第167回「笑顔」と「デジタル」でボーダーレス時代を勝ち抜く  ローソン 代表取締役社長 竹増 貞信

約1万4000の店舗網を全国に張り巡らせ、2018年2月期(17年度)はチェーン全店売上高2兆3100億円(対前期比7.0%増)を見込むコンビニエンスストア(CVS)大手のローソン(東京都)。“コンビニ飽和論”がささやかれるなか、同社は21年度に1万8000店舗、平均日販60万円を中期目標に掲げる。ローソンはどのような成長戦略を描いているのか。竹増貞信社長に聞いた。
聞き手=阿部幸治 構成=髙浦佑介(以上、本誌)

17年は商品強化で客単価アップ!

──2017年度を振り返るとどのような年でしたか(注:インタビューは期中の2月下旬に実施)。

 

竹増 17年は株高のうえ、極度の円高というわけでもありませんでした。ほかの業界を見てもよい決算の企業が多く、景況感は悪くないと感じております。しかし、食品小売業の業績はあまり景気に左右されません。景気がよくなったところで1人が1日当たりに摂取できる量は変わらないからです。好景気に浮かれず、地に足をつけて取り組んでいこうというのが17年度でした。

 

──17年度通期ではチェーン全店売上高2兆3100億円(対前期比7.0%増)、店舗数1万4011店舗(同900店舗増)を計画されています。

 

竹増 計画はおおむね順調に進んでいます。CVSだけでなく、食品を販売するドラッグストアやECなど、業態を超えた競争が激化していることもあり、客数が減少しました。しかし、それ以上に客単価が伸びたため、既存店売上高も対前期比プラスとなる見込みです。

たけますさだのぶ
たけます・さだのぶ●1969年8月12日生まれ。大阪府出身。大阪大学経済学部卒業後、93年4月三菱商事入社。2010年6月総務部兼経営企画部社長業務秘書。14年5月ローソン代表取締役副社長兼法人営業本部長。16年6月代表取締役社長COO。17年3月代表取締役社長兼マーケティング本部長。17年5月代表取締役社長兼CHO(現任)

 

──どのように客単価を伸ばしましたか。

竹増 ローソンでは16年度から「1000日全員実行プロジェクト」を掲げ、実行してきました。これが実を結び始めています。

 

 まず16年度は、セミオート発注や自動釣銭機の導入など、店舗に積極投資し、省力化、生産性向上に取り組んできました。

 

 2年目の17年度は、商品力を強化しました。とくに注力したのが、弁当やおにぎりなど定番の質を上げることと、ワクワクするような差別化商品の開発です。

 

 定番商品は、おにぎりを15年ぶりに全面刷新したほか、唐揚げ弁当やのり弁当など、リピート率の高い弁当をリニューアルし、おいしさを追求しました。

 

 差別化商品としては、チョコレートブランドの「ゴディバ」とコラボした「Uchi Café SWEETS×GODIVA 濃厚ショコラケーキ」など、消費者がワクワクするような新商品の開発や、サラダを16SKUから26SKUに増やすなど、健康関連商品を強化しました。その結果、デザート類の17年度上期の売上高が対前期比2.5%増、サラダは同12.1%増となりました。

 

 単に価格を上げるのではなく、「この品質で、この量の商品が、この値段で買える」というように、お客さまの期待を上回るような価値のある商品を提供することが客単価アップにつながったと考えています。

ゴディバ
17年度は商品力強化をテーマに、定番商品をリニューアルし、差別化商品の品揃えを強化した。おにぎりを15年ぶりに全面刷新したほか、ゴディバとのコラボ商品など「ワクワクする」商品を販売する

18年は朝、昼を守り“夕方”を攻める

──18年度は「1000日全員実行プロジェクト」の最終年度になりますが、何に重点的に取り組まれますか。

 

竹増 16年度は店舗投資、17年度は商品力を強化してきました。18年度は朝、昼の需要を守りつつ、夕方以降のニーズを攻めていきたいと思っています。

 

 これまでもローソンは総菜、FF(ファストフード)商品の品揃え強化に取り組んできました。

 

 夕方を攻めることで既存店の日販をどれだけ高めることができるかがカギになります。16年度、17年度で地盤を固めたので、18年度に一気に日販を伸ばしたいと考えています。

 

