『チェーンストアエイジ』誌編集長から 新入社員のみなさんへ

2010/04/01 00:00
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 前略

 新入社員のみなさん。ご入社おめでとうございます。

 世は“就職・超超氷河期”と言われる厳しさ。みなさんの御苦労を察するにはあまりあります。

 さて、僭越ではありますが、みなさんの少し先輩として、ちょっとだけお話をしたいと思います。

 

 ひとつだけアドバイスをするなら、「いまのままの自分であってほしい」ということです。これは決して、進歩するなという意味ではありません。

 「いまの素人としての感性や発想を忘れないでほしい」という意味合いです。

 たとえば、ここでみなさんに「日本地図を描け」と宿題を出したとしましょう。みなさんはどんな日本地図を描きますか?

 たぶん上から順に、北海道―本州―四国―九州というような位置関係で書くのではないでしょうか?

 しかし、「上部=北」という不文律を知らない子供であれば、九州を3番目に位置づけるかもしれませんし、横から見た日本などという突拍子もない地図を描くかもしれません。

 しかも、いまや山崎直子さんをはじめ、日本人が続々と宇宙に飛翔する時代です。無重力で上下左右のない空間から彼女たちが現実に見る日本とは子供たちが描いた地図に案外近いのかもしれません。

 素人の感性や発想とはこういうことを言います。時に知識や教養は自由な発想を阻害するとも換言できるでしょう。

 ベテラン社員に負けないみなさんの強さは「何も知らないこと」だと思います。“無限後退”という言葉がある通り、人間は学べば学ぶほど逆に失っていくものも多いものなのです。

 

 そして、これからみなさんが足を踏み入れる流通業界は、これから激動の時代を迎えようとしています。

 日本リテイリングセンターの渥美俊一チーフコンサルタントは、「2010年代は未曽有の熾烈な競争の時代」と断言し、生存権を賭けた苛烈な斗かいの季節(=潰し合いの時代)と位置付けています。

 確かに、百貨店業界、GMS(総合スーパー)業界、SM(食品スーパー)業界、ドラッグストア業界、ホームセンター業界、コンビニエンスストア業界、専門店業界など、ほとんどの業界は寡占化に向かう一方でオーバーストアの状態にあります。それにともない、これらフォーマットの業際はなくなり、垣根を超えた大競争時代に突入しています。

 ここにインターネットを介した商売が生み出され、流通業界はますます混とんとしてきました。

 さらには、ユニクロ(山口県/柳井正会長)、ニトリ(北海道/似鳥昭雄社長)、良品計画(東京都/金井政明社長)など、どのフォーマットにも属さない、自社でゲームのルールづくりをする企業も続々と現れてきました。

 日本市場は流通外資からの強烈な攻勢も受けています。ウォルマート(米)、テスコ(英)、メトロ(独)、コストコホールセール(米)など、世界の小売業ランキングのトップ10に位置する企業が続々と参入を果たし、消費者から支持を集め始めています。

 

 このように競争は激化の一途をたどる一方ですが、日本市場の内需量の減少は目に見えています。少子高齢化の進展で、日本国民の胃袋の容量や居住面積は縮小の一途をたどっていくからです。

 それだけではありません。海外での日本食ブームや中国富裕層の食の高級化が相まって、新興国と日本との食糧争奪戦はいっそう熾烈を極めることが予想されています。一部では、新興国に“買い負け”る現象も起こっています

 たとえば、ワシントン条約締約国会議の議題となっている大西洋・地中海産クロマグロの国際取引禁止が今後決定するようなことがあれば、中国などの新興国との間でマグロ争奪戦がさらに激化することになりかねません。ぼやぼやしていると、早晩、私たちの口にもマグロは入らなくなってしまいます。

 このように競争環境や競争与件は、大きく変化しているのです。

 そのなかにおいては、経験的方法論が全く通用しない可能性があるわけです。過去の延長線上に明日の流通業の姿はないかもしれません。

 実は、みなさんに「いまのままでいてほしい」とお願いした理由はここにあります。

 このような時代の中では、経験的手法を駆使する傾向の強いベテラン社員の方よりもみなさんの方が鋭い発想を持ちえることもあると考えます。

 だから入社後は、思いつきでもかまいませんのでどんどん意見を出してみたらどうでしょうか?

 ただし、勉強もしなければいけませんし、礼儀にも注意しなければいけません。新入社員なのですから――。

 

 さて、私が編集長を務める『チェーンストアエイジ』誌2010年4月1日号(本日発売)では、現役経営者の方々から、みなさんに向けてのメッセージをいただきました。1人3ページで9人の経営者が登場しますので、結構な分量であり、読み応えがあると思います。1日1人くらいのペースで読んでいくのもひとつの方法でしょう。

 9人の方に共通しているのは、どの方のビジネスライフも、常に順境にあったわけではないということです。

 金策に苦しみ自殺を真剣に考えた人、学生運動での逮捕がネックになって本意の企業に就職できなかった人、出店を巡って脅迫され死の境地を味わった人などさまざまです。

 でも、9人の経営者の方々は、そこから見事に立て直しを図り、現在は経営者として立派に企業を牽引しています。

 その過程でどんなことを考え、どんなことをしてきたのか、その結果はどうだったのか、ということを以下では縷々語っていただいております。新入社員のみなさんにとって、とても価値のある情報であるとともに、励まされること請け合いです。

 

 実は、この特集は、みなさんだけではなく、ベテラン社員の方々にも読んでいただきたいと考え企画しています。

 ひとつには、自分がフレッシュだった時代を思い起こしてほしいという意味合い。ふたつには、長くなったビジネスライフのなかで、方向性を見失った方々の羅針盤になれればという意味合いがあります。

 いまは経営者である方々も、若いころ、中堅のころ、そして経営者になってからも失敗の連続です。

 いま悩まれているベテラン社員のみなさんの励みになること請け合いです。

 

 そして、われわれと一緒になって、流通業界を盛りたてていこうではありませんか!まずは、大いに暴れてみてください。

 最後に、早く仕事に慣れることを願うとともにみなさんの健康をお祈りしながら、筆を置かせていただきたいと思います。草々                 

 

 2010年4月1日 『チェーンストアエイジ』誌編集長 千田直哉

 (『チェーンストアエイジ』誌2010年4月1日号 特集「明日に架ける言葉」 カバーストーリー)

 

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