服を変え、常識を変え、世界を変えていく!(かなり長文です)。

2009/09/03 00:00
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 2009年9月2日。ファーストリテイリング(山口県/柳井正会長兼社長)が事業戦略を発表しました。すいぶん長くなりますが、面白かったのでここにスピーチ全文を掲載することにしました。お時間のあるときにお読みいただければ幸いです。(談:文責・千田直哉)

 

 「FR(ファーストリテイリング)グループが大事にしているのは未来企業をつくることだ。企業経営とは現在の企業をどのようにして未来も成長できるようにするかだと思う。ビジネスや商売には『過去』『現在』『未来』があるが、私は社員全員が自分たちの未来を積み上げていくことが企業経営だと考える。だから社員全員のベクトルを『過去』『現在』ではなく、『未来』に合わせることが必要だ。そして変革を続け、未来に生き残れる企業につくりかえていきたい」

 

 「11年後の2020年には、国内ユニクロ事業売上高を現在(2009年8月期予想)の5380億円から1兆円に。海外ユニクロ事業を同370億円から3兆円に。国内関連事業を同510億円から5000億円に。グローバルブランド事業を同530億円から5000億円に。FRグループ全体を同6820億円から5兆円の規模にしたい。FRグループの最終目標は、世界一のアパレル製造小売業(SPA)になることだ。企業なので売上も大事だが利益を上げることも重要だ。この数字の中で経常利益を1兆円あげられるような企業をつくりたい。10年間で10倍の規模になるためには、年率20%程度の成長が必要になる」

 

 「いまや世界中の市場は、国や地域としての特性がなくなり、グローバルな単一市場に変わってきたと思う。とくに最近、この傾向は顕著だ。たとえば、世界の“ハイストリート”、世界の主要な繁華街やショッピングセンターに店舗展開しているのは全て同じメンバーだ。そのなかでグローバルリテーラーとドメスティックリテーラーの競争が始まっている。日本市場も単一なグローバル市場に変わりつつあるから、日本だけで売れる服は日本でも売れなくなるだろう。実際に、香港、韓国など出身の地域SPAは、FRやH&MやZARAとの競合に敗れている」

 

 「われわれの企業は1949年、山口県宇部市で商店街の紳士服店からスタートした。84年に広島にユニクロ1号店を出店、このときにカジュアル専門店になった。91年から本格的にチェーン展開を開始。北部九州や中京・東海地域に大量出店し、郊外ロードサイドのカジュアル衣料チェーン化を図った。98年に東京原宿に都心1号店をオープン。フリースがブームになり、2年間で売上が1000億円から4000億円に拡大し、ここでナショナルブランドになった。2005年に東京銀座にフラッグシップショップを開設し、06年にはニューヨークのSOHOに2000坪の世界中に向けたショップを開業。ロンドン、パリにも大型店を展開できるようになった。ここでようやくグローバルブランドとして認知され始めたのではないかと自負している」

 

 「ユニクロは“安い”というところから出発して、次に“品質”が良いことを具現化し、評価されるようになってきた。その次は“格好良い”ことを付加する。“格好良い”というのはファッションだけを指すのではなく、FRが企業としてまたブランドとして先進的、発信的であり、生き方自体にスタイルがあるということだ。だから、ブランドとしてのユニクロを確立するためには“価格”“品質”“スタイル”の三拍子が不可欠だ。われわれは、いま、新しい局面に立っている」

 

 「これまでわれわれは新しい市場を創出できる服づくりに徹してきた。フリース、カシミヤ、メリノ、ジーンズ、ダウン、ドライポロ、ヒートテック、ブラトップ、シルキードライ、サラフィン、UT、+Jなど数え上げればきりがない。いままでになかったカテゴリーはもちろん、いままではあったのだが自分たちの生活とは関係がないと思われていた服が自分たちの生活自体を変えていくことを理解してもらえた。これからも人々のライフスタイルをよりよい方向に持っていけるような服を売っていきたい。そして新しい価値を提供する商品を世界中で販売する」

 

 「2005年に私が社長に復帰した時点でのビジョンは、2010年に売上1兆円、経常利益1500億円を達成するというものだった。画期的なカジュアルウエアを開発し、革新的なグローバル企業をつくり、世界一のSPAをつくるというものだ。そのときのモットーは、再ベンチャー化、グローバル化、グループ化だ。再ベンチャー化というのはもう一度ベンチャー精神を取り戻すということ。企業の原点はベンチャー精神にあるからだ。また、国際市場に進出するということは、企業自体がグローバル化を図る必要があるはずだ。さらにいまよりも影響力をもって人々のライフスタイルを変えるためにはユニクロブランドひとつだけでは不可能であり、グループ企業をつくる必要があると考え、3つのモットーを掲げた。しかし、その時点では世界一になる可能性は5%もなかった」

 

 「われわれの今シーズンのモットーは『FROM TOKYO TO THE WORLD』。ユニクロ=東京、ユニクロ=日本という図式を定着させたい。その実現のために東京を中心に都心に大量出店したい。また、駅の内外に小型店舗を大量出店する。同時に世界中の大都市に集中出店したい。さらには、このモットーを世界中に伝えるためのグローバルマーケティングを徹底したい」

