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焦点:馬氏退任で転機迎えるアリババ、新成長分野の開拓が課題

ジャック・マー氏
9月9日、中国電子商取引最大手のアリババ集団では、創業者の馬雲(ジャック・マー)会長が55歳の誕生日となる10日に経営トップの座を退く。写真はパリのテク系サミットに出席した馬会長。5月15日撮影(2019年 ロイター/Charles Platiau)

[上海 9日 ロイター] – 中国電子商取引最大手のアリババ集団では、創業者の馬雲(ジャック・マー)会長が55歳の誕生日となる10日に経営トップの座を退く。主力の電子商取引は市場拡大が急速に鈍ってきており、馬氏に後を託される張勇(ダニエル・チャン)最高経営責任者(CEO)にとっては、難しいかじ取りを迫られる。

10日には8万人を収容できる杭州オリンピックスポーツセンターで馬氏の盛大なお別れパーティーが開催される予定で、出席者たちは、張氏の下でアリババがどのように運営されていくか何かヒントが出てくるのではないかと期待している。

公認会計士で口調が穏やかな張氏は馬氏とは非常に対照的な人物だ。元英語教師の馬氏は、20年前に杭州市の小さな共同住宅でアリババを立ち上げて以来、その派手な振る舞いとカリスマ的な指導力で中国の最も有名な起業家として知られるようになった。

馬氏は昨年、後任に張氏を指名したことを記した書簡で「彼はスーパーコンピューターのような論理と思考力を有し、革新的なビジネスモデルと未来の産業を取り込む非常な勇敢さもある」と評価した。

張氏にとって大きな課題の1つは、中国の電子商取引市場が成熟期を迎えた中で、新たな成長分野を見つけること、というのが専門家の見方だ。

アリババは先週、海外高級ブランドの電子商取引を手掛ける考拉海購(カオラ)と音楽配信サービス企業に27億ドルを投じると発表し、新戦略を採用する柔軟さがあるとアピールした。

ただ中国のデジタル経済専門メディア、36krの調査部門に属するLiu Yiming氏は「アリババが新しいイノベーションや潮流を見つけ出そうと思っても、以前よりは難しくなる。張氏にとって大きな試練になるだろう」と語った。

中国の電子商取引市場の売上高伸び率は、今年上半期が17.8%と前年同期の32.4%からほぼ半減したことが、中国国家統計局のデータで明らかになっている。

<身の振り方>

馬氏がトップ退任を発表したのは昨年だが、創業者が55歳という若さで身を引くのはこれほど大規模で革新的なハイテク企業では異例と受け止められた。

実際、馬氏の下でアリババはアジアで最大の上場企業となり、現在の時価総額は4600億ドルに達する。従業員は10万人を超え、金融サービスやクラウドコンピューティング、人工知能(AI)にまで事業を拡大してきた。

投資家は、馬氏が退任のあいさつで今後どのように経営に関わっていくつもりか、またアリババの幅広い戦略の方向性を主導し続けるのか知りたがるだろう。同氏はこれまで、経営陣の育成を継続していく考えを示している。

馬氏は慈善事業や教育事業にもより時間を費やす見込みだが、引き続きアリババのパートナー制度のメンバーも務める。パートナーは38人で、取締役会とは別にアリババの統治を担う。

一方、中国で馬氏の成功譚はもはや伝説となり、ほとんど教祖のような扱いを受けているとはいえ、同氏の経営にもいくつかの「ほころび」があり、張氏が修復する必要が出てくるとみられる。例えばアリババの国際展開は苦戦し、米決済企業マネーグラムを12億ドルで買収する計画は不首尾に終わったのが代表例だ。

また消費者向け電子商取引市場「淘宝(タオバオ)」は、海外ブランド企業から海賊版の温床と非難され、米国の知的財産を侵害する「悪質業者」の米政府リストに加えられている。

馬氏は今年、ハイテク企業の社員は夜も週末も働けと発言し、中国の労働文化について全国的な議論を巻き起こした。

張氏が率いるアリババがどこに向かうかはよく分からないとしても、10日のパーティーで馬氏が得意のショーマンシップを発揮するのはまず間違いない。以前に行われたイベントなどでは、同氏はマイケル・ジャクソンの衣装で登場したり、パンクロッカーの格好をしたりして音楽の演奏をしたこともある。社員の1人は「ジャックは最後の舞台に、むろんドラマチックな姿で現れる。長い、長いセレモニーになる」と予想。その間は「大勢の社員が、職場を離れることになる」と付け加えた。

(Josh Horwitz記者)