ホーム   特集&連載    DRMオンライン・オリジナル    知る人ぞ知る 新鮮食べ物情報 
記事タイトルバナー

第14回

2016年1月12日

第14回 JGAP取得農園を見てみよう

前回ご紹介した、安全な農産物の認証制度「JGAP」。今回はその実践例をご紹介したい。

 

JGAPの規格づくりに協力

 

 静岡県島田市の「農業生産法人 株式会社ハラダ製茶農園」は、自社農園でJGAPを取得し、親会社のハラダ製茶株式会社では取引関係にある茶農家のJGAP取得を支援している。

 

 茶農家は一般の農家とは異なるところがある。ほとんどの農家は作物の栽培だけを行っているが、茶農家は生産組合を作って工場を建設、その工場で最初の加工を行い「荒茶」への加工までを行うのが一般的だ。言うなれば農業と食品加工業の両方の側面を持っている。

 

茶葉が荒茶に加工されるまで。一連の工程で茶葉の重量は1/5程度になる。

 

 ハラダ製茶農園は自社農園での栽培と自社工場における荒茶への加工を行う一方で、契約した農家から茶葉を買い取り加工も行っている。したがって、「JGAPを実践する農業者」「JGAP農産物を買い取る加工流通業者」の両方の視点を持っている。

 

 製造した荒茶は親会社であるハラダ製茶株式会社へと出荷され、主にOEM製品となって市場に流通している。今回はハラダ製茶本社の品質管理室室長である田實菜穂子氏に、ハラダ製茶農園金谷工場において取材に応じていただいた。

 

―JGAPを導入したのはどういった経緯だったのでしょうか?

 

田實 2007年に当時の社長が弊社の屋久島農場にGAPを導入することを決めたのですが、その頃JGAPにはまだ茶についての規格がなく、GLOBAL G.A.P.※1の認証に向けた準備を進めていたところ、日本GAP協会が茶の規格づくりに取り組まれ、弊社も協力をさせていただきました。翌2008年にGLOBAL G.A.P.とJGAPの両方を屋久島農場が取得。2009年には静岡のハラダ製茶農園でGLOBAL G.A.P.とJGAPのグループ認証を取得しています。

 

 その後は弊社と取引関係にある茶園や荒茶工場にJGAPを広める活動を行っています。現在までに、ハラダ製茶農園の自社農園および会員農家※2の圃場でJGAP認証を受けた面積は220haとなっています。さらに、全国の協力荒茶工場におけるJGAP取得面積は2,437haにのぼります。

 

※1:GLOBAL G.A.P.:ヨーロッパを中心に世界113カ国で認証・取得されているGAP。
※2 会員農家:収穫した茶葉の全量をハラダ製茶農園に出荷している農家。

 

いちばん重要なのはリスク分析

 

―JGAPの導入にあたって、どのようなことが必要となるのでしょうか?

 

田實 いちばん重要なのはリスク分析です。食品安全・環境保全・労働安全の3つを主な観点に、生産現場と生産工程のリスクを分析して、それに基づいて管理基準を決めていきます。

 

 弊社ではリスク調査チームが収穫される全ての圃場を年1回の頻度で訪問、リスクの確認を行っています。農薬の使い方を間違えていないか、農場での異物混入はないか、水や土壌は安全か、農作業にどんな危険が潜んでいるのか…それらの1つ1つを丁寧に調査します。

 

 ほかの作物と異なり、お茶は工場での荒茶の製造工程にも目を光らせる必要があります。工場からの異物混入はないか、手洗いや機械の掃除などの衛生面に問題はないか等、工場にも様々なリスクがあります。

 

 時折『要はチェックをすればいいんでしょ』と言う人がいますが、それは違います。リスクをしっかりと検討したうえで、事故が起こらないように運営するのがJGAPです。システムを作ったけれども、それを知っている人と知らない人がいるのでは意味がありません。ベース部分となるマニュアルを作り、生産者に教育訓練を行って、内部監査を行って、できていない点があれば直してもらう、という手順が必要です。

 

―リスクとして一番大きいのは何でしょうか?