 ローソンは21年度に国内CVS店舗数1万8000店舗、日販60万円という中期目標を掲げています。この中期目標にどれだけ迫ることができるか、「1000日全員実行プロジェクト」の最終年度である18年度に一度その答えを出したいと思っています。

健康関連商品を2割増の3500億円に

──売場を見ると、健康関連商品が目立ちます。今後も増やしていく方針ですか。

 

竹増 はい。17年度は健康関連商品の売上高が約3000億円の見込みです。来年はこれを2割弱増の3500億円にします。健康関連商品は引き続き、当社のメーン強化カテゴリーの1つです。

 

 ローソンは今ほど健康が注目される前の13年10月にコーポレートスローガンを「マチのほっとステーション」から「マチの健康ステーション」に変更し、健康を軸とした事業戦略を進めるという方向性に舵を取りました。

 

 社内では途中でもとに戻そうという話もでてきました。しかし、やっと「健康といえばローソン」という認知がお客さまのなかで高まってきて、ここまで続けてきてよかったと思います。

 

 さらにうれしいのは、健康コンシャス(関心)が高い人ほど、ローソンを評価してくれていることです。1本で118gの野菜を使用しているチルド飲料「グリーンスムージー」や、穀物の外皮を使い、糖質を抑えた「ブランパン」シリーズ、国産若鶏のむね肉100%、国産小麦粉を100%使用した「からあげクン」など、健康コンシャスの高い方が頻繁に買ってくれています。

 

 私も子供につられてからあげクンをよく食べます。フレーバーもいろいろ試しましたが、個人的には「レギュラー」がいちばん好きです。

──MD(商品政策)の考え方について教えてください。

竹増 とにかく、われわれは“とんがっていこう”という気持ちで進めてきました。中途半端にするのではなく、いっそ“振り切ってしまおう”と。その先兵隊が「ナチュラルローソン」です。健康特化型のフォーマットであるナチュラルローソンは今、約140店舗を展開しています。

 

 健康志向のお客さまだけでなく、幅広い客層の受け皿としてはメーンフォーマットの「ローソン」があるので、ナチュラルローソンでは思い切って健康に振り切ることができます。

 

 たとえば、ごはんの代わりにカリフラワーを使った「ご飯を使わないキーマカレー」や「ご飯を使わないオムライス」などの「ベジめし」をナチュラルローソンでは展開しています。これらの商品も1万4000店舗のローソンでいきなり展開することはできないですが、140店舗のナチュラルローソンだからできました。これくらいやりすぎたほうがいいのです。

 

 ほかにも、アッパー層向けに突き抜けるフォーマットが成城石井(神奈川県/原昭彦社長)です。14年10月に買収しましたが、ローソンとのコラボなど考えなくてよい、成城石井がやりたいことをどんどんやって欲しい、とふだんから言っております。

 

 これらのフォーマットに、バリューに突き抜けた「100円ローソン」を組み合わせることで、互いに補完し合い、あらゆる客層に対応しようと考えています。

キーマカレー
健康特化型フォーマットのナチュラルローソンでは、ごはんの代わりにカリフラワーを使った「ご飯を使わないキーマカレー」や「ご飯を使わないオムライス」などの「ベジめし」を販売している

デジタル活用でレジ待ち時間解消

──人手不足などで小売業のデジタル活用が注目されるなか、ローソンは率先してテクノロジーを導入している印象があります。デジタル活用について、どのようにお考えですか。

 

竹増 ローソンの社風はもともとチャレンジが好きなのです。「新しいことにチャレンジしてなんぼ」、の精神でやっています。私は「笑顔」と「デジタル」が大事だと言ってきました。デジタル活用によって、省力化と「温かさ」を実現したいと思っています。

 

 ローソンは今、全国各地に1万4000の店舗があり、インフラとライフラインの両方の役割を果たしています。無人店舗だけではダメで、立地に応じて接客のしっかりした店舗も必要です。

 

 とくに、地方では高齢化が進んでいます。デジタルに慣れていない高齢層のお客さまが多い地域で無人店舗をやっても意味がありません。そういった地域は、無人店舗ではなく、むしろデジタルを活用して、店員が接客に集中できるようにします。

──貴社を含め、CVS各社が経済産業省主導のRFID(電波を用いてデータを非接触で読み書きするシステム)を用いた決済システムの実証実験に取り組んでいます。

 

