ジャパンミラクルを起こした! ネスレ日本のイノベーション経営

2013/03/08 00:00
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2012年度。スイス本社から「ジャパンミラクル」と賞賛されるほどの高業績を達成したネスレ日本(兵庫県/高岡浩三社長)。その背景にはイノベーションの推進があるという。「2013年 事業戦略発表会」(2013年3月6日@ネスカフェ原宿)での発言をまとめた。(談:文責・千田直哉)


 私は、副社長として1年間、コーヒー事業に関わったが、それ以前は10年以上、チョコレート畑だった。

 当時のチョコレートは予算もなく、利益率の低い商品だった。「キットカット」も例外ではなく、少しの利益しか計上できないビジネスだった。それまでは関連企業に経営を一任していたが、ネスレ日本本社に吸収合併するにあたって、「利益率を5倍にしろ」という命が下った。

 5倍ということになると現状の延長線には、打開の道はなく、従来型の普通の発想ではどうにもならなかった。

 それで他人と違うことをやりきらないといけない、と考えるに至った。

 従来の常識の延長線の中で手を打っても、新しい展望は拓けないから、単に製品の開発だけでなく、ありとあらゆるところにイノベーションを起こさねばならない。

 そこで社員には「他人とは違うことをやれ」と口を酸っぱくして言ってきた。何が正解かはわからない。でも他人と違うことをやることを抜きにすれば、成功の扉が開く確率は低くなってしまう。

 それは、単純に製品やマーケティングだけではなく、人事、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)、ファイナンスも一緒だ。ありとあらゆるところでイノベーションを実践しないと、厳しい日本市場では成長できないのである。

 

「キットカット」は、コンビニエンスストアの商品改廃の周期がスピードアップしている状況を鑑みて、「2ヶ月期間限定商品」と「受験キャンペーン」を駆使し、成功させることができた。

 

 こうした私の経験を踏まえ、一昨年は、個人のイノベーションをうまく引き出すために《イノベーションアワード》を制定した。

 日本や日本人は私も含めて、中学、高校と「他人と同じことをしていないとダメだ」と言われて教育されてきた。高度経済成長の中で、彼らの受け入れ先である企業は、総じて積みやすい立方体を求めていたからだ。

 だから社員に対して、社長の私が、他人と違うことをやれといっても、なかなかできない。

 

 日本人は、一般的に、いまあるモノやコトをちょっとよくするといったことを行うことは非常に上手だ。

 でも、大半が右に動く中で、自分一人が左に動くというのは劣等生のやるようなことと初めから考えてしまう。

 

 ところが、時代は大きく変わり、現在の社会では、それでは立ち行かない。

 だから、《イノベーションアワード》を制定して、役員から新入社員まで全員が1年に1回、企業をイノベートするアイデアを出し、自分でやってみて、成否を判断し、結果をレポートするという仕組みを設けた。

 

 最初の年の応募はわずか80人ほどだった。去年はやっと700人くらいになった。

 

 まだまだ全員にまで波及していないので、これをとにかく、派遣社員の方まで含め全員が出せるように持っていきたい。

 

 普通、この類の賞は、アイデアの段階で授けてしまうことが少なくないが、当社の場合は、アイデアだけではだめだ。それは、商品を倉庫に寝かせておくようなものであり、コストにしかならないからだ。アイデア-実践-結果精査はワンパッケージだ。

 成功事例も出てきた。2011年に東北地方の契約営業社員の女性が山形県の独立店の食品スーパー(SM)で行った取り組みを紹介したい。

 彼女が担当するSMに来店するお客さまの80%は高齢者だ。すると買い物に来て、一通り売場を回り、精算した後には、休んでお茶を飲みたくなる。でも年金暮らしなので300円~400円もお茶に出すにはもったいない。

 そこで彼女は提案した。家庭用インスタントコーヒーマシン「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」を売場内にショップインショップ形式で展開して、「ネスカフェカフェ」を設けたらどうかというアイデアだ。

 SM企業の本部と交渉して、「ネスカフェカフェ」を開店して、1杯100円で販売したところ。1日当たり、平日で60~70杯、土日は200杯売れるようになった。

 原材料はインスタントコーヒー(ネスカフェ ゴールドブレンド)で原価が低いのでSM側も結構儲かる。お客さまにはセルフサービスでコーヒーをいれていただき、お金を入れてもらう――。

 

 実は、ここでの取り組みをベースに、今、全国の小売店でこの形式の“試食”を提案しているところだ。

 

 SMで昔からやっている無料の試食販売はやめてしまって、有料で新製品の試食場をつくってみてはどうですか、というものだ。たとえば、「○○店では、200円で満腹になる」と評判になり、もっともっとたくさんのお客さまがSMに詰めかけるようになると思う。

 

 こうしたアイデアを思いつくことには方程式はないのだが、考え方の違った人間が沢山いる中に身を置くというのは大事なことだと思う。だから、女性社員や外国籍の社員もさらに増やしていきたい。たくさんの違った人たちが交わって意見を戦わせる環境をつくらないとなかなか新しい発想は出てこない。

 

 製品は売ってなんぼだ。そして、売るためには、アイデアを行動に移して、成否を判断しなければいけない。そこに必要なのがリーダーシップだ。

 だから、ネスレは従業員全員にリーダーシップを求めている。組織のトップだけではなく新入社員にまで求められている。そうじゃないと今の日本では通用しない。全社員のリーダーシップがあってこそ好業績の企業を達成できるものだと確信している。

 最後に、我々は2013年度で日本での創業100周年を迎える。

 経済産業省の記録では、外資として日本市場に参入して、1番長く営業している企業がネスレ日本だ。ネスレ日本は、外資系のグローパル企業でありながら、日本でしか商売ができない超ドメスティックな会社だ。

 20世紀に大成功を収めた日本型のビジネスモデルは少子高齢化、人口減少の中では機能しなくなってきている。

 そこからの打開を図るために、21世紀型の日本の経営を創造する必要がある。

 その実現に向けては色々な分野でイノベーションが必要だ。

 そして、今話してきたようなイノベーションを繰り返しながら、21世紀型のグローバル経営につながる日本型経営をつくりたい。


 

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