 

田實 一番リスクが大きいのはやはり農薬です。作物に指定外の農薬を使用したり、過剰に散布したりと『正しくない』形で農薬を使ってしまうリスクだけでなく、他の圃場で栽培されている農作物に農薬が飛散するリスクも考慮しなければなりません。『受けるリスク』と『与えるリスク』の両方を考慮する必要があるのです。

 

金谷工場の敷地内にある農薬倉庫と、農薬希釈用の水タンク(右)
農薬の出入りは厳密に管理され、誤使用がないよう指導している。

 農薬に関するリスクを可能な限り小さくするため、現在は会員農家さんの農薬についてはこの金谷工場の倉庫で保管し、この工場の敷地内で農薬の希釈を行うよう指導しています。どの農家さんがいつどの農薬を使ったのか全て記録していますから、期限切れの農薬を使うようなこともありませんし、複数の農薬を散布した際に成分が重複してしまう危険性も防げます。これほど厳密な農薬管理を行っている企業は、製茶業界でも他に例がないでしょう。

 

 

JGAP取得が取引先としての信頼感を高める

 

 

―JGAPを導入したことで、どのような変化がありましたか?

 

田實 JGAPの要求事項は、すでに弊社では導入済みのものばかりでしたので、弊社の中では大きな変化はありませんでした。JGAPとは決して難しいことを要求するものではありません。多くの農家がしっかりやっている基本的な事項、法律を守るだけでも問題ないような事項を洗いざらいやるのがJGAPです。

 

 一方で、契約農家から茶葉を買い取る「買い手」としては、「JGAPを取得した取引先は安心できる」と感じています。弊社は協同組合ではありませんから、生産農家さんとは基本的に「茶葉を買い付ける」だけの関係でした。しかしJGAPの導入以降は、農薬・肥料・栽培技術・衛生管理などの勉強会を行って意識向上をはかると共に、各農家を内部監査チームが回って年1回の内部監査を行っています。

 

 これにより、農家さんとのコミュニケーションが大幅に取りやすくなりました。『ここの農家ではこういう履歴をとっているはずだ』『勉強会に参加している』『常に農薬の最新情報を勉強しているだろう』という安心感、信頼があるわけです。弊社は取引先の信頼を得るためにISO9001やFSSC22000も取得していますが、そのISO9001やFSSC22000を行うことによる信頼性が、農家さんにも降りていく感じ、と言えばお分かりいただけるでしょうか。

 

 農家さんからは、JGAPの『体系だっている』点が評価されています。弊社では生産記録を取るために、JGAPの要求事項を網羅した農作業管理マニュアルを作成し、会員農家に配布しています。農業という仕事は職人気質なところがありますから、手順を体系的に整理して文書化する、というようなことはあまり行われてきませんでした。JGAPの導入によってそれらが文書化されたので、後継者に仕事の内容を伝えやすくなった、といった声が聞かれます。

 

―JGAPは売上に貢献できるのでしょうか?

 

田實 ハラダ製茶農園はハラダ製茶にしか茶葉を出荷していませんから、JGAPを取ったからといって売上が変化する事はありません。そもそもの前提として、「JGAPを取ったから売上が上がる」という考えは大きな誤りです。

 

 お茶に対するお客さんの要求事項は色々ありますが、最も重要なのは美味しいこと、つまり品質です。お茶の値段を決めるのは品質なのです。JGAPは品質の規格ではありませんから、直接的に品質=価格を高めてはくれません。「JGAPを取ったから売れる」という効果は期待しないほうが良いでしょう。

 

 しかしものはやりようですから、例えば「JGAPを上手く利用して品質を高める」ことは可能だと考えます。またJGAPの取得により、グループ内の団結力が強化され、お客さんからの注文に対応しやすくなる、といった影響はあるのではないかと考えます。

―今後はJGAPについてどのような展開を考えておりますでしょうか?

 

田實 弊社と取引のある主な生産者にJGAPを広める活動は、おおかた落ち着いてきました。今は新たにJGAPを取得しようと考えている農家さんに若手社員を送り込み、マニュアル作りを支援する活動に力を入れていきます。また、JGAP取得を目指すお茶農家さんへの入門書として「JGAP実践の手引き」という書籍も発行しており、ますます多くのお茶農家さんにJGAPを広めていきたいと考えています。

 

 飲み物の種類が多様化した今日、茶価は年々下落の一途をたどっており、全国のお茶農家さんはどこも厳しい経営を強いられています。製茶会社であるハラダ製茶としても、なんとか農家さんを支援できないかと様々な試みを行っており、その1つとしてJGAPを位置づけています。JGAPは売上に直結する存在ではありませんが、売るための「弾」は1つでも多く持っていたほうが良いと考えています。

Special topics