 

 「この秋冬物は“価格”“品質”がすでに認知されているという前提に立って、“スタイル”を提案するように努める。『いま欲しい旬のアイテムが必ず見つかる』『いま着たいコーディネートに必ず出会える』というようなことをやっていきたい。加えて、私が世界最高の服デザイナーと考えるジル・サンダーさんと一緒に『+Jコレクション』を発表する。コンセプトは『Open the Future』(未来を開け!)。いままでにない服。未来を開ける服を一緒につくっていきたい。シンプルであるがゆえの贅沢さ。デザインにおける純粋さ。美しさと快適さ。あらゆる人への高品質といったものを実現したい。これはユニクロの新しい可能性を開くコレクションに必ずなる。10月1日、パリのグローバル旗艦店で販売するのを皮切りに全世界で販売していく。日本では銀座店の増床オープンの10月2日に全国90店舗で販売する」

 

 「われわれは本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を提供したい。たとえば、世界最高と言われている日本の繊維テクノロジーをマーケティング力とマーチャンダイジング力によって商品化し世界中の消費者に提供する。『アニメ・漫画』『コンピュータゲーム』『ケータイ電話』など世界最先端を行く今の日本を代表する文化を高いクリエティビティでカジュアルウエアとして表現し、世界中の人々に提供したい」

 

 「国内ユニクロ事業は、10月2日に銀座店を増床リニューアルオープン。10月23日に名古屋栄店をオープン。2010年春に渋谷プライム店(仮称)、2010年秋に大阪心斎橋に超大型店を出店する。その他、続々と大都市圏を中心に大型店を開設する予定だ。また、百貨店など都心の好立地にも出店したい。現在、いろいろな百貨店から様々なオファーが来ている。百貨店にとっても、われわれにとっても非常に良い取組だ。同時に小さな店舗もどんどん出店する。エキナカやエキチカのようなお客様が気軽に立ち寄れるお店をつくりたい」

 

 「海外ユニクロ事業は、アジアナンバーワンをめざす。アジアは近未来的には世界で唯一安定成長している巨大市場。だからユニクロにとって最大の成長事業といえる。アジアの国々の方々は日本や東京への親近感を持っているので、われわれはそれをビジネスチャンスに変えていきたい。中国・香港、韓国、東南アジアとできれば、倍々ペースで出店数、売上を伸ばす。とくに中国、韓国では早期に100店舗を達成し、ナンバーワンブランドになりたい。東南アジアは、シンガポールを中心にその周辺国、われわれの店舗や業態が成立しそうな国にはすべて出す」

 

 「10月1日にはパリのオペラ座通りに売場面積約650坪のグローバル旗艦店を出店する。世界市場に向けたショーケースとして現時点で最高のユニクロを表現する。事前の販売促進としてはパリ市内にラッピングバスを走らせたり、マレ地区に期間限定店、世界的に有名なセレクトショップ「コレット」に期間限定コーナーを出店した。来春にはアジア初で世界最大のグローバル旗艦店を上海にオープンする。またロシアのモスクワにも開業する。そして2020年には中国市場で1兆円、中国以外のアジア市場で1兆円、欧米市場で1兆円の売上を稼ぎたい。その実現に向けて、アジア各地への積極的出店と欧米大都市に集中出店していく」

 

 「国内関連市場については、『g.u.』(ジーユー)を第2のユニクロになるように成長させる。2013年時点の売上高500億円、200店舗体制をめざす。990円ジーンズに代表される市場最低価格商品を追求する。2009年秋には、新990円シリーズを投入する予定。またキャビンは、SPAとして完成させる。主力2ブランド(ザジ、アンラシーネ)への集約と集中出店を実施。ユニクロの生産インフラを活用し、ファッション性を追求しながら、低価格を実現する。ユニクロ銀座店内に主力2ブランドを出店し、『キャビンのショーケース』として認知向上をめざす」

 

 「今後、グループ間の相乗効果の最大発揮をめざす。新規事業として『ユニクロシューズ』を立ち上げる。これは新しい靴事業としてグループ内のノウハウを結集して、商品を開発し、ユニクロ大型店とビューの店舗で販売したい。またニューヨークの<セオリー>をパリに、パリの<コントワ・デー・コトニエ>をニューヨークにという具合に出店情報・インフラの相互活用もしたい。同一立地、施設へのグループブランド複合出店する」

 

 「こうしたことを実現するために『グローバルワン・全員経営』でFR全体を変えていかなければならない。そのための人材創出と組織強化をする。とくに経営人材の育成を図りたい。多数の優れた経営人材こそがFRグループを変革すると考えるからだ。『FR Management and Innovation Center』(通称:FRMIC)を設立し、仕事が教育になり、教育が仕事になる新しいタイプの会社づくりを進めていく。世界中のどこでも経営者になれる200人を育成するのと同時に世界各国における優秀な新卒採用を加速させる。そのために本部機能の強化としてグループ企業の連携強化を目的に、新東京本部を立ち上げる。2010年春に東京ミッドタウンへの移転を決めた」

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