC市場英国テスコが受注キャパ増強中

ECの受注キャパシティ拡充のため新規雇用をすすめるテスコ

 食品ECの需要が拡大する欧州。調査会社IGDでは、その市場規模が2023年までに対18年比66%増の470億ユーロ(約5兆9300億円:1ユーロ=125円で換算)に達すると予測している。

 そのなかで最も規模が大きいのが英国だ。19年時点の市場規模は116億ポンド(約1兆6400億円:1ポンド=140円で換算)。そこから年平均成長率7.5%のペースで成長して24年には167億ポンド(約2兆3700億円)に達し、食品小売全体の7.7%を占めるとみられている。

 英国の食品EC市場の33.5%を占める英国スーパーマーケット(SM)最大手テスコ(Tesco)では、20年3月以降、コロナウイルス感染拡大に伴ってECの需要が急増。20年度第1四半期のEC売上高は対前年同期比48.5%増の約5億ポンド(約700億円)と、売上高全体の16%超を占める規模となっている。

 需要拡大を受け、テスコは受注キャパシティの増強を急いでいる。19年度時点で週当たり60万件程度であった受注キャパシティを20年度第1四半期末までに130万件まで倍増させた。20年3月以降、正規社員4000人を雇用したのに続き、8月には、ピッキング担当者1万人、ドライバー3000人を含め、正規社員1万6000人を新規採用する計画を発表している。

 また、物流体制の拡充にも着手しており、20年7月、イングランド中部ウェスト・ブロムウィッチの大型店「エクストラ」で初の都市型フルフィルメントセンター(UFC)が稼働を開始したほか、同様の物流施設を英国内25カ所以上に開設する計画だ。テスコでは、BOPIS(Buy OnlinePick-up In Store:店舗受け取りサービス)の対応も進めており、利用者の約25%がオンラインで注文した商品を店舗で受け取っている。

モリソンズはオカド&アマゾンと提携

セインズベリーのオンデマンド型配送サービス「チョップ・チョップ」

 セインズベリー(Sainsbury’s)でもコロナ禍でECの需要が急拡大している。週当たりの受注件数は従来の37万件から20年度第1四半期には65万件超に増加した。

 セインズベリーでは、高齢者や妊婦ら、コロナ禍で外出自粛を余儀なくされている消費者に向けて、生活必需品のオンデマンド型配送サービスを展開している。20年4月、都市封鎖に伴い臨時休業していたロンドン中心部ブラックフライアーズのコンビニエンスストア(CVS)「セインズベリー・ローカル(Sainsbury’s Local)」を配送拠点に転用し、生活必需品を注文から1時間以内に宅配する「チョップ・チョップ(Chop Chop)」を試験的に導入。月以降は、英国20都市50店舗にこのサービスを拡大させている。食料品や日用品など、約3000品目を品揃えし、専用モバイルアプリから最大20品目を注文できる仕組みだ。

 モリソンズ(Morrisons)は、ネットスーパー専業のオカド(Ocado)との提携のもとで14年にネットスーパーを開設して以来、イングランド西部ドードンにあるオカドのカスタマー・フルフィルメント・センター(CFC)から商品を出荷してきたが、受注件数の増加に伴って、モリソンズの約40店舗でも出荷体制を整え、英国世帯の90%以上をカバーしている。

モリソンズの宅配専用食材セットを加工工場で梱包する様子

 モリソンズは16年6月にオカドとの契約を見直し、アマゾン・ドット・コム(Amazon.com:以下、アマゾン)とも積極的に提携している。20年5月、アマゾンの即時配送サービス「プライムナウ(Prime Now)」に対応する店舗を17店舗から40店舗以上に倍増させたのに続き、8月には食料品を注文当日に配送する「アマゾン・フレッシュ」に出店。ベーシックライン「マーケット・ストリート(Market Street)」や付加価値型「ザ・ベスト(The Best)」といったモリソンズのプライベートブランド(PB)商品を中心に、幅広い商品ラインアップを提供している。

