第171回  価格競争から脱却し「健康経営」で勝ち抜く!  静鉄ストア代表取締役社長 竹田 昭男

静岡県内で食品スーパー(SM)を34店舗展開する静鉄ストア。同社は「健康宣言」を打ち出し、「安全・安心・健康・美味しい・楽しい」をコンセプトとした商品開発や店づくりを進め、価値ある商品の提案に力を入れることで差別化を図っている。直近の取り組みや今後の戦略について竹田昭男社長に聞いた。
聞き手=阿部幸治 構成=雪元史章(以上、本誌)

「圧倒的な違い」を出し厳しい競争を生き残る

──足元の経営環境についてどう見ていますか

竹田 既存店の売上はほぼ前年実績と同水準で推移しています。ただ今後は静岡県内でも人口減少がさらに進んでいきますので、前年超えはだんだん難しくなっていくでしょう。

 

 そうしたなかで競争環境は以前に増して厳しくなっています。SMだけではなく食品を扱うドラッグストアも増えていますし、「近くにある」という利便性ではコンビニエンスストアにはかないません。また、料理そのものをしない人も増えているなかで、われわれにとっては外食産業も強力なライバルになっています。

 

 このように業種業態を超えた競争が激化するなかで生き残るためには、静鉄ストアならではの“圧倒的な違い”を出さなければなりません。そのためにも、既存の商品、サービス、店づくりなどあらゆる部分で差別化を図らなければなりません。

──競合他社との差別化を図るうえで、商品政策についてはどのような方針を掲げていますか。
たけだあきお

たけだ・あきお●1954年生まれ。77年静岡鉄道入社。99年静鉄ストア取締役営業第二部長。2005年静鉄ストア常務取締役。10年静岡鉄道常務取締役。13年4月より現職

竹田 同じような商品を同じような価格で売っていては、価格競争に巻き込まれ疲弊するだけです。そもそも、価格では大手チェーンに太刀打ちできません。であれば、価格ではなく価値ある商品を訴求することで差別化を図る必要があります。

 

 そこで当社は「安全・安心・健康・美味しい・楽しい」を売場づくりや商品づくりのコンセプトに掲げています。安全・安心を追求することはSMとして当然ですが、健康的で、美味しい商品、そして買物が楽しい売場をつくることで、他店にはない静鉄ストアならではの魅力を表現することをめざしています。

 

 もっとも、その魅力がお客さまに伝わるまでには時間がかかります。たとえば16年12月にオープンした「しずてつストア長泉店」(静岡県長泉町)ではオーガニックや高質商品の品揃えを他店よりも拡充したのですが、お客さまになじみのない商品が多く、当初はかなり苦戦しました。それでも売場での提案を愚直に続けた結果、開業から1年以上がたった今は軌道に乗ってきて、販売計画値も上回るようになってきました。この長泉店の事例を1つのロールモデルとして、今後各店舗に波及させていく考えです。

 

 

ストア

16年12月に開業した「長泉店」。同店ではオーガニック商品や健康志向の商品を拡充し、その価値が徐々にお客に浸透している

健康経営を推進し社員の意欲を向上

──16年に「健康宣言」を打ち出し健康経営を推進しています。具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

竹田 健康宣言は①健康に配慮した品揃え、②お客さまへの健康提案、③従業員の健康サポートの3つを軸にしたものです。ただ、お客さまの健康に役立つような商品を提案していこうとする以上、まずは売り手である自分たちが健康でなければなりません。そこで③従業員の健康サポートについては、全社が一丸となってとくに力を入れています。

 

 その一環として取り組んだのが禁煙です。まずはある店舗で改装を機にタバコを吸わない従業員のみを配置するようにし、従業員向けはもちろん、お客さま用の喫煙スペースもすべて撤去しました。これが従業員からもお客さまからも好評で、その後は全店でタバコの自販機を取り払いました。そして最終的にめざしたのは、全社員がタバコを吸わないようにすること。禁煙外来の費用は会社が全額負担することにし、喫煙習慣のある社員の卒煙を全力でサポートしました。現在は店舗も含めて社内はすべて禁煙となっており、自己申告制ではありますが、タバコを吸う社員はいないはずです。

