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ECと似て非なるネットスーパー、「売れるアプリ」をつくるポイントとは

日本で最初にネットスーパーを手掛け、試行錯誤の末に15年以上前から黒字化を実現しているネットスーパーのプロ、スーパーサンシ常務取締役NetMarket事業本部長を務める高倉照和氏が、ネットスーパーが成功するためのポイントを解説する本連載。第4回目となる今回は、システム面から見たネットスーパーについて語っていただく。

ネットスーパーとECは似て非なるもの!

 先ず解決しなければならないイシュー(論点)として、あらゆる小売業態の中でも、スーパーマーケットの売場は品目が非常に多く、最も販促が複雑だという点があります。品目数だけでいえば、もちろんホームセンターの方が多いですが、とにかく販促が複雑です。月間のELDP(エブリデイ・ロープライス)に週間特売、チラシも「三日通し」「二日通し」「日替わり」ととにかく多彩です。生鮮品の値段も毎日変わります。それにバンドル販売、よりどりミックスマッチなども加わります。

 しかもスマートフォンは画面が小さい。標準で600坪ほどあるスーパーマーケットが揃える2万SKU近くを、あの小さな画面で、粗利ミックスをしながら効率的に売れるスマホ上の売場を作り、多くある販促の価格管理、期間管理を厳密に実施するにはかなりの技術と経験が必要です。

 しかもネットスーパーはアマゾンやメルカリのような“単品買い”ではありません。だいたい平均で17~20品購入されます。“単品買い”と“20品買い”ではアプリ上の売場づくりも全く異なるのは自明の理です。これがよく巷でECサイトのパッケージをネットスーパー用にカスタマイズして実施しようとしても上手くいかない大きな原因の一つです。元々の購買アクションからデータ量に至るまで、ECとネットスーパーは似て非なるものです。ネットスーパー用のシステムはあくまでネットスーパー用に特化したものを使うことを強くお勧めします。

 ただ、先日開催されたリテールテックを見ていても、ネットスーパーを主体で開発しているベンダーさんはほとんど見受けられませんでした。これはベンダー側にとってもネットスーパー事業をスケールしていくのが現実問題としてなかなか難しいので、社内での優先順位が下がっているのだと思います。ネットスーパーはUI(ユーザー・インターフェース)だけで売れるものではありません。UIから物流、そして会員開発、コンサルティングと一気通貫して推進しなければ売れる仕組みにはなっていかないものなのです。

ネットスーパーが常に進化し続けなければならない理由

 もう一つ大きなイシューがあります。それはネットスーパーの売場は常に変化し続ける必要があるということです。

 ところが、巷のシステムベンダーでネットスーパーのUIを構築すると、この変化し続けるコストが莫大に高くなり、結果として改善を続けることができません。会計ソフトや自動発注ソフトのような仕様があまり変化しないものとは異なり、大きな売上をつくり、売れ続けるためには、ネット上の売場であるアプリ自体を常に改善し続ける必要があります。

 たとえば、スーパーマーケット企業は数十年と続いているところが大半ですが、各社とも今でも新店を出店する際は必ず何か新しいことにチャレンジした売場づくりをされると思います。つまり、売場づくりというのは奥が深く、また時代にマッチしていかなければならないので、何十年経っても「これしかない」という形が決まってないのです。

 それにUIだけではなく、もちろん物流面のソフトも改善をしていかなければ効率化が図れませんが、効率アップよりもコストアップの方が勝ってしまうケースがほとんどです。これが大きなボトルネックとなってUI、物流ソフトの改善が進まず、陳腐化していきます。つまり売れないものがさらに売れなくなるのです。それでも導入当初は頑張って改善をかけますが、そのうち「儲かってからにしろ」と稟議が通らなくなるのが常です。つまりベンダー側にとってはまったく無茶な話ですが、ネットスーパーのUI、物流システムは追加費用が掛からず、いわば自動的に進化し続ける物が必要となるわけです。これを提供しているのは当社以外では今のところありません。

