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第2回 「サプライチェーンの最適化」を実現した注目サービス3選!

第1回では、消費者と直接結びつくことでブランドの存在目的や理念を伝え、リピーターや新規顧客の獲得につなげているD2C(Direct to Consumer)ブランドについてご紹介しました。そのなかで、サステナビリティ(持続可能性)の有無が、消費者のブランド選択の1つの指針になっていることもお伝えしました。サステナビリティを追求することは、社会的意義の大きさはもちろん、企業にとっても結果としてサプライチェーンの最適化につながる重要な取り組みです。そこで今回は、「サプライチェーン最適化」とサステナブルなビジネスモデルの構築に向け何をすべきか、具体的な事例に触れつつお話しします。

流通プロセスに存在する”ムダ”が自らの首を絞めている

 突然ですが、「サステナブル」の対極にあるものは何だと思いますか。いちばんに思い浮かぶのは、商品の「廃棄」ではないでしょうか。たとえば日本のアパレル業界では、年間供給量の30~40億着のうち半分以上が売れ残り、その多くが廃棄に回っているといわれています。もともとアパレルは「大量生産」「大量消費」「大量廃棄」の構図で成り立っていた側面があります。さらに、製造から販売までのサプライチェーンが長くコストが高くつくわりには、それをすべて吸収できるだけの売価にはなっておらず、いわば”誰も儲からない”仕組みになっていました。

 しかし換言すると、廃棄ロスや中間コストを削減し最適なサプライチェーンを築くことができれば、一気にサステナブルなビジネスモデルに転換できるということになります。それはアパレルに限らず、流通産業全般に言えるものです。ここからは、3つのブランドのケースをもとに、サプライチェーン最適化を実現するためのヒントを探っていきましょう。

まもなく日本にも上陸!青果のサプライチェーンを変革したドイツのスタートアップ

インファームは「店内水耕栽培」のシステムを開発・供給することで青果のサプライチェーンに変革をもたらした

 最初にご紹介したいのが、ドイツ発のスタートアップ企業「インファーム(Infarm)」です。同社のビジネスモデルは、野菜を水耕栽培できる専用の「コンテナ」をスーパーマーケットなどに供給するというもの。いわば店内に畑をつくり、そこで収穫した野菜を販売してしまおう、というものです。

 このシステムのメリットは、栽培スペースと売場が近接しているので常に新鮮な野菜を顧客に提供できることに加え、梱包や配送といった中間プロセスが大幅に削減できるため、廃棄ロスや販売価格を低減につながるという点にあります。「農地」という大規模な設備を管理・運営する必要もない、優れた事業モデルです。

 売場に生産拠点を置いてしまうというインファームの事例は、まさにサプライチェーンの短縮化を実現する1つの手法と言えるでしょう。なお、このインファームをめぐっては、日本でもJR東日本が同社と提携し、今夏にはJR東日本グループ傘下のスーパーマーケット「紀ノ國屋」の店舗で店内栽培システムを導入することを明らかにしています。

売り手にも買い手にもメリット大! 注文から1週間で届くスーツのオーダーメイドサービス

オンワード樫山によるスーツのオーダーメイドサービス「KASHIYAMA the Smart Tailor」

 アパレルの領域では、オンワード樫山(東京都)が提供するスーツのオーダーメイドサービス「KASHIYAMA the Smart Tailor」(カシヤマ・ザ・スマートテーラー)」に注目です。同サービスの流れは次のとおり。まず店舗で顧客の洋服サイズを採寸し、そのデータを中国の工場に送信してすぐに現地でスーツを製造、1週間後には顧客のもとに商品を直送するというものです。

 オンワード樫山にとっては、オーダーを受けてからスーツをつくるので在庫を持つ必要がありません。ですので余剰在庫をセールすることもなく、常に適正価格で販売することができます。一方で顧客にとってはオーダーしてから受け取りまでの期間が約1週間と非常に短いことが大きなポイントです。スーツのオーダーメイドといえば数週間~数カ月はかかることが普通ですので、このリードタイムの短さは驚異的です。

 ちなみにスマートテーラーでは配送コストを下げるため、商品を真空状態にして梱包をコンパクトにしています。そのため商品到着時はある程度シワができていることがあるのですが、1時間ほどハンガーなどに吊るしておけばシワは消えるように設計されています。

「サンプル製造」をやめたトミー・ヒルフィガー

トミー・ヒルフィガーはサンプルの製造をやめることでサプライチェーンの最適化を果たした

 最後に紹介したいのは、米アパレルブランドの「トミー・ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」の事例です。アパレル産業では商品化を判断するあたって、まずはパターンを描いてサンプルを製造するという手順を踏むことが一般的です。しかしトミー・ヒルフィガーは3Dデザインの技術を活用し、パソコンやタブレットの「画面上」で完成図を見られるようにしています。サンプル製造というプロセスを省くことで、企画から製造にかかる時間を一気に短縮できるというわけです。

 さらには、サンプルの画像をあらかじめ顧客とも共有することで、どういった色味やデザインの商品が”売れ筋”になるのかをある程度把握することもできます。つまりサンプルの段階で需要予測が立つため、在庫ロスの削減などサプライチェーンの最適化にもつながります。実際、トミー・ヒルフィガーはサプライチェーンにおけるリードタイムを2分の1に短縮することができたのです。

適正量を適正価格で売ることが小売のスタンダードになっていく

 ここまで触れてきたように、デジタル活用をベースとした「サプライチェーンの短縮化」が、在庫リスクや廃棄ロスを低減し、最適なサプライチェーンの構築につながっているのです。オンワード樫山のスマートテーラーの事例のように、常時適正価格で販売できるようになったために、セールを基本的に行わないというブランドも増えています。 

 大量につくって安く売るという時代は終りを迎えつつあり、「適正な価格で適正な量を供給する」ことが今後のリテール産業における主流になっていくことはほぼ間違いないでしょう。そうしたなかで、前回お話ししたようなD2Cブランドのように、顧客と直接つながり、顧客の志向や傾向をダイレクトにつかむことができている企業は、ますます競争有利な立場になっていくでしょう。

 「ファストファッション」の代名詞として知られるH&MやZARAも、今日では大量生産・大量消費のビジネスモデルを否定し、サステナブルなビジネスモデルの確立へと舵を切ろうとしています。これは既存市場が成熟し、今後も大幅な拡大が見込めないことに気づいたためです。こうした傾向は人口減少が著しい日本でこそ、活発化して然るべきではないでしょうか。も、同様の取り組みを率先して取り組むべきではないでしょうか。今ある”ムダ”を削減してサプライチェーンを最適化する――。これは、日本の流通産業における重大なテーマの1つです。