東南アジアEC市場の変遷
東南アジアは世界的に見てもEC市場の成長が最も期待される地域だ。コロナ以前から市場は急拡大を始めていたが、コロナ禍がそれを後押しすることになった。もはや黎明期でもなければ成長の初期段階でもなく、すでに“成熟期に備え始めている段階”にある。
来るターニングポイントに向け、東南アジアのECプラットフォーマーはそれぞれの方向性でDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。現在、市場の中心的存在となっているのが、ラザダ(Lazada)とショッピー(Shopee)だ。本連載の初回は、この二大ECプラットフォーマーのDX戦略を論じながら東南アジアEC市場の先行きを占いたい。
現在の東南アジアEC市場の流通額トップ3は上位からショッピー、トコペディア(Tokopedia)、ラザダの順である(図表❶)。10年前には個々のブランドによる細々としたオンライン販売が主であったのが、2015年に中国のアリババ(Alibaba)がラザダを買収して以降、東南アジアでもEC事業者の“プラットフォームシフト”が進んだ。
そして、この数年でのマーケットシェアの入れ替わりは非常にダイナミックだ。アリババ傘下のラザダによる一強体制は18年には早くも終わったといわれ、ショッピー、トコペディアがラザダを追い抜くという状況に至った。ただし、トコペディアはインドネシアにフォーカスしているため、東南アジア広域で事業展開するEC企業といえばラザダ、ショッピーの二択となる(図表❷)。
コロナ以降の規模拡大の勢いは完全にショッピーにある。だが、このまま決着には至らないと筆者は見ている。前述のとおり、東南アジアEC市場の競争は変化が求められるフェーズに入る。ECユーザーが一定数まで達し、ECプラットフォームも相応数が登場した。これまでは市場成長を背景にした規模追求が最大の競争優位点であったが、今では“図体”を大きくするだけでなく、質的な競争優位性の構築が求められる。
そのためにラザダ、ショッピーはそれぞれ異なるDXの方向性を模索しているのだ。2者ともに異なる方向へ舵を切っているため、どちらの世界観が東南アジア市場で受け入れられるかでシェアはまた変わるだろう。
利便性向上を軸としたラザダのDX
まず、ラザダがDXを通じて実現したいものは、EC購買における利便性向上である。その柱は大きく2つに分かれる。
1つめは、
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