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第8回

2012年5月10日

お金より、ガソリンよりも重かった“人の情”

吉田 芳弘

ウジエスーパー取締役
吉田芳弘 よしだ・よしひろ
大学卒業後リクルート入社、平成16年からウジエスーパー勤務。 現在、総務・人事・広報の他に、障害者特例子会社を経営している。 東北経済産業局農商工連携伝道師など、公職多数。

どこに行っても手に入らない

 

 ガソリンを確保できたことで、何度か関東と宮城を往復し、貴重な物資を調達することができた私たちだったが、3月17日ごろになると、それまで支えてくれたガソリンがいよいよ乏しくなりはじめた。

 

 ふと思い立って、関東へ向かって車を走らせている最中、東北方面へ向かう車の中に、ガソリンを積んだタンクローリーと何台すれ違うか数えてみた。東京につくまでにすれ違ったのはわずか20台である。

 

「これは、東北のガソリン不足はますます深刻になる」

 

と思ったら、都内についても状況は変わらなかった。

 

 ご存じの通り、すでに全国でガソリン不足が深刻になり、ガソリンスタンドに長蛇の列ができていた。

 

 このときは本当に困り果てた。

 

 帰りのガソリンは都内で調達するつもりでいたのに、どこへ行っても手に入らない。

 

 結局ガソリンが調達できないまま、都内でいくつかの拠点をまわり、最後にグリコ乳業さんの工場で荷物を積み終わったとき、社長以下みなさんが慰労に来てくださり、「がんばってください」というやさしいお言葉をいただいた。

 

 もうすでに、寛大なご厚意をいただいており、これ以上お願いごとをするのは気が引けたが、恥ずかしがっている場合ではない。

 

 せっかくいただいた日配品を腐らせてしまえばもともこもない。

 

 宮城で待っているお客さまのところまで是が非でも届けなければならない。

 

「たびたび申し訳ありません。ガソリンがなくて困っています」

 

 素直に打ち明けた。

 

「なるほど、それはお困りでしょう。ちょっとお待ちください」

 

 しばらくたって、担当者の人から「ここを訪ねてください」と教えられたのは、T運送という耳慣れない会社だった。

 

 教えられた通り、訪ねていくと、すでに連絡をしてくれていたようで、快くガソリンをわけていただいた。

 

 ご厚意に甘えて、ガソリンを積めるだけ積んで、さて、帰ろうと、代金を払おうとすると、社長さんは、

 

「いえいえ、どうぞ持っていってください。被災地のためにがんばっているのに、料金なんていただけませんよ」

 

と、おっしゃるのだ。

 

 嬉しくて涙が出た。

 

 都内だってガソリン不足で困っている。

 

 その人たちにとっても貴重なガソリンのはずである。

 

 私の車にわけてもらったことで、ひょっとしたら、自社の便を犠牲にしないといけなかったかもしれない。

 

 日ごろからの貸し借りがあれば、ビジネス的に融通をきかせてくれることもあるだろうが、この時点で初対面である。

 

 東京と宮城だから、今後も取引する可能性は低いだろう。

 

 それでも、貴重なガソリンをわけてくれたのだ。

 

 情というのはガソリンより重い。

 

 私はいつかきっと、このときガソリンをわけてくれたあの社長さんに、この御恩のお返しをしようと誓った。

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