竹増 RFIDの決済システムができると流通業が大きく変わります。

 

 ローソンは16年12月にパナソニックと共同で、「ローソンパナソニック前店」(大阪府守口市)で完全自動セルフレジ機「レジロボ®」を導入した実証実験を行いました。さらに、18年2月には「ローソン丸の内パークビル店」(東京都千代田区)にて、電子タグから取得した情報をサプライチェーンで共有する実験を行いました。

ローソン丸の内
18年2月にRFIDの実証実験を行っている「ローソン丸の内パークビル店」(東京都千代田区)

 

こういった実験を積み重ね、「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」に基づき、25年にRFID決済の実用化をめざしています。これらの取り組みは、無人レジの仕組みをつくりたいというより、レジ待ちを解消するのが目的です。

 現状、朝と昼の時間は都心部を中心に、どうしてもレジ待ちの列ができてしまいます。1人当たりの精算時間を早くするにしても、レジを置く台数を増やすにしても、限りがあります。その解決策として、テクノロジーを活用し、新たな決済システムをつくりたいと考えています。すでに上海のローソンでは、セルフスキャンのスマホ決済を始めています。こういった決済システムを日本でも実現したいと思います。

 私自身も朝ごはんを買おうとローソンに来たときに、レジ待ちの列があるとやっぱり買うのをやめよう、と諦めるときが何度かありました。お客さまも同じ気持ちだと思います。つまり、まだまだチャンスロスがあるということです。レジ待ちを解消するだけで売上高アップにもつながるはずです。

ロボット
完全自動セルフレジ機の「レジロボ®」。「RFIDの決済システムができると流通業が大きく変わる」と竹増社長は力を込める

ラストワンマイルの攻防1万4000店舗の価値

──17年2月、ローソンは三菱商事(東京都/垣内威彦社長)の子会社となりました。それにより何か変化はありましたか。

 

竹増 これまでは双方にとってメリットのある取り組みを行うことが重要でしたが、子会社となって以降は、この関係性はシンプルです。ローソンの業績が上がれば、それが三菱商事の利益につながるからです。その意味では、やりやすくなったというのが正直なところです。

 

 たとえばゴディバとのコラボも三菱商事からの提案で実現しましたが、三菱商事にマージンを払っているわけではありません。コラボ商品がローソンで売れた結果としてローソンの業績が上がる、それ自体が三菱商事の利益になるわけです。

 

──さて、海外では上海で約850店舗展開されています。今後の海外展開をどのように考えていますか。

 

竹増 海外はこれまでチャレンジするという位置づけでしたが、ここにきて会社の利益に貢献するフェーズに入ってきたと感じています。上海は18年度に1000店舗以上、早いうちに2000店舗展開したいと考えています。

 

──14年7月には生鮮宅配サービス「ローソンフレッシュ」を始めました。「アマゾンフレッシュ」や「IYフレッシュ」など、他社も次々と参入し始めています。どのように差別化しますか。

 

竹増 まずはローソンフレッシュでしか買えないという商品を増やしていきたいと思います。「クリーミーチキンドリアキット」や「魚介と鶏肉の彩りパエリアキット」など、料理の食材と調味料がセットで、下ごしらえもしている時短手料理キット「キッチント」が好調です。

 

 また、われわれは1万4000の店舗網を全国に持っていることが強みです。それを生かし、今年3月からはECで注文した青果や精肉を店舗で受け取ることができるサービスを始めます。お客さまからは平日に自宅で受け取りにくいという声が多く、それを新サービスに反映させました。また、店舗で受け取ってもらうことで、来店してもらい「ついで買い」を誘うというねらいもあります。

 

──米アマゾン(Amazon.com)が米自然食品スーパーのホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)を買収するなど、国内外を問わず合従連衡が進んでいます。今後の競争環境をどのようにお考えですか。

 

竹増 業態を超えた競争が熾烈化しています。どの業態でも、ラストワンマイルが大事になると思います。

 

 ローソンは40年以上かけて、国内に店舗網を張り巡らせてきました。毎日1000万人のお客さまが入店されます。この店舗網はとても価値あるものだと思います。いずれ地場の食品スーパー、EC、CVSだけが残るという時代が来るかもしれません。

 

業績推移