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意外と面倒な「入力作業」を省略! ECの機会ロスを防ぐ「ボイスコマース」とは

国内EC市場はコロナ禍以降、急速に拡大を続けている。2023年の国内EC市場規模(BtoC)は約25兆円(対前年比9.23%増)となり、今後も成長していくと予想されている。そんなEC市場において新たに登場したのが、電話による音声入力のみで決済・注文を完了できる「ボイスコマース(音声通販)サービス」だ。同サービスについて、ボイスコマース事業を展開するテレ(東京都/平野晃弘社長)に話を聞いた。

音声入力で注文まで確定できる「テレAIカート」

 ECを利用するお客が商品を買物かご(カート)に入れた後、その先の決済まで進まず、買物が完了しない(決済に至らない)ままECサイトを離れてしまうことを「カート落ち」あるいは「カゴ落ち」という。

 ECの利用シーンでは、カート落ちが7割程度あると言われており、販売機会のロスが課題となっている。この原因としてとくに多いのが、購入までの個人情報の入力に手間がかかる点や、そういった個人情報の入力に対してお客が抱く不安だ。このカート落ち対策として、電話とAIを上手く組み合わせたユニークな手法が登場している。

 それが、テレが開発・提供する「テレAIカート」だ。購入時のサイト上での文字入力をなくし、誰もが使えるようにした「ECカート」である。

 使用方法を次の通りだ。まず、デジタルサイネージやタブレット端末、スマホなどからECサイトにアクセス。画面タップにより欲しい商品をカートに入れていき、注文を決定する。ここまでは、ふつうのECサイトと相違ないが、その次の画面に移動すると、自動で生成された電話番号が表示される。この表示された番号に電話をかけ「名前」「住所」を話すだけで注文が完了するのだ。つまり、「メールアドレス」「パスワード」「連絡先」「支払方法」などの入力は不要となる。

 その後、確認用のSMSが利用者宛に自動送信され、そこに記載されたURLから配送日時の指定や注文内容の確認ができる。その後は商品が届くのを待つだけだ。決済方法については、代引きや後払い決済が中心だが、事業者側が自由に選べる仕様となっている。

 「それなら、これまでのテレフォンショッピングとあまり変わらないじゃないか」と思ってしまうかもしれないが、このテレAIカートには大きな違いがある。AIの自動音声の対応によって注文まで確定するのだ。

 テレフォンショッピングの場合、「よし、これを買うぞ!」と”熱い気持ち”で電話をしたのに、電話が込み合いうまくつながらないというケースは少なくない。何度もトライするうちに、買いたい気持ちが薄れてしまうこともある。

 しかしテレAIカートの場合、事前にサーバーの容量を確保すれば、同時着信は何件でも受けられる。お客が欲しいと思った瞬間に、待たせることなく、いつでも受電対応が可能となる。しかも電話がつながった後は、あらかじめ設定された自動音声に従って名前と住所を伝え、電話を切るだけで済む。これだけでも、注文のわずらわしさや個人情報入力の不安など、カート落ちの原因となる要素を除去できるはずだ。


AIによる音声対応で人材不足を解決

 導入する店舗側のメリットも多い。入力された音声は、AIが自動でテキスト化し、受注データに整理してくれる。店側は、AIが処理した受注データの内容を確認するだけで済むため、大幅な作業軽減につながる。「24時間365日電話注文受付」というチャネルを最低限のリソースで構築することが可能だ。

 さらに、カート落ち対策機能として昨今注目されている、SMSによる途中離脱者へのリマーケティング(離脱直後の確認、しばらくしてからのリマインドのポップアップ通知など)手法と組み合わせることにより、カート落ちの確率をさらに下げる効果も見込める。

 テレAIカートの活用事例では、注文率が導入前の2倍から3倍近くになったケースがあるという。カート落ち候補だった多くの販売機会を、確実に販売につなげていることがわかる。

年齢問わず浸透している「電話」にチャンスを見出す

 もともとテレでは、「テレAIカート」のリリース前に「テレAI」というサービスを提供していた。「テレAI」は、販売側が商品に対応する電話番号を決めておき、お客はその番号に電話をかけ、AI音声の指示に応答するだけで購入ができるサービスだ。このサービスを、ECサイトを介するかたちにしたのが「テレAI カート」だ。

 電話をかけ、自動音声に従って音声入力するという流れは同じだ。この一連の流れは、同社により「ボイスコマース(音声通販)サービス」として特許出願がなされている。

 スマートフォンの普及により、メールやSNSでのメッセージのやり取りが主流になる一方、電話の通話機能は古いメディアと片づけられるようになっている。そうした流れのなか、なぜテレは電話本来の機能に着目したのか。

 平野社長は「コロナ禍で人との接触、外出に制限があったなかで、EC利用者のすそ野が大きく広がった。一方で、電子機器での情報入力の難しさやクレジットカード情報入力の不安からECを利用せず、感染リスクを冒してでも、頑張ってリアル店舗に買物に出かける高齢者の姿を見かけることも多かった。しかもその人たちは、手にスマホやガラケーをしっかり持っていた」と振り返る。

 そこで平野社長は「ECができなくても電話はかけられる。ここにチャンスがあると考え、買物不便者の助けにもなるかもしれない」と考えたという。

「推し活」と関連させた販促も可能!

 音声案内についても工夫が可能だ。生成AI音声または録音音声で自由に設定が可能となっている(テレAI、テレAI カートどちらも可能)。広告に起用しているタレントやコラボしているアニメキャラの声を活用することで、いま話題の「推し活」と結びついた販売促進にも期待ができる。

 実際に「テレAI 」を導入したアサヒ緑健(福岡市/古賀良太社長)は、青汁販売にタレントの田原俊彦さんの声を使用したことで、売上が大きく伸長した。

 どこの店にも、「店長イチオシ」「バイヤーがより選った逸品」「生産者自慢の品」など、いま“推したい商品”が必ずあるはずだ。そのため店内ポスターや商品チラシをはじめとした販促に、音声の魅力を活かした「テレAI」をプラスすることで、新たな販路づくりができる。

 現在テレAIは、定期購入などを中心とする単品リピート通販(健康食品、化粧品)のほか、道の駅や食品メーカーなどで導入が進んでいる。また、テレAIを使用したテレビ通販を展開する地方テレビ局もあるという。

 テレの展開する「ボイスコマース(音声通販)サービス」が、EC市場をさらに活性化させるかもしれない。

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