食品スーパーの業界展望とアークスの流儀

2012/01/19 18:16
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社団法人日本セルフ・サービス協会会長、株式会社アークス代表取締役社長 横山 清氏

 アークスの創業は1961年10月でまもなく創業50周年となる。現在は、共同持株会社として北海道内の食品スーパー7社など合計10社を傘下に収めている。2009年10月には東急電鉄グループの札幌東急ストアを完全子会社化し、東光ストアとしている。これにより札幌市内でのシェアは30%となり、次はどうやって50%に持っていくかを思案している段階である。

 

 実は東光ストアを設立して全28店舗の看板を取り替えるのに3〜4億円かかる試算があった。それを東急ストアの字体を生かして「急」を「光」に替え、シンボルマークも少し変更しただけにとどめたので、試算の概ね10分の1の費用で済んだ。東光ストアは東急ストアの前身という理由もあり、そこは頭を少し使って経費削減につなげたわけだ。

 

 アークスの特徴は「八ヶ岳連峰経営」である。アークスを持株会社として傘下には食品スーパー7社があり各地域でドミナント展開している。店舗数では200店舗ある。もともと八ヶ岳連峰経営を打ち出したのはアサヒビールの社長、会長を務め経団連副会長でもあった樋口廣太郎氏であり、それをキャッチフレーズとして実践したというわけだ。八ヶ岳は富士山のように最高峰ではないが、2000m級の峰々を持つ。富士山型が縦の経営ならば、アークス傘下の企業がそのひとつひとつの峰となってドミナントエリアを制覇していく。それが一体となって八ヶ岳連峰を成すというビジョンを掲げているのである。

 

 国内は景気低迷が長引いており、とくに北海道経済の低迷は著しい。このため道内の流通業界も生き残り競争になっている。流通業界の中でも百貨店の凋落が激しいが、北海道をみても92年には5560億円の年間売上があったものが、08年度には2650億円と半減以下になっている。また、北海道に進出したGMSの売上もピークに比べて半減している状況だ。当初、進出してきた大手流通企業の中にはすでに破たんした企業もある。

 

 流通業界でも大きな再編の波が起きている。アークスが札幌東急ストアを買収したのも、そうした波のひとつであり、業界全体を見ても2009年8月に日本セルフ・サービス協会と全国スーパーマーケット協会が合併した。これにより食品スーパー約480社約8000店、売上規模では約11兆円という巨大な組織が誕生したことになる。会長は私が務め、副会長には紀ノ國屋の増井徳太郎相談役、名誉会長にはライフコーポレーションの清水信次会長兼CEOが就任している。その後、紀ノ國屋が4月1日付でJR東日本グループの傘下に入ることになった。

 

 そうした大きな変化が起きている中で、変化に対応していくだけでは結局、後追いになるだけであり、アークスとしては変化を先取りする形で我々自身が変化を続けなければならないと考えている。「商人道とは」という先輩たちの教えをないがしろにするわけではないが、そうした枠に当てはめる時代ではなくなった。また、「チェーンストアはかくあるべし」というような教条主義に陥ってなかなか抜け出せず迷路を彷徨っているケースも見受けられる。今の時代に必要なのは、常に変化を先取りしていくことであり、それが生き残り策だと考えている。北海道も人口減少が始まっており、札幌市の高齢化比率も20%になった。こうした時代にあって、「次の一手」だけでなく「さらにもう一手」を考えていかなければならないと考えている。

 

 そこでキーワードとして打ち出しているのが「創発」と「羽化」。創発とは進化論の中で選考する諸条件によって予見説明したりすることにできない新しい事態の発生や進化を遂げるという意味。一つひとつの小さな行動が相互に影響し合うことで臨界点に達するという場合にも使われている。泥の中から出てきたヤゴがトンボに、アオムシが蝶に変身したりするのが羽化である。アークスグループの社員一人ひとりの行動が影響し合って、きれいな蝶になって飛び立つというイメージを持って、アークスグループで「創発」と「羽化」を実現したいと考えている。

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