珠玉の一冊『ウォルマートの成功哲学 企業カルチャーの力』

2013/01/09 00:00
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 売上高4439億ドル(2012年度)、店舗数1万390(2012年8月末)――。
 世界最大の小売業であるウォルマートの強さの源泉とは何であろうか?

 店舗、出店、物流センター、トラック、コンピュータシステム、品揃え、商品開発、EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)、人材育成プログラム…どれも正解だろう。

 ただ、こうした戦略をコピーして、異なる企業にペースト(貼り付け)したとしても、きっとウォルマートと同じようには成長できないはずだ。

 ウォルマートには、これらを成功に転化することができる企業カルチャーがあるからだ。

 2012年12月13日にダイヤモンド社から刊行された『ウォルマートの成功哲学 企業カルチャーの力』(訳:徳岡晃一郎/金山亮:1800円)には、それが何であるのかが克明に綴られている。

 

 筆者は、ドン・ソーダクィスト。

 1980年にウォルマートに入社した後、いくつかのポストを経て、1988年に副会長兼COO(最高執行責任者)に就任。その後、1999年に上級副会長に就いたエグゼクティブだ。

 

 ウォルマートの企業カルチャーの礎というべきは、創業者であり、1992年に他界したサム・ウォルトンであることに違いない。

 

 筆者は、サムが将来を見通し「マクロ・ビジョン」を周囲の人間に分かりやすく伝えるだけでなく、今目の前で起きている小さなこと、小さいがために他の人が気づかない些細なことを見逃さない才能が備わっていたと回顧する。

 

 それについてはエピソードがある。

 

 ある日、筆者とサムは競合店舗の視察に出かける。欠品だらけの棚や空き箱の散らばる通路、汚れた床、従業員不在…筆者は早々に「ひどい店」と判断してしまう。

 しかし、なかなか戻って来なかったサムは、全く違う視点で同じ店舗を見ていた。

 たとえば、パンティー・ストッキングの棚だ。筆者が早々と最悪と決めつけ、ロクに見ることもしなかった棚をサムは「最高の売場だった」と称え、什器製造企業をメモしていた。ウォルマートの3倍に当たる12フィートで展開していたエスニック化粧品売場からは、ブランドの供給元を調べていた。

 筆者は、この時のショックと反省を踏まえ、「競合の店を訪れても、悪いところを探し回るのではなく、自分たちにとって勉強になることや、自分たちが参考に改善すべき点を探すようになった」と振り返る。

 

 サムの偉大さは、一代でウォルマートをつくりあげただけでなく、多くのアソシエイトとこうしたエピソードを積み重ねる中で、人を育て、自信を植えつけ、思想や信条の体系を打ち立て、永続可能な企業カルチャーを確立したことにある、と筆者は断言する。

 

 その企業カルチャーの基礎になっている価値観は、①誠実、②個人の尊重、③チームワーク、④コミュニケーション、⑤卓越性の追求、⑥自己責任、⑦信頼の7項目である。

 そして7項目の価値観と相まって会社の中で人々の思考と行動パターンを決定づけるウォルマートの信条とは、

・私たちは、すべての人を尊重します

・私たちは、お客様のために尽くします

・私たちは、常に最高を目指します

 という3点だ。

 

 ウォルマートは、これらにどのように生命力を吹き込み、企業カルチャーとして力強く根付かせてきたのか?

 実は、それこそがウォルマートの強さの本当の源泉なのである。

 

 近年読んだ流通図書の中では珠玉の一冊。ここから先は実際に本書を読んでいただきたい。
 

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