ファーストリテイリング2014年8月期上期決算発表 「経営編」

2014/04/12 08:00
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 ファーストリテイリング(山口県/柳井正会長兼社長)は、4月10日、2014年8月期上期決算を発表した(@ロイヤルパークホテル)。本日は、「経営編」と題して柳井氏の発言をまとめた(談:文責・千田直哉)。

 

 2014年の年初に我々が発したメッセージは、「Global is local , Local is global」というものだ。真のグローバル企業をめざしていきたい。

 2014年度の上期業績と通期予想は以下の通りである。

 

■2014年度8月期上期実績
 売上高   7643億円(対前期比24.3%増)
 営業利益  1032億円(同6.8%増)
 当期純利益 645億円(同1.4%減)

 

■2014年度8月期通期予想
 売上高   1兆3700億円(対前期比19.9%増)
 営業利益  1455億円(同9.5%増)
 当期純利益 880億円(同2.6%減)

 

 通期では3期連続の増収増益(営業利益)を予想する。

 

 概況を話すなら、海外ユニクロ事業の収益拡大が続いている。アジア地区では大量出店を継続し、グレーターチャイナ(中国、香港、台湾)、韓国、その他のアジアでの収益拡大が見込まれる。オセアニア地域にも出店していく。米国事業の赤字幅が大幅に縮小するとともに、欧州事業の拠点を拡大したい。

 

 国内ユニクロ事業は新しいステージに突入する。「地域正社員」を増加させることで個店経営を強化したい。

 国内では、2014年4月に消費税増税が実施された。ただ当社には、駆け込み需要はほとんどなく、4月以降の落ち込みもない。お客様に支持されているからであり、より生活に必要な服だと認識されているからだと思う。

 だから、対策としての値下げや値上げは考えておらず、できるだけいまの価格で売りたい。もっとも、同じ品質を維持して価格下げることは不可能だ。我々はよりよい商品をあらゆる人に提供する企業なので、付加価値や機能、素材やシルエットなどよりよい服を提供したい。

 

 ジーユー事業は引き続き、増収増益だ。順調な出店で事業を拡大する。2013年9月には上海に1号店をオープンさせ、海外進出も開始している。

 

 さて、現在、我々がめざしていることは7つある。

 1. ユニクロを真のグローバルブランドにする

 2. ファーストリテイリンググループを真のグローバル企業にする

 3. 海外ユニクロ事業をグループ成長の柱にする

 4. 国内ユニクロ事業の改革

 5. 第2の事業の柱、ジーユー事業のビジネス拡大を続ける

 6. 傘下のブランド(セオリー、コントワーデ・コトニエ、プリンセスタムタム、J Brand)をグローバルブランドにする

 7. 服のビジネスを通し、世界中でより良い、より豊かな生活に貢献できる企業になる

 

 中でも一番に言及しておきたいのが海外ユニクロ事業のさらなる拡大だ。現在、ユニクロはグローバル市場で最も注目されるブランドになっている。

 2014年上期の海外ユニクロ事業は、売上高で対前期比77.6%増、営業利益では75.1%増という結果になり、成長が加速している。

 近い将来には、海外ユニクロ事業の売上が国内ユニクロ事業の売上の数倍に達すると計画している。

 

 実際、グレーターチャイナ(中国、香港、台湾)、韓国、その他のアジア各国でも急成長を遂げている。

 2013年9月には、上海にユニクロ最大の売場面積を持つグローバル旗艦店をオープン。グレーターチャイナには、さらなる店舗網を拡大していきたい。

 2014年2月末現在、黒龍江省(4)、吉林省(4)、遼寧省(11)、天津市(6)、北京市(35)、山東省(9)、河北省(9)、江蘇省(22)、上海市(46)、安徽省(4)、浙江省(17)、山西省(1)、河南省(6)、湖北省(9)、江西省(2)、福建省(9)、広東省(広州、深セン30)、陜西省(6)、湖南省(4)、重慶市(9)、貴州省(2)、広西チワン族自治区(1)、四川省(13)、雲南省(4)、香港(22)、台湾(43)の合計325店舗を展開するに至っている(カッコ内は店舗数)。今年の8月末には374店舗になる予定だ。

 2014年3月28日には広州に超大型店をオープンした。売場面積は約1500坪。中国南地区における我々の巨艦店舗の位置づけだ。

 グレーターチャイナには年間80~100店舗を出店し、10年以内に1000店舗を目標。将来は3000店舗に拡大する。

 