「アマゾン・フレッシュ」で受注した商品をモリソンズの店舗でピッキングする様子

 モリソンズでは、コロナ禍での巣ごもり需要に対応し、20年4月、生鮮食品などを箱詰めした宅配専用食材セット「モリソンズ・フードボックス(Morrisons FoodBoxes)」のオンライン販売を開始した。4カ所の食品加工工場で週当たり10万点以上の商品供給体制を整備し、旬の青果物、精肉、ソーセージ、チーズなど、英国内の農産物を集めた食材セットやグルテンフリー食材セット、ビーガン向け食材セットなど、品揃えを拡充させている。 

モリソンズのビーガン向け食材セット

仏カルフールは「BOPIS」に注力

フランスなど3カ国でウーバーイーツと提携したカルフール

 フランス小売業最大手カルフール(Carrefour)は、中期経営計画「カルフール2022」で22年度までにEC売上高を42億ユーロ(約5880億円)に拡大させることを目標に掲げ、ECと店舗を融合させたオムニチャネル化をすすめてきた。コロナ禍では本国フランスを中心に食品ECの需要が拡大し、20年度上半期のEC売上高は対前年同期比70%増の11億ユーロ(約1540億円)に達している。

 カルフールでは、店舗を持つ強みを生かすべくBOPISを強化している。オンラインで注文した商品を店舗の駐車場で受け取る「カルフール・ドライブ(CarrefourDrive)」のほか、パリ、リヨンなどの大都市ではオンラインで注文した商品を都市型小型店で受け取る「ペデストリアン・ドライブ(Pedestrian Drive)」を展開。「ペデストリアン・ドライブ」は、オンラインで注文した商品の受け取り場所として都市型小型店を活用することで、品揃え豊富な郊外型大型店を都市部でも間接的に利用できる仕掛けとなっている。

 カルフールでは、フードデリバリーサービスとの提携により、生活必需品のオンデマンド型配送サービスにも対応している。20年4月以降、フランス、ベルギー、台湾で「ウーバーイーツ(Uber Eats)」を活用したオンデマンド型配送サービスを導入。ウーバーイーツのモバイルアプリから現在地周辺のカルフールの店舗を検索し、食料品や日用品などの生活必需品を注文すると30分以内に商品が届く。ポーランドではグロボ(Glovo)、台湾ではフードパンダ(Foodpanda)と提携し、同様のサービスを展開している。

 カルフールは、ECサイトの品揃えの拡充にも取り組んでいる。ECサイトでは、18年から傘下におさめるミールキット宅配サービスのキトク(Quitoque)を運営するほか、20年6月には、オンラインマーケットプレイスを開設。スパイス専門店、ショコラティエなど、地場メーカーや専門ブランドが手がける高品質な食料品や日用品を、自社のECサイトを通じて幅広く提供するのがねらいだ。20年末までに最大10万点の商品を取り扱うとしている。

アルディ、リドルは外部サービスと提携

 本国ドイツのみならず、英国やフランスでも市場シェアを伸ばすハードディスカウントストア(HDS)のアルディ(Aldi)やリドル(Lidl)は、店舗を主たる販売チャネルと位置づけながら、買物代行サービスやフードデリバリーサービスとの提携により、生活必需品のオンデマンド型配送サービスに対応している。

 アルディは、米国でインスタカート( I n s t a c a r t )、英国でデリバルー(Deliveroo)と提携する一方、リドルは、米国でシプト(Shipt)、スペインでロラマーケット(Lola Market)、アイルランドでバイミー(Buymie)と提携している。

 このように、欧州の大手SMの動きを見ると、コロナ禍でのEC需要増に対応し、商品供給体制や配送網の拡充をすすめながら、BOPISやオンデマンド型配送サービスなど、消費者の多様なニーズに積極的に応えようとする姿勢が窺える。