ゴミ記事レベルの情報に社運を託すなんて

 ノンフィクションライター沢木耕太郎さんの初期の著作『人の砂漠』に相場師板崎喜内人を取り上げた短編がある。新聞の3行ほどの記事を根拠に、先物を買いまくったというエピソードを紹介している。

 読んだ当時、私は学生だったが、ギャンブル(博打)とビジネス(仕事)の間に境界線を引くことはとても難しいと考えさせられたことを覚えている。

 

 まして今の世は「超情報化時代」。新聞のゴミ記事をベースに投資判断するなんて考えられないと誰もが感想を持つに違いない。

 

 けれども、ビジネスの世界では、同じようなことが至るところで繰り広げられているような気がする。

 

 たとえば、商品開発だ。

 製造業は、事前に精緻をきわめた調査を実施することでヒット率を上げようとしているかも知れない。だが、今年発売した商品が来年の棚に残る確率は「センミツ」(0.3%)だ。

 ということは、どれだけ“(自称)大変な”事前調査をしたとしても、それは一部のわずかな情報を起点に商品開発をしていることに過ぎず、ゴミ記事ベースと大差はないという見方もできる。

 

 AI(人口知能)を基盤とした小売店舗向けレジ無人化システム開発を手がける米Standard Cognition(スタンダード・コグニション)のマイケル・サスワル共同創業者兼COO(最高執行責任者)も同じようなことを言っていた。

 「今の小売業は、憶測や推測だけで動いている」。

 

 そんなことも意識してのことだろう。

 1011日に開かれた決算発表会での席上、ファーストリテイリング(山口県/柳井正会長兼社長)の神保拓也グループ執行役員は、

①情報収集を人に頼っているため、世界中の情報を集めることができない
②人が集めている一部の情報しか商品企画と販売量に反映させることができていないため、企画や数量の予想が外れる

と指摘し自省した。

 

 売上収益2兆円超の企業であっても、その現状はゴミ記事に近いレベルの情報で商品開発に当たっている様子が透けて見える。

 

 ただ、同社のすごさは、そのことを問題点として意識し、その解決に取り組んでいることだ。一策として、グーグルやアクセンチュアと業務提携を締結。グーグルの検索エンジンや人工知能を活用し、世の中の膨大かつ有益な情報を収集するとともに、世界中の情報と販売データをもとに、アクセンチュアのアルゴリズムを用いて、より精度の高い商品企画と販売数量を決定することに乗り出した。

 

「世界中の膨大かつ良質な情報をリアルタイムで集め、商品企画・販売量に反映させたい」(神保氏)。

 

 近年、ファーストリテイリングは、「情報製造小売業」をテーマに、アパレルの製造小売業から、まったく新しい産業への生まれ変わりに努めている。

 めざすべきサプライチェーンの方向性として、神保氏は、「お客様が求めるものをつくり お客様が求めるものを運び お客様が求めるものを売っていく」と宣言した。

 

 ゴミ記事レベルの情報や感性に頼るのではなく、データを集積し、分析し、証拠を固めてから実践する。ギャンブルとビジネスの間に明確なる一線を引き、確実に当たる商品をつくる――。

 

 ファーストリテイリングの「情報製造小売業」の動きにさらに注目したい。

 

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