 東南アジアとオセアニアでも出店を加速させる。2014年2月末現在、フィリピン(11)、タイ(14)、マレーシア(14)、シンガポール(16)、インドネシア(3)の合計58店舗を展開している(カッコ内は店舗数)。4月16日にはメルボルンにオーストラリア1号店をオープンする。今年8月末までにこのエリアには81店舗を展開する計画だ。

 

 米国では、本格的なチェーン展開をスタート。新しいステージに入った。米国市場でナンバーワンブランドをめざす。

 ラリー・マイヤーCEO(最高経営責任者)を中心とする米国人による経営チームを結成。2014年上期の赤字幅は、対前期比で大幅に縮小している。また、2013年秋冬の郊外型ショッピングモール内への出店は、短期間に利益が出るビジネスになっている。年間20~30店舗を出店し、東海岸と西海岸にそれぞれ100店舗規模のチェーン網を数年以内に築きたい。ボストン、フィラデルフィア、ロサンゼルスにもドミナントを構築する予定。2015年度か2016年度には、事業の黒字化を図りたい。

 

 トピックスとしては、3月28日に、ユニクロNY5番街店の2階を全面改装し、「SPRZ NY」ストアをオープンした。

「SPRZ NY」はSURPRISE NY(サプライズ・ニューヨーク)から来る造語で、「ニューヨークを驚かせよう」の意味になる。

 優れた現代美術を身近な服で表現し、楽しむことをコンセプトに、アンディー・ウォーホル、バスキア、キース・ヘリングといったニューヨークのポップアーティストと毎月2人から3人の新進気鋭のアーティスト及びMoMA(ニューヨーク近代美術館)との服を通じたコラボレーションをニューヨークから発信する。

 店内は日本の色である白、赤、黒を基調にし、ミニマリズムを表現した売場になっている。2階の壁面は長さが80mあるのだが、ここに美術館のアートのようにガラスの中にTシャツを入れる。その下には、ひとつずつ区切ったボックスを置き、Tシャツをきちんと入れた。

 NY5番街店内にはスターバックスコーヒーが出店。ユニクロとスターバックスとの初のコラボレーションが実現した。おいしいコーヒーを飲みながら、広々とした売場で美術を見るように服を見て買い物する。「SPRZ NY」のアートを楽しんでもらいたい。

 

 欧州のユニクロ事業は増収増益を達成した。業績が上向き、安定成長に入っている。2014年上期は英国、仏国、ロシアは大幅な増収増益だった。

 2014年4月11日には、ベルリンにドイツ1号店となるグローバル旗艦店を開業した。ベルリンは、東欧と西欧の中間点にあり、我々にとってはとても大事な店舗になる。

 また、2014年4月25日に、フランスパリのファッション発信地マレに出店する。マレ地区では専門店として最大の店舗。もともとここには研磨工場があって、店の真ん中には当時の煙突が残っている。内部造作には一切手を入れられなかったので、昔あるままのものをお店にした。天井は吹き抜けで、天窓があって、その非常に広い空間の中に店舗があって、中庭がある。非常にユニークなお店で我々はここを「ユニクロマレ店」と名づけ、特別のユニクロにしたいと考えている。

 

 また、フランスではパリのファッションアイコンであるイネス・ド・ラ・フレサンジュさんの商品を販売し、大人気で初日に完売した商品も多数あった。

 イネス・ド・ラ・フレサンジュさんは、フランスのブルジョアを代表する元祖スーパーモデルのような人物。シャネルやカールラガーフェルドと一緒に仕事をしてきて、ラグジュアリーの全てを知り尽くしている。その人が「ラグジュアリーの次に来るものは何か?」を考え、彼女のアイデアを生かして服をつくった。

 ユニクロとのコラボレーションは3月から開始し、ユニクロオペラ店では発売初日には、何時間もの長い行列ができるほどの人気だった。

 

 さて、国内ユニクロ事業については、改革するためにすべてを180度転換したい。

 その理由としては、「時代が変わった」ことが挙げられる。先行きが不安であり、国民は安定した生活を求めるようになっている。

 その中で「働き方を変える」ようになっている。日常生活で成長できる人生を求めるようになってきたのだ。

 そうした変化を受けて、「商売の仕組みを変え」ようと考えた。最高の人材を採用し、育成し、長期間働ける環境を整える。少数精鋭の組織が実現し、チームワークで仕事をしてもらい、個店の水準を引き上げていきたい。