 

 このほかにも、健康診断の全員受診を徹底しているほか、診断の結果に問題のあった従業員向けに、希望制で管理栄養士やスポーツ栄養士による食事指導も行うなど、社員の健康意識向上のために万全の体制を敷いています。

健康宣言

静鉄ストアは16年4月に「健康宣言」を打ち出し、お客と従業員の健康サポートに注力している

──健康宣言に関連する取り組みによって、従業員に変化は表れましたか。

竹田 社内の雰囲気が明るくなり、社員の意欲が向上しているように感じます。たとえば当社ではCS(顧客満足)活動を各店舗で推進していますが、やはり従業員自身が健康でなければ「笑顔で接客する」ことすらできません。従業員が健康を意識するようになったことで、接客レベルは格段に向上したと思います。外部のチェッカーコンテストで上位入賞する従業員も出てくるようになりました。

 

 お客さまからのお褒めの言葉も以前よりだいぶ多くなってきました。もちろんお叱りやご意見をいただくこともまだありますが、それもお客さまからの期待値が高まっている証拠だととらえています。

 

 今後は、こうした成果をいかに客数アップにつなげていくかを考えるフェーズに入っていくでしょう。

 

──一方で、SM業界では人手不足の問題が深刻化しており、そもそも働き手を確保すること自体が難しくなっています。静鉄ストアではどのような対策を講じていますか。

 

竹田 当社も例外ではなく、人手の確保が難しい状況が続いています。そこで働きやすい職場環境をつくるために、営業時間の短縮に踏み切りました。まず16年に閉店時刻を基本的に22時までとし、昨年4月からは開店時刻を9時から9時30分に変更しました。

 

──営業時間を短縮したことで売上に影響はないのですか。

 

竹田 営業時間は短くなりましたが、ポイントカード会員の購買データを分析したところ、売上への影響はほとんどありませんでした。営業時間が変わっても、ほとんどのお客さまには変わらずにご来店いただけていることがわかったのです。人手が足りない状況で無理に営業して、サービスの質が低下してしまっては元も子もありません。サービスの品質を維持するためにはやむを得ないことでした。

 

   人手不足の問題は今後も続いていくと予測されます。将来的には、各店舗で新たに休業日を設定することも考える必要が出てくるかもしれません。

 

規模ではなく質を追求、持続可能な企業をつくる

──今後の出店戦略について教えてください。

 

竹田 出店スピードを加速していくという考えは今のところありません。われわれの商勢圏においてSMはもはや飽和状態にあります。県内のどこであっても、クルマで5分も走ればSMが見つかると言っても過言ではないほどです。

 

 そんな状況ですので、今後出店するとしても、たとえば地場のSMの閉店跡に居抜きで出店するようなかたちが中心になっていくでしょう。もちろん好条件の立地があれば新規出店も検討しますが、投資回収に相当の時間がかかってしまいます。

 

──M&A(合併・買収)の可能性はありますか。

 

竹田 親会社である静岡鉄道が判断することですが、その可能性がないとは言えません。これまでも、地場の小規模なSMを買収した経緯があります。ただ現状は、事業規模を拡大するというより、既存の店の売場や商品をさらに磨き上げることを重視する考えです。むやみに会社を大きくするというよりは、地域の生活インフラを支える鉄道会社のグループ企業として、「持続可能な企業」をつくることをめざします。

 

──最後に、今後どのような店づくりをめざしていきますか。

 

竹田 たとえば4人くらいの家族であれば、毎月1回は何らかのイベントがあるはずです。そのようなハレの日に、デパ地下でもなくレストランでもなく、静鉄ストアに来て買物をしていただけるというのが理想です。ふだんは近所のSMを使っている方でも、何かいいものが欲しいときは「静鉄ストアに行けば何かがある」と期待を持って来ていただけるような店づくりを進めていきます。