「売れるアプリ」をつくるためには……

 ネットスーパーのUIというものは、あくまで売る側のスーパーマーケットが主体となって開発しないと、実際に「売れるアプリ」はできません。これは当然といえば当然で、システムベンダー側は実際にモノを売ったことがないわけですから、彼らが注力するのはいかに整然と商品を並べて表示するかです。これは仕方ないと思います。小売企業には釈迦に説法ですが、商品というのはただ整然と並べただけでは売れません。迫力あるメリハリをつけた陳列、平台、エンドの最大活用、お客さまの心をつかむPOPなど、ありとあらゆる購買誘導の手段を講じる必要があります。常に手を変え品を変え、そして目先を変えることで、初めてしっかりと商品が売れるわけです。

 私どもスーパーサンシは、スーパーマーケット企業向けに「勝てるネットスーパー」の導入支援を手がけJAPAN NetMarket(ジャパンネットマーケット)を19年5月に立ち上げています。JAPAN NetMarketは母体がスーパーマーケット企業であるため、こうした事情が身に沁みてよくわかっています。

 だからこそ、しっかりと売れる、そして売れ続けるアプリ上の売場が構築できるわけです。あとスマホの画面は小さいため、細心の注意を払った、使い勝手をよくするための工夫が必要です。人の指の自然な動きに合わせた動線も大事です。ネットスーパーの画面をみていると、縦と横の動きがチグハグなUIを目にすることがありますが、これではお客さまはストレスが溜まります。また、システムの観点から保険をかけすぎて、やたらと無駄なスペース領域がとってあるような商品提示画面もよく見受けられます。お客さまの立場からすると買いにくくて仕方ありません。

 これは「専門」と称するアプリでも時々やってしまっていることですが、商品一覧の画面に空白を平気でつくっているケースもあります。これは私どもから見ると言語道断のことで、言ってみれば平台やエンドの中に空きスペースを作っているのと同じで、基本が全くわかっていないと言っていいでしょう。ベンダー側から言わせると、これは運用側のスーパーマーケットの問題ということになるのでしょうが、当社の場合は自動的にバナーの大きさを調整したりして決して空白をつくらないようにしてます。狭いアプリ上の売場なのでそういう細かい工夫の積み重ねが物を言います。当然ですが、ネットスーパーというのは見た目が100%ですので、よくありがちな運用の落とし穴を自動でカバーしてあげるシステムがベストです。

リアルの販促をネットスーパーでも展開する!

 もう1つ、システムベンダー主体のパッケージソフトの大きな問題点として、実際の販売結果と合わせたリアルな実験検証ができないということがあります。ジャパンネットマーケットは、母体がネットスーパーで年商50億円以上を売り上げている生鮮スーパーであり、「何をどうやったらもっと売れるのか」を検証してフィードバックすることを40年以上にわたって積み重ねています。そして同時にUIも改善し続けています。

 しかし実際はこれが大変な“金食い虫”でして、当社が2019年より虎の子だった宅配ノウハウ公開に踏み切ったのも、この開発費を集めるためだと言っても過言ではありません。ロイヤリティという名目で開発費の一部を頂き、お互いに商圏がバッティングしない全国有志の流通企業と一緒になって、常に進化する最強最新のプラットフォームを創り上げていく。これが私どもジャパンネットマーケットの目的であり存在意義なのです。

 何はともあれ売場というのはリアルであれ、アプリ上のUIであれ、常に変わり続けなくてはいけません。「お客さまは飽きやすい」ということを常に意識する必要があります。小売企業のみなさまは、店舗の「52週MD」をしっかりと計画立てて用意されていることと思いますが、ネットスーパーの52週MDを計画立てている企業は稀です。少なくともリアル店舗のMD企画を同時にネット上でも反映していかないと、継続的に購買比率を上げていくことは難しいでしょう。

 ネットスーパーが売れないのはリアルよりも販促が劣っているからです。ただそれだけの理由です。何もネットスーパー専用の販促を別途立てる必要はありません。それよりもリアルの販促を、ネットスーパーに個店対応でスライドするだけで見違えるように注文比率そして売上が上がることでしょう。ぜひやってみて下さい。

 次回は「生鮮品を売らないとネットスーパーの旨味は無い」という見地から記事を書いてみたいと思います。