 

 従来、国内ユニクロ事業は、チェーンストアとしてブランディングを行ってきた。だが、今後は、個店経営色を強くして、地域・個店でのブランディングを行い、地域密着型の店舗経営をめざしていく。

 その実現に向けては、「地域正社員」を登用し、売場スタッフと店長がブランドをつくる店に変えていく。

 

 いま働いているパート・アルバイト約3万人、地域限定社員約1400人のうち、我々の会社、ブランド、商売が好きな人たちを社員に登用。および新卒を採用し、また中途採用を通じ、「地域正社員」を広く募集する。そして「地域正社員」を主体とした店舗オペレーションを実施することで、地域に密着した経験豊富、優秀な人材の組織にしたい。

 

 これは現在、巷で言われている使う側の雇用を優先した限定正社員とは全く違うものである。待遇面では全て正社員と同じ、ただし勤務時間が異なるだけだ。人件費を節約するために正社員化するのではない。自分の働く店を“my Uniqlo” “our Uniqlo”と思える人に正社員になってもらい、チームワークで仕事をしてもらって、チーム効率で経営効率を上げていってもらいたい。

 

 企業は社員が主役じゃないといけない。私は、店長を主役にしたいと考えていた。店長を主役にすると、本部からの上意下達のような組織にはなる。

 しかし、本来は店長を中心で、すべての販売員が店舗の業務をすべて覚え、店長不在時には、店長の代行ができるような形であるべきだ。試合中のサッカーのチームのようなもので、プレー中の選手たちが考えて動く。それができる人たちをじっくり育成して、店の従業員全員がチームとして、店舗運営に当たっていける組織にしたいと考えている。

 

 政府の言う限定正社員は解雇しやすいものであり、我々は反対する。長期間雇用しない限り、販売員としての能力はアップしない。少なくても5年。できれば10年以上は、勤めてもらいたい。3年~5年で店長代行ができるようになってほしい。

 

 さて、我々は、通常のビジネスと社会貢献活動は、事業の両輪であると考えている。

 我々は、服のビジネスを通じて、世界中に貢献していきたい。

 そのためには、企業の精神そのものを買っていただき、企業として永続的に支持されることをめざす。

 

 現在の主なCSR活動は、以下の通りとなる。

 

 ・Clothes for Smilesプロジェクト:世界の未来ある子供たちに対する支援

 ・ユニクロ復興応援プロジェクト:NPO、NGOを通じて新しい事業創出の資金を援助

 ・全商品リサイクル活動:販売した服を店頭で回収して各国の難民キャンプに送る

 ・ソーシャルビジネス:ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌスさんとの小売ビジネス

 ・障害者雇用:1店舗1名以上の障害者を雇用し、健常者と一緒に働き行動してもらう

 ・生産工場における労働環境のモニタリングと環境保全活動:より強力に推進する

 

 最近のCSR活動は、2013年9月に250万人を超えるシリア難民への緊急支援を実施した。シリアは世界地図で位置を見る限り、温暖そうだが、冬は気温が氷点下まで下がる地域が多いので防寒対策が必要だ。そこで我々が「全商品リサイクル活動」で回収した服のうち防寒服を中心に寄贈した。UNHCRを通じて100万USドルを寄付。ユニセフを通して新品のヒートテック、ウルトラライトダウンをシリアの難民の子供たちに10万着(100万USドル)を寄贈した。

 2013年11月にはフィリピンには台風30号の深刻な被害に対する支援を実施。Tシャツ、下着類(230万円相当)の衣料とUNICEF(国連児童基金)を通じて1000万円を寄付した。

 2014年3月にはグラミンユニクロの7号店をオープンした。ソーシャルビジネスは順調に拡大している。

 2013年11月には「Clothes for Smilesプロジェクト」の一環として、プロテニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチ選手の財団と共同して難民センターで暮らすセルビアの子供たちが特設のユニクロの店舗で買い物体験。服を選び、着る喜びを伝えた。

 

 こうした活動を通じて、ファーストリテイリングは、服を変え、常識を変え、世界を変えていく、企業でありたいと考えている。
 

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