EC時代の最適な配送と返品とは? ヤマト運輸が挑む「ECエコシステム」の現在地

2022/06/29 05:57
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    すでに海外では、一つの服を色やサイズ違いで複数点注文し、自宅で試着して合わなかったものを返品するといった、購買スタイルが定着している。日本においても、今日では返品に柔軟な対応が購買率を上げる一つのファクターになっており、消費者都合の返品も許容するEC事業者は徐々に増えている。

    しかし、ECの返品方法はアナログな仕組みが多く、カスタマーサポート部門の受付や返送先倉庫の業務は煩雑となっている。また、返品業務の効率化のために大きな投資はしづらいというEC事業者も多い。

    「当社がシンプルでコスト負担の小さい返品のシステムを提供することで、EC事業者の負担を減らしながら返品のニーズに応え、市場を拡大することができると考えた」(営業開発部 マネージャー 大河原克彬氏)

    そこで、2021年8月にローンチしたのが「デジタル返品・発送サービス」だ。前述した受け取りサービスと同様にDoddle社と提携したASPサービスで、EC事業者がシステム開発の負荷や大きなコストをかけることなく返品受付フォームを開設することができるというものだ。返品受付フォームは、ヤマト運輸の配送ネットワークと連携されているため、利用者は返品申し込みと同時にヤマト運輸による発送手続きをすることができる。その際、セールスドライバーによる集荷、もしくは最寄りのヤマト運輸の営業所やコンビニ、PUDOステーションなどへ荷物を持ち込むことができる。持ち込みの場合は、申し込み時に発行された二次元コードを読み込ませるだけで、好きな時間に荷物を発送することが可能だ。
    (※ファミリーマートのみ対応)

    「この『デジタル返品・発送サービス』がカバーできる範囲は、狭義の『返品』にとどまらない」と、大河原氏はあらゆる「返品」ニーズを視野に入れる。

    「『利用者側が商品を返送する』という意味においては、購入時の返品だけでなく、一定期間利用した後に修理やメンテナンスを依頼する際の返送ニーズも含まれる。また、サブスクリプションサービスを提供する事業者においては、返却や解約時の回収のニーズも広義の『返品』と言える」(大河原氏)

    利用者の利便性と宅配の効率化を両立する取り組み

    伸び行くEC需要に伴う受け取りニーズの多様化、さらには返品など新たなニーズに応えるべく、「ECエコシステム」の実現に向けたさまざまな打ち手を講じているヤマト運輸。しかし、利用者の利便性向上と、荷物を配送するドライバーの負担がトレードオフになるようでは、本当のエコシステムとはいえないだろう。一時期は「宅配クライシス」と呼ばれる配達員の不足が顕在化した問題も記憶に新しいところだ。

    そのことは当然、同社側でも認識しているところだ。EC向け配送商品EAZYでは、自社ドライバー以外に配送を担う外部パートナーと提携し、配送需要の拡大に対応している。

    PUDOステーションのイメージ
    全国約6500カ所に設置しているオープン型の宅配便ロッカー「PUDOステーション」のイメージ(写真提供:ヤマト運輸)

    それ以前の2016年から、配送の効率化と利用者の利便性向上を同時に図る取り組みとして推進しているのが、オープン型の宅配便ロッカー「PUDO(プドー)ステーション」だ。人の往来の多い都心部の駅構内やコンビニなどを中心に順調に拡大しており、全国に約6500か所を超える(2022年6月現在)。

    近年ではメルカリやヤフオク!などCtoC市場での発送ニーズにも合致し、利用が拡大している。TwitterなどSNS上でも、PUDOステーションを発送場所として紹介する投稿がよく見られる。

    「PUDOステーションの設置による集約効果によって、配送効率も高まっている。一方で、場所によってはロッカーが埋まってしまうところも出てきており、利便性を損なわないように展開していくかが今後の課題」(大河原氏)

    ヤマト運輸の大河原克彬氏と山崎遥氏
    EC事業者・配送事業者・利用者の「三方よし」を目指すヤマト運輸の大河原克彬氏(左)と山崎遥氏

    EC事業者・配送事業者・利用者の三者にとって「三方よし」の最適な配送システムを確立する――「ECエコシステム」がめざすビジョンだ。今はまだその途上にあるが、EAZYをはじめとするさまざまなサービスの推進によって利用者の利便性と受け取り効率を高め、「三方よし」に向けて着実に歩みを進めていることがうかがえた。

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