”自社都合”で議論していない? 生活者視点で考えるキャッシュレスの真価
キャッシュレス決済ツールは「未来価値資産」である
とはいえ事業者視点では、諸手を挙げてキャッシュレス決済を導入できるわけではありません。オペレーションの複雑さや決済手数料がネックとなり、キャッシュレス決済の導入が見送られているケースがあるかと思います。当然、自社の扱う商材・ビジネスモデル(利益率)から、導入検討については慎重に精査すべきではあります。
しかし1つ認識しておきたいのは、キャッシュレス決済は顧客とつながることができる「コミュニケーションツール」としての側面も持っている点です。いわば、「未来価値資産」のようなものなのです。
たとえば「PayPay」や「LINE Pay」でスマホ決済したお店は、顧客から「フォロー」されることで、次回の来店をうながすようなメッセージを送ることができます。これは現金ではまずできなかったことです。
小売事業者においても、パルコのスマホアプリでは買い物をした後、顧客からの「テナント店舗の評価」ができる仕組みを取り入れたり、カフェチェーン「プロント」では自社でスマホアプリを介した決済ツールを導入し、より顧客との深い結びつきをめざしている事例もあります。
いずれも「顧客とつながる」ことを意図した施策です。単純な「決済手段の多様化」を超越した取り組みと言えるでしょう。
このような施策は、CRM(Customer Relationship Management)の文脈上で説明され、その中でよく「囲い込み」という表現が出てきたりします。しかし、僕個人的には、この「囲い込み」という表現はあまり好きではありません。生活者視点で見たときに「企業から囲い込まれたい!」と熱望する方はいるでしょうか?
生活者の多くは「自らの意思でお店を選んでいる」と考えているし、そんな自分でいたいと思っているものです。つまり、複数の店がある中で「自分が快適な生活ができるほう」を選んでいる。同時に、無意識のうちにお店を選ばなくなってもいるのです。得てして、選ばれなくなった企業はそのことに気が付かないことが多いものです。そして、そのような判断が下されるうえで、キャッシュレス対応の有無が重要な要素になっている、というわけです。
キャッシュレス決済市場は今後も伸長が見込まれます。繰り返しになりますが、小売企業にとってキャッシュレス対応は「選ばれる店になる」ための重要なツールの1つであることは間違いありません。まずは自社の企業課題と合わせて、「生活者視点」でキャッシュレス決済の可能性を語るようなディスカッションを社内で行ってみてはいかがでしょうか。