ペイペイ、LINEペイなどのスマホ決済が急速に普及したことで、生活者の決済行動は変化し「スマホがあれば生活が成り立つ」時代になった。2019年2月に決済サービスをスタートさせたメルペイ(東京都/山本真人代表取締役CEO)は、同2社に比べるとサービスの開始時期こそ後発だが、スマホ決済の「お得・早い・便利」に終始しない新たな価値を創造することで、老若男女を問わず幅広い層から支持を得ている。
*本稿では社名についてはメルペイ、決済サービスとしてのメルペイは「メルペイ」と表記する。
何が唯一無二なのか
ペイペイ、LINEペイなどの“Pay系キャッシュレス決済”は、消費税率引上げの時期に実施された「キャッシュレス・消費者還元事業」(2019年10月~2020年6月)によって急激に知名度を上げた。
起爆剤として「決済金額の20%が還元される」などのお得なキャンペーンを実施することでシェアを拡大してきた企業もあるが、メルペイはそうしたキャンペーンは行わず、かつコロナ禍で市場が冷え込む中でも、着実にユーザー数を増やしてきた。
他社にはない「メルペイ」の魅力は、どこにあるのか。
それは、「メルペイ」がネットフリーマーケット「メルカリ」と連携した決済サービスである点だろう。メルカリのアカウントがあれば誰でも利用開始でき、自宅の押し入れに眠っているアイテムがメルカリで売れるとメルペイに売上金がチャージされる。売上金はメルカリでも使えるが、スーパーやコンビニ、家電量販店などを含む264万ヵ所の全国加盟店でも利用可能なので、またメルカリで売って、「メルペイ」を使う-という流れが成り立つのだ。
現在、メルカリのアクティブユーザーは月間2000万人を上回り、内「メルペイ」利用者は月間1345万人ほど。初めて「メルペイ」を使った人のうち8割がその後も「メルペイ」を継続利用しており、2021年、メルペイ単体での黒字化に成功している。
「これまで『買う』と『売り』がつながることで、『メルカリ』の中ではモノがぐるぐる回る仕組みが構築されていたが、そこにさらに決済サービスの『メルペイ』が加わることでお金と信用が循環される『循環型金融』が生まれた」と話すのは、メルペイの山本真人代表取締役CEO。
山本代表取締役CEOは2016年からApple Payの日本立ち上げに携わるなど業界をリードしてきたフィンテックのエキスパート。2018年4月、メルペイに転職した理由として、「あのメルカリが決済サービスを立ち上げることを知り、これはおもしろいことになるぞと。フィンテックの価値を高められると思った」と話す。
属性ではなく行動で人を信用する
メルペイは、必ずしも”儲け”を第一には考えない。同社のミッションは「信用を創造して、なめらかな社会を創る」ことであり、凸凹になりがちな生活者のキャシュッフローを滑らかにすることを大切にしている。そのためメルペイの後払い決済サービス「メルペイスマート払い」の与信審査は、年収や職業といった「属性」ではなく、その人の人柄をあらわす「行動」で審査される。
「商品が迅速に届けられたか」「スムーズに支払いが行われたか」といった取引履歴や評価データは、メルカリに蓄積されている。メルペイの世界ではその人の社会的立場のみで判断することはせず、「約束履行能力」があるかどうかで利用上限枠が決まり、期限通りに清算するほど利用上限枠が上がっていく。
「利益を最優先にするならば、上限枠など設けず『メルペイ』をどんどん使っていただいた方が良い、とする考えもありそうだが、月の支払額が想定以上に高額でドキッとするのは誰だって嫌なこと。そこで弊社では上限金額の設定を積極的にお勧めしており、約4割の方にご利用いただいている。おかげさまで支払延滞率がかなり抑えられている」(山本代表取締役CEO)
スマホ決済やクレジットカードができる前、目に見える現金でやりくりをしていた頃は、モノを買えば手持ちのお金が減るので「今月は使い過ぎたから給料日まで節約するか」といったキャッシュフロー運営が容易にできた。しかし、キャッシュレス化が進むにつれ、自分がいくら使ったのかの現在地を把握するのは容易ではなくなった。手軽だからと、Payサービスを使い続けた結果、ゾッとするような金額を請求されたという経験を持つ人も少ないくないだろう。
「最近は家計簿をマメにつけている人は少数派だろうし、クレジットカードのアプリを毎日チェックしている人もあまりいない。メルカリはショッピング目的で毎日アプリを開くことで、自然と支払日や支払額を把握することができる。また、定額払いのシミュレーションを図に表して視覚的に見せるなど、使いやすさにこだわった。気づけばご自身でキャッシュフローをコントロールできていると実感いただける。『メルペイ』であれば、使いすぎてヒヤッとすることがなくなるはず」(同)
後払い決済の「メルペイスマート払い」もメルカリならではのサービス。メルカリで不要品を売った売上金を「メルペイ」の支払いに利用することができ、支払日はユーザーが自由に設定可能だ。たとえば「給料日の翌日を支払日に設定する」「メルカリで高額商品が売れたから早めに清算を終えよう」など。このように、「メルペイ」には、使う人のリテラシーが自然と向上するような仕掛けが随所に散りばめられている。
ちなみに参考にしたのは、海外で後払い決済サービスを展開する「アファーム(affrim)」や「クラーナ(Klarna)」。両者はBNPL(buy now pay later「今買ってあとで払う=後払い決済」)をメーン事業とし、消費者が商品を購入する際、AIが審査して分割ローンの申請や承認を行うフィンテック企業だ。AIを用いた与信を行なっている点、行動与信を採用している点がメルペイと共通している。
「加盟店への送客」をより活発に
前述したとおり、メルペイは、メルカリと運命共同体でありメルカリの繁栄あってこそだが、メルカリで商品を「売る側」の使いやすさも、進化している。
「例えば、大型家電をメルカリで売ったら梱包が大変そうだと思われるはず。ゴールデンウィークを利用して私も洗濯機などの大型家電をメルカリの梱包・発送を代行するサービスを利用して売ってみたところ、拍子抜けするほど簡単だった。ヤマトさんが集荷に来られて洗濯機を裸で持っていくだけ。あとはすべてお任せできた」(山本代表取締役CEO)
現在、メルカリでは月に3~4万円売り上げる人も少なくないという。
「今後は、加盟店への送客を積極的に行っていきたい」と山本代表取締役CEO。メルペイのローンチ以来、ユーザーの行動を見続けてきた。それにより行動パターンの分析も進んでいる。
例えば、カメラ好きのユーザーは古いカメラをメルカリで売り、その売上金を原資に、「メルペイ」加盟店にて新しいカメラを購入する、といった行動も、長年の分析から見えてきたと言う。「今後はユーザーの趣味趣向に合わせたクーポンを個別に発行して送客に貢献するなど、やれることはまだある」(山本代表取締役CEO)
生活者の決済行動をクレジットカードからスマホに移行させるフェーズは終わった。今後は、いかに他のサービスと連携させ、どのような価値を生み出せるかがフィンテックのあり方としても重要になるだろう。山本代表取締役CEOはそう語り、「今後のメルペイにぜひ注目して欲しい」と締めくくった。