リアル店のアプリに「お気に入り」機能を付けるべき、3つの理由

宮川耕平(日本食糧新聞社)
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購入前の関心がわかる

 POSデータは購入した結果の集積であり、購入に至るまでのプロセスは見えません。迷った末に購入を見送った場合、その顧客の葛藤はデータに残りません。店としては何が足りなかったのか、 購入を後押しする方法はなかったのか、それを知りたいと、小売企業はずっと考えてきました。

 店内での顧客行動をマーケティングの観点から見える化しようと、至るところにカメラを設置し、棚前のカメラでは顧客が商品を手に取る・戻す・チラ見するといったことまでデータ化しようという試みがいくつかあります。こうして集めたデータは、インストアプロモーションの改善に有効でしょう。ただ、購入前の関心をデータ化することが目的なら、店内をカメラで埋め尽くすよりも、アプリ等に「お気に入り」機能を追加する方が確実のように感じます。顧客IDと結びつく上に、プロモーションもかけられます。

 アマゾンは、ユーザーにさまざまなレコメンドを配信します。購入履歴だけでなく、「ほしい物リスト」に登録された商品を基にした推奨も行います。単純なリマインドであったり、関連提案だったりと内容はいろいろで、その精度にかえって不満を感じるユーザーもいるかもしれませんが、とにかくOne to One マーケティングを実践しています。

 チラシは店側からの一方的な商品提案ですが、「お気に入り」に基づくアプローチは顧客の関心を立脚点にしています。それは購入履歴に基づいて発券されるクーポンとも異なるものです。

来店しなくても商品を考えられる環境

 画像認識やクーポン発券が「お気に入り」機能に劣ると言いたいわけではありません。繰り返しになりますが、画像認識はインストアプロモーションの改善に役立ちますし、クーポン発券は購入結果という明確な意思表示に基づくレコメンドです。ただ、それらの方法ではリーチできない部分に、ネットは「お気に入り」機能によってとうの昔にたどり着いていると指摘したいのです。顧客ID別に、購入前の関心にアプローチしています。

 リアル店舗とネットの違いは多々ありますが、「お気に入り」は、「ネットとは違うからやらない」で済ますには惜しいと思います。顧客は自ら、「この商品に関心があります。ただ、何らかの理由で購入には至っていません」と教えてくれるのです。

 アマゾンでは有効でも、「それがスーパーで本当に必要か? 」と思われるかもしれません。必要性を感じないとしたら、それは思い込みのようなものだと思います。すでに消費者は、ネットでそのような買物体験をしています。ただ、リアル店舗はこれまでの慣習に沿って使っているので、現状が当たり前だと思い込んでいるだけではないでしょうか。なぜネットのように商品選定ができないか、その不便に気づいていないだけのように思われます。

 「お気に入り」機能の前提になるのは、以前に書いた「コンフォートマーケット、店内在庫をスマホで確認!なぜ革新的だと言えるのか?」でも触れたことですが、店内の在庫情報を顧客が確認できるようにすることです。来店しないと何をいくらで売っているか分からない状態から、どこにいてもスマホで全商品を検索できて、お気に入りリストをカスタマイズしながら購入を検討できる状態に。リアル店舗だからといって、買物体験が店舗だけに縛られる理由はないはずです。

 来店頻度の高いスーパーだからこそ、顧客が商品を吟味する手段は、時間と場所の制約から解放されるべきです。

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